MEMS-IGZOディスプレイの特徴は、低消費電力、高色純度/高色再現性、表示コンテンツによる消費電力の最適化が可能、耐環境性能の4つである。このうち、低消費電力については、従来の液晶が、バックライトからの光を2枚の偏光板やカラーフィルタ、液晶、TFT基板、さまざまな光学フィルムなどを通すことによって映像を表示しているため、バックライトの光を100%とすると目に届くのは5%程度なのに対し、MEMSディスプレイは、スリットとMEMSシャッター、TFT基板のみとデバイス構造がシンプルであり、液晶に比べて2~3倍高い光学効率が実現するため、低消費電力化できるとしている。

MEMS-IGZOはバックライトの消費電力を大幅に低減

色に関しては、液晶は色再現性と消費電力はトレードオフの関係にある。MEMS-IGZOはカラーフィルタを介さず、RGB3色LEDをバックライト光源に利用していることから、低消費電力と同時に高い色純度とNTSC比120%の高い色再現性を実現できる。

RGB3色LEDをバックライト光源に採用することでNTSC比120%を実現

また、MEMS-IGZOは、表示コンテンツに応じて消費電力を最適化できる。デモでは、"鮮やか"、"標準"、"省電力"の3つのカラーモード、および"モノクロ"で映像を表示させていた。"鮮やか"はMEMSシャッターを高速に動かすモードで、色数が多く、色再現性に優れている分、消費電力が大きい。これに対し、"省電力"はシャッターの動きを遅くする分、色数が限られてしまうが、消費電力は低い。また、"モノクロ"で、テキストデータのような動きがない映像を扱う場合にはさらに低消費電力化できるという。

MEMS-IGZOディスプレイはコンテンツに応じて消費電力を最適化できる

モノクロ表示したMEMS-IGZOディスプレイ

さらに、耐環境性能にも優れている。外光の強い屋外でも高コントラストで鮮やかな映像が表示できるのに加え、動作温度範囲は-30℃~+90℃と広く、高温環境においても鮮明かつ色再現性の高い表示が可能、さらに極低温下でも動画ボケのない表示を実現できる。代表取締役 専務執行役員 デバイスビジネスグループ担当の方志教和氏は「電子機器に搭載されるデバイスの中でも、耐環境性能が弱いのがディスプレイだった。MEMS-IGZOディスプレイなら、この課題を解消できる」と特徴をアピールした。

外光相当の明るさの下、(右)MEMS-IGZOディスプレイと(左)液晶ディスプレイの画質を比較する展示が行われた。MEMS-IGZOディスプレイは輝度が1500cd/m2であり、鮮明に見える。最大2000cd/m2まで高めることが可能である。これに対し、液晶ディスプレイの輝度は400cd/m2

低温環境下での動画テスト。(左)MEMS-IGZOディスプレイと(右)液晶ディスプレイ。MEMSは文字がはっきり見えるが、液晶は尾を引いてボケている

この他、製造面においても、既存の液晶ラインがそのまま活用でき、追加する設備が少なくて済むほか、第8世代(G8:2160×2460mm)の亀山第2工場(三重県)のような大型ラインへの転用も可能である。なお、今回公開された試作品は、米子工場(鳥取県)の第2.5世代(G2.5:405×515mm)ラインを用いて製造された。

今後は、タブレットをはじめとした電子機器や車載向けなど、耐環境性能が生きる分野に向けて、サンプル出荷を年内に開始する予定。そして、量産技術の確立や製造コストの低減が見込める段階にきた後、2017年ころから本格的な量産を開始する計画という。ディスプレイ開発本部 副本部長 兼 デバイス技術開発センター 所長の伴厚志氏は「すでに、液晶で培った技術によって、大きな課題は解決されている。今後は、MEMS特有の課題や液晶と同等のスペックを目指して、さらなる性能向上に取り組んでいきたい」とコメントしている。