―― プロの現場では、どんなダイバーズウオッチのシェアが高いんでしょうか。例えばスイスやアメリカの時計ブランドには、アナログ針のダイバーズウオッチが多いですよね。

カシオ計算機 時計事業部 商品企画部
齊藤慎司氏

齊藤氏「全体のシェアまではわかりませんが、お話をうかがった方々が使っていたのは、電池で動くアナログとデジタルのコンビネーションタイプでした。現在の時刻は針で、水深計はデジタル表示の仕様でしたね」

牛山氏「水深計はデジタルで見たいですよね。強くリクエストを受けたのは、『現在の水深がわかること』、『何分潜っているのかわかること』、『現在時刻があったらいいね』、この3つをぜひ叶えてほしいと。また、最大で何mまで潜ったのかもわかると、なお良しです。

この時点でFROGMANという構想があったんですが、デジタルの3段くらいで表示したら、現在時刻も水深も、潜水時間も同時にわかりますよね(編注:FROGMANは3つのデジタル表示エリアを持ち、別々の情報を表示できる)」

―― リアルな数値はデジタルで……というのは「PRO TREK」と通じるところがありますね。トリプルセンサーVer.3+水深計とか、水版トリプルセンサーのようなイメージですか。

カシオ計算機 時計事業部 モジュール開発部 牛山和人氏

牛山氏「必須の要素が水深計だったので、漠然と『水深計が付いたFROGMAN』を考えていたのですが、いや待てよと(笑)。だったら一気に、トリプルセンサーにすればいいんじゃないかと、そんな風に固まっていきました」

齊藤氏「水難救助隊のみなさんは、実際に潜るときに大きなコンパスを身に付けているという話もされていました。にごった水の中で作業するとき、方角がものすごく重要だと。そこで、従来のFROGMANや、現行のRANGEMANなどを使ってみてもらったんです。どちらも水深計はないですが、RANGEMANには方位計が付いているので。

そしたらもう全然ダメ(笑)。RANGEMANは『時計が水平でないと方位計の精度が悪くなる』、FROGMANは『水深計も方位計(コンパス)もないんじゃ……』と、水難救助の現場では正直使えないという結果でした。

あとバンドの長さも大切です。ウェットスーツを着て、グローブをはめて、その上から時計をすると、ギリギリなんです。そんなに大柄な人たちではないのに、従来モデルのFROGMANやRANGEMANのバンドでは長さが足りませんでした」

新FROGMANのバンドは従来モデルよりもだいぶ長い

―― そこでだいぶビジョンが具体化したんですね。

牛山氏「山崎に、『方位計ってやっぱり水中では水平を保つのが難しいみたいだよ、何か良い方法ないかな?』と話しました。最終的には、加速度センサーを組み合わせて、傾けても測れる方位計にたどり着いたわけです」

山崎氏「スマートフォンなどでは普通に使われている技術なんですが、低消費電力に特化している時計マイコン(編注:時計のモジュール上で各種センサーを制御する小さな小さなコンピュータ)の演算能力や電力の関係で、カシオの時計で実現するのは難しかったんですね。

そのときちょうど、処理能力を向上させた新しいマイコンが開発されるという話があって、できるかもしれない、トライしましょうとなりました」