パナソニックは、東京・有明に、ショールームであるパナソニックセンター東京を開設している。

一般に公開しているのは、現在、オリンピック/パラリンピックなどの展示を行っている1階の展示エリアと、2階および3階の体感型ショールーム「リスーピア」となっているが、実は、4階には、ビジネス向け専用フロアが存在する。完全予約制で、パナソニックの社員などが、外部企業への提案や商談などに活用するエリアとなっており、一般来場者は立ち入ることができない。パナソニック全体の取り組みを紹介できることから、法人や官公庁などのほか、海外要人、大使館関係者などの見学にも使われている場所だ。

そのビジネス向け専用フロアは、2019年3月に、「ビジネスソリューションズ未来区」としてリニューアル。「ビジネスパートナーとともに、未来の姿とプロセスについて語り合い、共創活動のきっかけとなる場と位置づけ、パナソニックが描く未来を想定した仮想都市による空間を、具体的に体感できる」のが特徴だ。

ここでは、1918年に創業したパナソニックの100年以上に渡る歴史をビデオで紹介しているほか、パナソニックが目指すビジョンや、街、モビリティ、現場プロセス、都市などの展示空間を通じて、パナソニックのB2Bソリューションを紹介。さらには、SDGsをはじめとするサスティナブルなパナソニックの取り組みを紹介するエリアとなっており、2019年度は、年間約2,500社の企業などが来場したという。

その空間をオンラインで体験できる取り組みが、2020年9月から開始された。

ニューノーマル時代のショールームへ

パナソニックは、これを「未来区オンラインアテンド」と呼んでおり、これまでの対面による案内に加え、未来区の展示コンテンツをオンライン上で案内。実際の展示とリンクさせながら、体験できる新たな仕組みを用意した。

  • ショールームをニューノーマル時代の共創拠点に造り変えたパナソニック

    未来区オンラインアテンド

同社では、「外出自粛や出張が制限されるなか、オンラインでアンテンドができないかと考えて、2020年5月から検討を開始してきた。おもてなし、双方向コミュニケーション、映像や音声のクオリティといった観点にこだわりながら、オンライン空間を作り上げた。コロナ禍において、施設への来館が難しかったり、東京への出張できなかったりといったお客様にも、インターネット環境があれば参加や見学ができ、ライブでの質問も可能になる。おもてなし感のある案内を体感してもらえる」とする。

未来区オンラインアテンドは、一時的な仕組みとして構築したものではなく、継続的に提供する予定であり、パナソニックセンター東京のビジネス向け専用フロアにおける、新たな見学のスタイルとして定着させたい考えだ。

では、「未来区オンラインアテンド」はどんな体験ができるのだろうか。実際に、オンラインで「未来区オンラインアテンド」を体験した様子を紹介しよう。

「未来区オンラインアテンド」は、先にも触れたように、一般公開は行われず、パナソニックの社員による招待制で利用できるようになっている。9月中旬までに、20社の利用があったという。

設定された予約時間に、パナソニックの社員から送られてきたアクセスURLを使って参加するという仕組みだ。

未来区オンラインアテンドのプラットフォームとして利用しているのは、コミュニケーションツールとして、最近、話題を集めているFunCorp Labの「SpatialChat」である。

未来区オンラインアテンドでは、基本的にはPCでの参加を推奨しており、ブラウザはGoogle Chromeによるアクセスが前提となる。15分前からアクセスが可能であるため、少し早めにアクセスして、操作説明動画を視聴することを推奨している。ここでは、それぞれのゾーンへの移動の仕方や体験の仕方などを示しており、各ゾーンのスクリーンの前に設置された座席にアイコンを移動させることや、会場全体のマップや、映像が表示されるスクリーンを拡大する方法などを事前に教えてくれる。説明員との距離間が近いと声が大きく聞こえ、遠いと小さく聞こえるといった、新感覚なバーチャル空間体験ができるのも特徴だ。これもSpatialChatの基本機能のひとつだ。すべてが直感的な操作で行える設計になっているため、操作面でつまずくことはないだろう。

また、リアルの「ビジネスソリューションズ未来区」では、参加時に来場者から名刺をもらっていたが、「未来区オンラインアテンド」ではデジタルでの名刺提出が可能であり、スマホに名刺の画像を撮影し、保存してから参加することを呼びかけている。ここでは、名刺管理アプリの「Eight」を利用している。

URLからアクセスして、「ここからご入場ください」というボタンをクリックして会場に入ると、画面には、落ち着いた雰囲気のなかに、ゾーンが7つに分かれている様子が見られる。リラックスした音楽も流れており、まさに実際にショールームを訪れた感じだ。

