--:また話をウミガメに戻させてもらいますが、あの産卵はすごいですよね。1回のシーズンで多い時は1匹が最大で8回も上陸して産卵してということで、しかも毎回毎回命がけ。当然、海に戻れなくて干上がって死んでしまうのもいるわけですが、それがまた別の大型の捕食タイプの魚のエサになる。バリバリ食べられてしまうシーンはなかなか衝撃的ですが、命の循環というものを感じられる素晴らしいシーンでした

ブリッケル氏:本当にすごいですよね。自然界でも、あれだけタフな産卵・出産というのは見たことがないです。ウミガメはヒレや体型が完全に水中に適した形になってしまっているので、そこへもってきて体重が80~90kgもあるから、ヒレだけで陸上を移動しなければならないというのは本当に過酷なことなんです。

また、中にはあまりにもハードすぎてお見せできないシーンもありました。生き埋めになってしまったり、ひっくり返ったまま死んでしまったり。それでも、今回はウミガメが海に帰れずに死んでいくシーンを結構収録しましたが、こういう場面における編集のバランスの取り方は大変難しくて、真実をありのままに見せたいけれど、視聴者が動揺したり不快になったりするほどあまりにも過酷なものまでは見せる必要がないわけでして、そのバランスの取り方はすごく難しいと感じましたね。

--:カメは日本の有名な昔話に出ているからか、日本人には大なり小なり好かれている動物だと思います。自分もどちらかというと嫌いじゃないので、それが力尽きて死んでいくところや、食べられてしまうところは結構衝撃的です。それにしても、産卵は大変だなと改めて感じました。うちも子どもが4人いるのですが、その都度、出産は大変だったろうと改めて感謝しました(笑)。ちなみにメスばっかりに苦労している感じですけど、オスはその時、何をやってるんですかね(笑)

ブリッケル氏:オスは島の周りを泳いでいて、メスが上陸前に交尾して、また戻ってきたら交尾してという具合で待っているだけですね(笑)。まぁ、人間界と同じといいますか(笑)。

--:なるほど(笑)。人間も、女性はまさに生命エネルギーを削るようにして出産していますが、男性は出産の準備の手伝いはできても、出産そのものが始まってしまったら、あまりできることはないですもんね。ウロウロと歩き回ったりとか(笑)。自分も長女の出産には立ち会って妻の憔悴ぶりは今でも覚えてますが、同時に応援するぐらいしかできなかった自分の役立たずぶりも覚えてます。本当に命がけで、何かあったら現代の医学をもってしても亡くなる方がいるのもわかりますね

ブリッケル氏:これ以上話すと、女性の方と口論になりそうなのでやめておきます(笑)。

--:帰ったら、妻にいつもありがとうと感謝しておきます(笑)

ブリッケル氏:あと、カメでなくてよかったね、と教えて上げてください(笑)。

--:1回の産卵で、どのぐらいがウミガメが死んでしまうのでしょうか

ブリッケル氏:そうですね。自分が滞在していた時の様子では、1万匹につき150匹ぐらいは死んでいましたね。それでもまだ良い方だと思います。ちなみに、レイン島への2万6000匹の上陸という世界記録の時の様子を今回は撮影してますが、ウミガメはみんながみんな、しっかりと産卵ができているわけではないんですよ。2万6000匹に対してレイン島の面積が狭いので、混雑度が高すぎて、せっかく産卵された卵がほかのウミガメが産卵のために穴を掘る際にヒレで砂をかいた時に砂上にほじくり出されてしまうといったこともあります。

--:確かに映像で観ていて、レイン島にウミガメが大量に上陸した時は、朝のラッシュアワーに近いものがありましたね

ブリッケル氏:それに、産卵するウミガメが多ければ多いほど、捕食者の鳥も同じようにより多く集まってきますから、赤ちゃんが孵った時に、それだけ多くが食べられてしまうということになります。ですので、最適な数は2万6000匹よりも少ないと思います。

--:鳥たちがウミガメの赤ちゃんをエサにすることは知っていましたが、先に卵から孵って海に向かったウミガメの赤ちゃんたちが鳥たちに食べられることで、第2陣の赤ちゃんたちは満腹になった鳥たちに見逃してもらえるわけですよね。この仲間をおとりにする仕組みには、自然界の厳しさを感じましたし、同時にその仕組みのすごさに驚きました。それでは最後になりますが、視聴者の方に向けて、どこを最も観ていただきたいか、改めてひと言お願いします

ブリッケル氏:生命のつながりをぜひ観てほしいですね。

--:ありがとうございました。

ブリッケル氏(右)とカメラマンのローリー・マクギネス氏。(c) 2012 BBC Worldwide Ltd.

以上、オーストラリアに1年間家族と共に住み込んで、グレート・バリア・リーフをみっちり取材してきたジェームズ・ブリッケル氏のインタビュー、いかがだっただろうか。潜ったことのない筆者にとってのグレート・バリア・リーフというと、「とてもきれいな海の楽園」的なものだったのだが、実際に3話すべてを観て、またブリッケル氏に話を聞いて、舞台は天国だけど大戦争が行われている生き地獄でもあるような、ただきれいなだけではない、過酷な海域であるという感想を持った次第だ。

また、今回はあまり伺えなかったが、こんな美しいグレート・バリア・リーフも環境問題に直面しており、そうしたことも映像では淡々と事実をありのままに見せてくれる。「あぁ、きれいだなぁ、すごい魚がいるなぁ、キモいのもいるなぁ」だけでは終わらないのが「グレート・バリア・リーフ BBCオリジナル版」だ。価格は、ブルーレイ版は5980円、DVD版は4980円。どちらも全3話が収録され、映像特典やギャラリーなども用意されている。ぜひこれを読んでくれた読者の方々も、この映像を観て、グレート・バリア・リーフのすごさを体感し、楽しむと同時にいろいろと考えてみてほしい。