Gordon Bell賞は、DECにおいて初期のPDPシリーズのマシンを設計したGordon Bell氏の名前を冠した賞で、大規模計算で、かつ学術的意義の高い計算を行った論文に対して与えられる賞であり、スパコン界では、もっとも高い栄誉の論文賞である。この賞は、毎年SCにおいて授与されており、今年のGordon Bell賞の候補は以下の4つの論文である。

  1. A 281 Tflops Calculation for X-ray Protein Structure Analysis with the Special-Purpose Computer MDGRAPE-3
  2. First-Principles Calculations of Large-Scale Semiconductor Systems on the Earth Simulator
  3. Extending Stability Beyond CPU-Millennium: Micron-Scale Atomistic Simulation of Kelvin-Helmholtz Instability
  4. WRF Nature Run

最初の論文は、理研と名古屋大学などの研究者の共著の論文で、たんぱく質の原子配置構造を求めるための計算に関するものである。まず、適当に仮定した初期配置のX線回折像を計算で求め、実際に観測したX線回折像との違いを小さくするように、遺伝子アルゴリズムなどを使って仮定した配置の改善を繰り返し、誤差が最小になれば、それが求める原子配置であるとする。この計算を分子動力学計算の専用機である理研のMDGRAPE-3を使って行い、281TFlopsの性能を実現した。

二番目の論文も日本の論文で、文部科学省のプロジェクトで開発したPHASEという第一原理計算ソフトを地球シミュレータ向きにチューニングを行い、シリコンの中にAs(砒素)の原子をドナーとして1個入れた場合のエネルギー準位を求めるという計算を行った。6nm角という従来よりも大きなシリコンを扱うことにより、実測と良く一致する結果が得られたという。計算性能は、擬ポテンシャル積の部分は23.8TFlops、その他の部分は11.6~13.6TFlops程度の性能が得られたと報告された。なお、この論文は物性研、東邦大、東大、NEC、アドバンスソフトなどの研究者の共著である。

三番目の論文は、Lawrence Berkeley国立研究所(LBNL)、Lawrence Livermore国立研究所(LLNL)、IBMの研究者の共著の論文である。今回のTop500で1位となったBG/Lシステムを用いて、流速の異なる二種類の液体の界面で発生するKelvin-Helmholtz不安定性という現象をシミュレーションしている。膨大な計算であり、1個のCPUコアで計算すると1000年以上かかる。(但し、このシステムは212992コアであるので、実計算時間は40時間程度である。) しかし、1000CPUコア年の計算となると、宇宙線由来の中性子による1次キャッシュのSRAMのエラーが無視できない。そこでIBMの協力を得て、1次キャッシュへの書き込み内容をECC付きの3次キャッシュにも同時に書き込むという改造と、1次キャッシュのエラーが検出された場合には、アプリケーションレベルのエラーハンドラに飛ぶという機能を追加している。これにより計算中に79回発生した1次キャッシュのエラーから回復して計算を続行できたという。この計算で実現された性能は、103.9TFlopsである。

最後の論文は、WRFという気象コードをNature Runという一連の条件で流して高精度の気象計算を行うという論文で、University Consortium of Atmospheric Research、San Diego Supercomputer Center、LLNL、IBMの研究者の共著の論文である。元々のWRFコードは超並列に向かない構造であったが、それを改造してXT4とBG/Lで実行した。結果として15Kコアのシステムでピーク性能の7.8%の実行性能が得られ、超並列化が出来たとする。

これらの4つの候補論文の中で、結果としてGordon Bell賞に輝いたのは、3番目のBG/LでKelvin-Helmholtz不安定性の計算を行った論文である。TFlops値では、最初の理研の論文の方が上回っているのであるが、ハードウェアのエラーに関する対策を行い、長時間計算を可能にした点などが評価されたものと思われる。

Gordon Bell賞を受賞した論文を発表するLLNLのGlosli氏。