  • 7つに分かれたゾーンを、赤い矢印に沿って見学していく

「未来区オンラインアテンド」に入場すると、パナソニックアテンダントスタッフが音声で迎えてくれ、最初に、画面の7つのゾーンの並びの中央にある「CENTRAL LOBBY」の座席にアイコンを移動するように指示される。アイコンには、顔写真などを使うことができるほか、英文字や漢字などのイニシャルで参加することもできる。また、説明者は各ゾーンのステージの位置に立って、PCのカメラで撮影しているリアルの映像を利用することができる。見学中には、チャット機能を使って、随時、質問をしたり、用意されているスタンプ機能を使って返事をしたりといったことも可能だ。

  • CENTRAL LOBBYで説明を受ける

参加者が着席し、概要説明が終わると、VISION THEATERに移動。座席にアイコンをおき、アテンダントスタッフの説明とともに、スクリーンに表示される映像を見ることができる。これらも、SpatialChatで提供されている機能のひとつである。ここでは、YouTubeの映像をスクリーン上に表示。スクリーンは自由に拡大/縮小して見ることができ、スクリーンの近くに行くと音が大きく聞こえ、遠いと小さく聞こえる仕組みになっている。

VISION THEATERでは、未来区に関する約3分30秒のコンセプト映像を見ることができ、展示の概要も知ることができる。

  • VISION THEATERで映像を視聴する

続いてSMALL EARTHに移動。ここは、ライフスタイルなどの多様性が受け入れられた未来のコミュニティを紹介するゾーンだ。パナソニックが実現する安心、安全な暮らしと、楽しく、便利なコミュニティを実現する姿を、ロボットなどの活用シーンを交えながら映像で紹介。アテンダンドが直接ナレーションをつけて、ライブ感を持った形で説明するのが特徴だ。ここでは買い物の際に、荷物持ちの役割を果たしてくれるパーソナルポーターロボットや歩行トレーニングロボットのほか、現在取り組んでいるサスティナブルタウンを紹介した。

  • ポーターロボットを映像とリアルのナレーションで紹介

MOBILITY FOSTERS ABILITYのゾーンでは、パナソニックが取り組む、人にやさしいモビリティ社会への取り組みについて説明している。ここでは、ビジネスソリューションズ未来区の実際の展示エリアと、ライブで結んで、自動運転における車室空間のデモストレーションを行ってみせた。オンライン参加者の質問内容などに応じて、現場でのデモストレーションの内容を追加するといったことも行える。

さらに、実際の展示内容を盛り込んだ映像コンテンツと、ライブでのナレーションを組み合わせた車載デバイスソリューションの紹介も行った。

製造、物流、流通業界を取り巻く課題解決のためのソリューションを展示しているのが、GEMBA PROCESS INNOVATIONのゾーンである。コネクティッドソリューションズ社が推進している現場のプロセスを効率化するための取り組みや具体的なソリューションを、映像とライブによるナレーションで紹介。「作る」、「運ぶ」、「売る」といった各領域における現場プロセスイノベーションの事例を紹介した各種映像コンテンツを用意している。

  • GEMBA PROCESS INNOVATIONのゾーン

CITY COMPLEXのゾーンでは、人と人、世界と世界を結び、自由で安全な都市づくりや、訪れる人に新たな経験をもたらすことができる都市を提案している。

ここでも、「ビジネスソリューションズ未来区」と結んだライブでのデモストレーションを実施。顔認証によってゲートを通過する様子や、ロボット電動車いす「WHILL NEXT」が自律走行する様子、デジタルサイネージのデモストレーションなどを紹介した。

  • WHILL NEXTの自律走行をデモストレーション

  • ライブ中継でデジタルサイネージを紹介

そして、7つのゾーンが並ぶ画面配置のなかで、中央下にあるのがCOMMUNICATION ZONEだ。

他の6つのゾーンは、実際の「ビジネスソリューションズ未来区」には存在するものだが、COMMUNICATION ZONEは、「未来区オンラインアテンド」にだけ用意されたエリアだ。

「参加者とパナソニックの関係者がオンライン上でコミュニケーションを行ったり、より詳しいプレゼンテーションを行ったりできるゾーンとして用意した」という。

見学後にオンライン上で、細かいやり取りを行う場所として活用している。ここでは、営業担当者が用意している映像コンテンツやプレゼンテーション資料などの表示も可能だ。

また、見学の最後には、オンラインでのアンケートも行っており、満足度を調査したり、要望を反映して改善につなげていくことになる。

リアルとオンラインの融合環境が整った

このように、「未来区オンラインアテンド」では、アテンダントスタッフにより、音声、映像、チャット、スタンプによる双方向コミュニケーションを実現。おもてなし感のあるインタラクティブな案内を体感できるように工夫されている。

