年間の海外旅行者受入数が人口の約3倍、2500万人に達する香港で、海外からの旅行者向けとなる無料プリペイドSIMサービスが始まった。一体どうやって完全無料を実現しているのだろうか? 観光大国を目指す日本の関係機関にとっても気になるサービスとなりそうだ。

ローミングとプリペイドSIMの隙間を狙う

今や世界中どこへ行ってもスマートフォンを使っている人を見かけないことはない。海外からの旅行者もスマートフォン片手に観光地情報を調べたり、レストランで食事の写真を撮ったりとスマートフォンはすでにカメラやガイドブック代わりとなる旅行の重要なツールになっている。

そんな海外からのスマートフォン利用者にとって、海外旅行先での通信環境の確保は死活問題だ。自分のスマートフォンをそのまま海外に持ち出して使える国際ローミングサービスは各国で提供されているが、1日あたり最大数千円とコストは安くない。そのため無料Wi-Fiを求める声は特に海外からの渡航者の間で大きい。

日本でも2020年の東京オリンピックを控え、無料Wi-Fiの整備がこれから行われようとしている。すでに空港や鉄道の駅、ホテルやショッピングセンターなどに無料Wi-Fiは広がっており、外出や移動前に自分のスマートフォンを使って母国語で情報を検索する外国人観光客の姿も多い。

一方外国人観光客の数が多い海外の各国では無料Wi-Fiの完備はもちろんのこと、スマートフォンで使える旅行者向けの安価なプリペイドSIMを販売している通信事業者も多い。

台湾桃園空港には通信事業者3社がカウンターを並べてプリペイドSIMを販売。常に旅行者が集まっている

例えば香港では旅行者に特化したプリペイドSIMを各事業者が販売しており、空港で簡単に購入できる。台湾では空港の一角に事業者のカウンターが集まっており、空港到着後旅行者が真っ先に向かい行列を作っている。

現地に滞在する期間が長ければ長いほど、国際ローミングよりも現地プリペイドSIMを購入するほうが通信費は安上がりになる。だが、これが数日程度の滞在となると、現地でSIMを買うのもちょっと面倒、だけども国際ローミングは若干割高で、どちらにするか悩んでしまうケースも多い。

そんな悩みをかかえる旅行者向けに香港で登場したのが無料SIMサービスだ。香港のMVNO事業者、Green-i Sim Motionが提供する「i SIM」はSIMの代金はもちろん、通話もデータも完全無料で使えるのである。

i SIMは香港の鉄道中央駅や旅行代理店、ホテルなどで配布されている。旅行者がよく集まる場所にカウンターを設けて配布を行っているのだ。近日中には香港国際空港でも無料配布を始めるとのことで、香港に到着した瞬間から現地の通信費をタダにすることも可能になる。

香港で登場した完全無料のi SIM

広告クリックで無料通話分を入手できる

i SIMはユーザー登録の必要もなく、SIMフリーなスマートフォンに入れればすぐに利用開始できる。初期状態ではデータ通信50MBまたは香港内通話50分が利用可能だ。なお通信料は1MB=1分で換算される。なお有効期限は7日間。それ以降使いたい場合は、再度無料SIMを入手すればよい。

だが50MBや50分の通話はあっという間に終わってしまうだろう。そこでi SIMは無料利用分を広告をクリックすることで追加できる仕組みを提供している。i SIMの専用のアプリをスマートフォンに入れて、表示される広告をクリックすると無料利用分が追加されていくのである。

i SIMのアプリは香港の観光情報も表示されるため、ガイドブック代わりに使うこともできる。そして表示される広告は、香港のレストランやお店、ショッピングセンターなど旅行者が行きたくなる店舗のものばかり。アプリを開いて観光しながら、気になるお店の広告をクリックすれば無料通話分がどんどん加算されていくのである。

アプリに表示される広告をクリックすると無料利用分を得られる。広告は旅行者に関心のあるものばかり

現在のところ、最大獲得可能な無料利用分はデータで150MB、通話で150分。初期の無料分と合わせて、最大200MBまたは200分の無料分を利用できる。スマートフォンの現地活用を考えるともう少し増やしてほしいところだが、これから広告を出す企業の数が増えれば500MBや1GBの提供も今後十分ありうるだろう。

最近はLCC(ローコストキャリア、格安航空会社)の台頭で国内旅行感覚で海外へ行くことも可能になった。毎週のように週末はアジアに渡航して現地で1-2日を過ごす、なんて人も増えている。空港に到着して無料SIMを受け取り滞在中の通信費が一切無料となれば、またその国に行こうと思う旅行者も増えるだろう。つまり無料SIMは観光客誘致の大きな武器になりうるのだ。

SIMを使った広告ビジネスの広がりに期待

MVNOキャリアは日本では「格安SIM」という別名で知られるように、大手キャリアより安い料金を提供している。だが香港のi SIMは安いどころか広告ビジネスを組み合わせることで完全無料を実現している。現地で完全無料SIMが入手できるとなれば、海外渡航が多い人がこぞってSIMフリースマートフォンを買う、なんて動きも起きるかもしれない。香港以外にこのビジネスモデルが広がっていくのか、これから注目したいところだ。