2か年に渡って行われたWプロジェクトは、初年度となる2007年度は、「タブレットPCの活用による基礎学力の向上」を目指したほか、2008年度の取り組みでは基礎学力向上に加えて、「各教科でのICT活用」を研究テーマに掲げた。

2007年10月から1300台のタブレットPCを導入し、習得向けソフトとして小学館手書きデジタル学習システムを、活用・探究用ソフトとしてOneNote、エンカルタを導入した。

和歌山市では、プロジェクトの開始にあわせて、Wプロジェクト研究チームを発足。研究協力実践校4校の教員を研究所員に、さらに指導主事1人を加えた5人体制で構成し、和歌山市教育委員会を通じて、小学校長会、小学校教頭会、情報教育担当者会、各教科等研究会のほか、各学校に対して、活用指示、情報伝達を行う体制としたほか、和歌山市教育委員会とマイクロソフトが推進するNEXTプロジェクトとの連動によって、全国の関係者や有識者と共同で、研究および研究実践指導を行えるようにした。 また、研究所員は「伝える活動を重視した社会科教育におけるタブレットPCの活用」、「表現を共有し、互いに学びあえる場の学習効果」といった研究テーマをそれぞれに持ち、ICTを活用した教育に取り組んだという。

Wプロジェクトへの取り組み体制

和歌山市立教育研究所の専門教育監補 寺下清氏

和歌山市立教育研究所の専門教育監補 寺下清氏は、「タブレットPCを導入したのは、手書き入力の有効性に注目したもの。基礎学力の向上や、思考、判断、表現力の育成に効果を期待した。また、研究所員による先進的な研究、研究協力実践校による活用の研究、市全体での基礎学力向上への活用研究といった点での取り組みも、効果につながったといえる」とした。

NEXTプロジェクトに参加している東京工業大学の清水康敬名誉教授は、「和歌山市は、全市をあげて取り組んだという点で、我々としても成果をきっちりと示す必要があった。結果として、タブレットPCの活用は教育に大きなメリットがあることが実証できた」とする。

東京工業大学の清水康敬名誉教授

清水名誉教授は、「全国の教員の協力を得て実施した客観テストでは、1%水準で有意にICT活用が高く、意識調査の結果でも、思考・表現、知識・理解、関心・意欲において、同じく1%水準で有意に高いという結果が出た。また、97.3%の教員がICT活用による学力向上を実感している」と切り出した。

「1%水準で有意」とは、100回調査した結果、99回以上で成果が出ていることを示したものだ。

そして、和歌山市の活用実績をもとに、漢字学習に関して児童を対象に調査したところ、「漢字の学習が好きである」、「漢字の学習が得意な方である」とする回答が、タブレットPCを使った漢字指導授業の回数が増加するたびに高まっていく傾向が見られた。

タブレットPC活用の効果

「2回目の授業では、一時的に評価が減少するというのはよくある結果。だが、回を重ねるごとに意欲や効果があがっているのは、世界的に見ても過去に例がない傾向だといえる」(清水名誉教授)と分析した。

学習意欲も回を追うごとに増加

また、「学習が楽しい」、「繰り返し学習するのに便利」、「漢字の間違いが減る」、「もっと学習したい」、「漢字を覚えるスピードがあがる」などの設問でも、同様に、タブレットPCを使った漢字指導授業の回数が増加するたびに、効果が高まっていくという傾向が明らかになった。

 一方で、教員への調査でも、タブレットPCを使った授業を実施した回数が多い教員のほうが、ICT活用指導力が向上していることがわかったという。

これらの結果から清水名誉教授は、「タブレットPCを使った授業を実施することが、重要である」とし、一般的なPC導入よりも、タブレットPCによる導入成果を強調した。

Windows7では、タブレットPC機能が搭載されることから、それを生かした教育現場への利用提案の足がかりになる可能性もあるだろう。そうした点でも、意味のある導入成果だったといえよう。