  • スタンプやチャットを使った対話も可能だ

また、基本コースでは45分間を予定しているが、来場者の要望にあわせて見学する内容をカスタマイズでき、重点的に見たいゾーンや重視したいデモストレーションに時間をかけるといったこともできる。ほか、シアター形式のレイアウトも用意しており、来場者の要望や参加者数にあわせた環境にも柔軟に変更できる。

  • シアター形式でも対応できる

同社では、「あるお客様の場合には、リアルのビジネスソリューションズ未来区には、半分の人しか参加できず、残りの半分の人はオンラインで参加することになったが、双方の参加者をライブ中継の部分でドッキングさせて、ハイブリッドで説明やデモストレーションを行った例もある」としており、「リアルとの連携した説明のほか、ウェビナー形式、イベント形式などの利用も可能になる。リアルとバーチャルの両方で案内できる体制が整ったことで、参加者にとって最適な方法を選択することができる」と述べた。

  • 展示エリアとライブ中継を利用してデモストレーション

アテンダントスタッフは、英語、中国語にも対応しているほか、Google翻訳の機能を利用して、リアルタイムで翻訳した内容を字幕表示するといったサービスも行っている。

  • Google翻訳を利用した字幕対応も行っている

「未来区オンラインアテンドは、地方からの参加者には最適なものだといえる。また、午前10時から午後5時までの対応となっているため、時差がある海外から参加が難しいという問題が発生するが、時差の少ない地域を中心に海外からの見学も受け入れたい」としている。

さらに、実際のビジネスソリューションズ未来区を、マーターポートによって、360度自由に見学できるコンテンツも用意しており、これを利用して、参加者が疑似的に展示を見学することも可能だ。

  • 3D空間をマーターポートを利用して見学できる

同社では、3カ月程度に一度、未来区オンラインアテンドに新たなコンテンツを追加する予定であり、2021年1月にオンラインで開催されるCES 2021のパナソニックの展示内容なども、未来区オンラインアテンドでも紹介できるようになりそうだ。

「オンラインは、時間、場所に捉われず参加できること、コンテンツの紹介の仕方を柔軟にカスタマイズできるといったメリットがあり、双方向でのコミュニケーションが可能である。だが、リアルの臨場感に比べると限界があるのも事実である。新たなモビリティ空間で体験できる車室空間での風の気持ちよさや、アロマの匂いといった現場でしか味わえないことが表現できないといったデメリットもある。また、営業担当者からは見学の最中に、ちょっとした情報を補足したりといったことがしにくいといった声もある。ただ、コロナ禍においては、オンラインアテンドを早く活用したいという営業部門の声が多い。社内体験会では、9割8分は、早く使いたいという反応だった。当面は、見学の半分ぐらいはオンラインで対応したいと考えている」としている。

  • 車室空間での風や香りといったものはリアルでないと体験できない

シアター形式などに変更することで様々な用途での利用も可能になることから、内定者向けの説明会に利用したり、コンシューマ向けのイベントに活用したり、様々なセミナーやインフラとの連動なども視野に入れたいという。

今後もショールームを情報発信の拠点に

ところで、パナソニックセンター東京では、2020年夏に開催が予定されていた東京オリンピック/パラリンピックに向けて、一般公開しているエリアの展示内容をリニューアルするために、2020年2月に一時閉鎖していたが、6月下旬には再開。だが、新型コロナウイルス感染症の影響もあって、来場者数は前年よりも減少している。

なお、パナソニックセンター東京の一般公開されているエリアを、360度の3D映像で、誰でも、いつでも館内を見学できる「バーチャルショウルーム」も用意している。

同社では、「パナソニックセンター東京は、今後も、お客様とのコミュニケーション拠点として、リアル、バーチャルの両面で、パナソニックのビジョンを発信し、くらし、社会課題の解決にむけ活動をアップデートしていく」としている。

リアルのメリットとデメリット、バーチャルのメリットとデメリットはそれぞれあるが、パナソニックセンター東京は、リアルとバーチャルの両面から、情報を発信していく体制を整えたといえる。それは、それぞれのメリットを生かした情報発信が行える体制づくりにつながり、ショールームとして大きな強みを持ったともいえるだろう。