Appleが10月末に高性能コアとGPUを強化した「M1 Pro」「M1 Max」を搭載したMacBook Proを発売した。"Pro"にふさわしい実力を持つが、その性能を存分に発揮させるなら価格も高くなる。しかし、UberやTwitterといったシリコンバレーのテクノロジー企業は価格を気にせず、すぐに上位のMacBook Proをエンジニアに支給し始めた。

  • シリコンバレーのエンジニアにとって"ゲームチェンジャー"になっている新MacBook Pro

これを最初に報じたのは、9to5Macだ。「iOSエンジニア全員のMacが、64GB RAMを搭載した16インチのM1 Max MacBook Proに更新されます」とUberのMahyar McDonald氏がツイート。その4日後に、TwitterのJohn Szumski氏が「TwitterのiOSおよびAndroidエンジニア全員にM1 Max MacBook Proを届けられることにワクワクしています。Intel製のビルドで問題になっているトップラインパフォーマンスとサーマルスロットリングの両方が改善しています」とツイートしたことを紹介。

テクノロジー企業が高価なMacBook Proを支給する理由については、The Pragmatic EngineerのGergely Orosz氏の以下のようなコメントを紹介している。

新しいハードウェアが発売される度に、チームはビルド時間をベンチマークして計算します。M1搭載MacBook Proのような市場で最も上位のマシンを使うことで、4,000ドルで毎回のビルドにかかる時間をどれだけ削減できるのか? 2年間の合計時間はどれくらいか? エンジニア1人に対して、この時間はどのような価値を意味するのか? M1モデルの場合、その答えは明らかです。2021年のモデルを含むIntel搭載の上位モデルと比べて、エンジニア1人あたり4,000ドルの出費で非常に多くの生産性を取り戻してくれます。

9to5Macの記事をきっかけにSNSで、テクノロジー企業の導入状況が次々に紹介されるようになった。例えば、RedditのJameson Williams氏は次のようにツイートしている。

新しい2021年のM1 MacBookによってAndroidアプリのビルド時間が半分になることが最近分かりました。9人のチームで3,200ドルのノートPCが、2022年を通じて10万ドルの節約になります。つまり、3カ月で費用を取り戻せます。TL;DR エンジニアの時間はノートPCよりも高価なのです!

性能がもたらす価値を考えると新MacBook Proは高くない……、これはビルドに時間が奪われるエンジニアに限った話と思うかもしれないが、そうではない。規模の違いはあるものの、生産性のコストは他の業務でも大きいことに変わりはない。

オフィスワーカーや営業職であっても、表計算やプレゼンテーションソフトだけで十分ではなく、データ分析、遠隔診断、データの可視化などに今日のデバイスは対処している。薄くてデザインがよく高性能な機種と普及価格帯の機種で生じる生産性の差が5%だと仮定して、年収8万ドルの業務でも従業員の生産性が5%落ちたら年間4,000ドルの損失になる。普及価格帯と上位機種の差は500〜1000ドル。必要なアップグレードか悩むコストであるようで、その時にその仕事で最大の生産性を引き出せるデバイスを配布しないことで企業が被る見えない損失に比べると小さなコストである。

企業がMacを採用する理由に関して、過去にTCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)に着目したIBMやForrestorの調査が話題になった。今年の夏に、Forrestorが2年ぶりの新レポート「The total economic impact Of Mac in enterprise」を公表した。それによると、ランニングコスト、残存価値、セキュリティやサポートの費用、従業員のエンゲージメントとリテンションなどの違いで、MacはPCに比べて3年間で843ドルのコスト削減が可能になる。

これはこれで説得力があるが、一方でデバイスは生産性の違いを生み、ケースによってはより大きな差が生じる。そして多くの企業がこれまで生産性の違いがもたらす影響をあまり考慮してこなかった。デバイスのスペックや性能だけが生産性に影響する要因ではなく、例えば"morale"、日本語だと集団の士気や意気込みという感じだと思うが、新しい機能や技術を採用したり、デザインの変更といったことでグループのやる気は変わる。デバイスの使用体験も生産性に影響する。広い視野で判断する必要があり、あいまいな部分も大きい。しかし、新MacBook Proがエンジニアの生産性に与えている影響を考えると、企業はデバイス選びの試算方法を変えざるを得ないのではないだろうか。