メルセデス・ベンツが新型「Sクラス」を発売した。といってもこのクルマ、現行型(W223型)のマイナーチェンジであるに他ならない。それを新型としてメルセデスが強く打ち出す理由とは何なのか。

  • メルセデス・ベンツの新型「Sクラス」

    数ある高級車の中でメルセデス・ベンツ「Sクラス」を選ぶ意義とは

新型「Sクラス」の写真を一気に見る

SUV全盛の時代にも色あせない超高級セダンの価値

先日、とある国産SUVモデルの発表会でこんな説明がなされた。「SUVは日本の登録車市場で最大のセグメントであり、コンパクトSUVはその半数以上を占めている」。そしてグラフには、2025年の日本での販売台数として、コンパクトSUVが52万台、LサイズとMサイズのSUVが合計で37万台と表示された。

もちろん、この状態はメーカーを含め多くのユーザーも理解しているところだろう。信号待ちで見回せば周りはすべてSUVだし、自分がハンドルを握っているのもそうだ。先日こんな話も耳にした。「うちの奥さんがSUVじゃないとダメなんですよ」。どうやら、目線が高いことからくる安心感が強いのと、無理なく荷物を積めるのが決め手らしい。一度知ってしまうと、セダンやクーペには戻れないといった感じだ。

とはいえ、メーカーはSUVばかりを作っているわけではない。さすがにオープンカーやクーペは減ったが、背の低いセダンやステーションワゴン、ハッチバックは作り続けている。日本でもそうだし、グローバルを見れば、これらのニーズはかなりある。

今回発表された新型「Sクラス」もまた、そんなニーズから生まれている。

  • メルセデス・ベンツの新型「Sクラス」

ビッグセダンは法人需要として要人やVIPの送迎用に必要だし、パーソナルユースとしてもまだまだ人気は高い。その存在感からもわかるようにステイタスを備えているのだ。齢五十路以上の人は感じるだろう。「いつかはメルセデス」「いつかはSクラス」みたいなヒエラルキーがそこにある。

新型は現行モデルのビッグマイナーチェンジである。7代目となる「W223型」に手を入れたものだ。2020年のデビューから6年目と少し長いが、スケジュール通りと考えられる。そもそもSクラスのモデルサイクルは、コンパクトカーよりも長いイメージだ。

  • メルセデス・ベンツの新型「Sクラス」

なので、エクステリアデザインの大きな変更はない。基本はフェイスリフトで、前後ライト類をリデザインした。特徴はスリーポインテッドスターをモチーフにした模様。現行「Eクラス」のテールランプもそうだが、彼らは現在、これを多用している。デザイナーが気に入っているのか、マーケットの反応がいいのか、もしかしたらその両方なのかもしれない。

  • メルセデス・ベンツの新型「Sクラス」

進化のキモは車内にあり

それじゃ、何をもってメーカーは進化したSクラスを「新型」といって強くアピールしているのか。その答えはキャビンの中にあった。訴求ポイントはインターフェイス。見た目フェイスリフトのこのモデルを“新型”と言い切るのはそこに尽きる。

具体的には、第4世代に進化した「MBUX」と「MB.OS」と呼ばれるソフトウェアである。

  • メルセデス・ベンツの新型「Sクラス」

MBUXはご存知の通り、日常会話的な音声認識でナビやエアコンなどを操作するもの。導入は2018年で、2022年には第2世代としてハイパースクリーンを採用、2024年には第3世代としてサードパーティ製アプリを利用可能にした。短期間でどんどん進化させている。

新型ではそれをバージョンアップ。MBUXナビゲーションはGoogle MapsをベースにGoogleとメルセデスが共同開発し、車載用として使いやすくした。またMBUXバーチャルアシスタントは生成AIを取り入れ、ChatGPTとMicrosoft Bing、Google Geminiを統合して精度を高めている。会話的指示がよりフランクになり、曖昧な表現にも対応してくれるらしい。まさに時代の産物。生成AIの活用がカーライフを変えるのはなんとなく想像がつく。

ただ、それがSクラスユーザーにどれだけ響くのかは別だという気がする。ユーザーの年齢層を鑑みると、それを本当にフル活用できるのかはちょっと疑問。そもそも法人ユースの場合、ショーファーにとってナビの進化は嬉しいが、それ以外はそれほど必要ないかもしれない。

となると、MBUXとMB.OSの進化が問われるのは、この技術が「GLC」や「GLB」「GLA」に搭載された時かもしれない。デジタルネイティブな20代、30代が使いこなしてこそ、その価値が高く評価され、技術が浸透する。

それでもメルセデスがSクラスに最新テクノロジーを搭載するのは、これまでの流れと慣習に他ならない。ユーザーメリットはまず、Sクラスからといった図式だ。冒頭に記したように、これがSクラスのステイタスに他ならない。

彼らはロイヤルカスタマーの重要性を熟知している。その意味でメルセデスの、いや自動車業界の先端技術とトレンドを知る上で、Sクラスが重要なモデルであることは間違いない。このクルマを知ることで、業界の明日が見えてくる。

【フォトギャラリー】新型Sクラス