富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が、パソコン(PC)を活用したオンラインレッスンの支援に乗り出している。第1弾として、フルート教室の「Liebeフルート音楽教室」(東京都練馬区)と、「徳本早織フルート教室」(京都市)の協力を得て、オンラインレッスンの効果を検証。その成果をもとに、すでにオンラインレッスンをスタートさせ、Liebeフルート音楽教室では、15人の生徒が受講しているという。「Liebeフルート音楽教室」を主宰する上塚恵理氏に話を聞きながら、PCを活用したオンラインレッスンの可能性を探った。

  • 実際にオンラインレッスンを行っている様子

    実際にオンラインレッスンを行っている様子

変わる世界、PCの新たな可能性を模索しはじめたFCCL

新型コロナウイルスの影響により、外出自粛が行われるとともに、在宅勤務が増加している。それに伴い、自宅のPCで、コンテンツを楽しんだり、ネットを通じて商品を購入する人たちが増加する一方、PCを使って、会社の会議に参加にしたり、資料を作成するといったテレワークの利用も急拡大している。新たな生活様式へと変化するなかで、PCの利用価値が、これまで以上に高まっているといえるだろう。

そうしたなか、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は、今後のPCの新たな活用について模索をはじめている。そのひとつがオンラインレッスンへの活用だ。PCに搭載されているマイク、スピーカー、カメラなどの機能を活用して、講師と生徒をオンラインでつなぎ、レッスンを行うという新たな用途提案である。

その第1弾として、フルート教室におけるオンラインレッスンでの効果を検証。その成果をもとに、オンラインでのレッスンがはじまっている。

FCCLでアドバイザーを務める秋山岳久氏は、「新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、全国の音楽教室でのレッスンが中断している。これまでオンラインでレッスンを行っている例は一部にはあったが、スマホやタブレット、あるいは古いPCや性能が低いPCを使うと、画面サイズが小さかったり、音質の制約などによって、十分なレッスンの効果が得られないという課題があった。品質の高いマイクやスピーカーを搭載した最新PCを利用することで、こうした課題を解決でき、オンラインレッスンでも効果が得られるのではないかと考えた」と、そのきっかけを振り返る。

同社では、東京都練馬区の「Liebeフルート音楽教室」と、京都市の「徳本早織フルート教室」の協力を得て、2020年4月下旬に、パソコンを活用したオンラインレッスンの効果検証を実施した。

Liebeフルート音楽教室を主宰する上塚恵理氏と、徳本早織フルート教室を主宰する徳本早織氏が、オンラインでつなぎ、FCCLの17.3型オールインワンノート「LIFEBOOK NHシリーズ」を使って、疑似的なレッスンを行ってみたのだ。

  • Liebeフルート音楽教室を主宰する上塚恵理氏

音楽教室の緻密なニーズ、オンライン化のハードルだった

上塚氏は、「正直なところ、ノートPCに内蔵したマイクとスピーカーでは、レッスンができるほどの音が再現できたり、微妙な音色が聞き取れるとは思っていなかった」とする。

これまで使用していたPCにカメラなどを搭載して、試験的にオンラインレッスンをやってみたが、会話は聞き取れても、楽器は音割れが起きてしまい、フルートの音なのに、トランペットの潰れた音のようになってしまうという「失敗」を経験していたからだ。

「PCから聞こえるのはビービーという音だけ。これでは、生徒が吹いた音色が判断できないため、オンラインレッスンの実施はあきらめていた」という。

だが、FCCLの実証実験に参加して、オンラインレッスンが十分に行える手応えを掴んだという。

「音質がいいため、生徒が吹いた音を聞きながら、『この音はもう少しやさしく』、あるいは『ちょっときつめに』『せつない音に』といったように、対面レッスンで伝えていた微妙なニュアンスも、指導することができることがわかった」という。

実証実験に使用したノートPCは、17.3型の大画面液晶ディスプレイを採用している。これもフルートのレッスンには、大きなメリットがあったという。

「フルートの演奏は、姿勢が大切。ねじりが加わる姿勢で演奏するため、間違った形で吹くと腰を痛めてしまう場合もある。また、姿勢や角度が違うと余計な力が入ってしまって、いい音が出せないことにもつながる。フルートの最初のレッスンは、姿勢から入ることになる。また、唇の形によって音色が違ってくるので、レッスンでは、生徒の唇の形を大事に見ている」と語る。

フルート演奏のレッスンで重視される演奏の姿勢や唇の形を教えるにも、大画面液晶ディスプレイは効果があった。

「大画面液晶ディスプレイによって、生徒の姿勢を観察しやすく、唇の形も確認しやすい。教える側も、立ち上がって全身をみせながら姿勢を教えたり、唇の形や指づかいを教えるためにはカメラに近づけてみたりといったことで伝えるようにしている。対面のレッスンでは、マナーの観点から、生徒にあまり近づかないという配慮もしていたが、オンラインではそうしたことを気にせずに指導することができる。生徒の満足度も高い」とする。

大画面液晶ディスプレイや、性能が高い内蔵スピーカー、内蔵マイクなどの活用によって、すでに何度もレッスンを受けている生徒だけでなく、初めてフルートに触れる生徒も、安心してレッスンを受けることができる環境が整っているともいえる。

今この時に、ものづくりへのこだわりが功を奏した

FCCLが音楽教室のオンラインレッスンの支援に乗り出した背景には、同社のPCの基本性能が高く、それがオンラインレッスンに生かせると考えた点があげられる。

  • 今回の実証実験に採用したLIFEBOOK NHシリーズ。17.3型ワイドの大きな画面、オンキヨーと共同開発したスピーカー、豊富なカスタマイズオーダーへの対応などを特徴とし、「オールインワンノートPC」をうたっている

たとえば、一般的なPCでは、2個のマイクのものが多いが、今回の実証実験に採用したLIFEBOOK NHシリーズや、AHシリーズ、MHシリーズには、ディスプレイ上部の左右に合計4個のマイクを搭載している。

「正面から45度の範囲では、2個のマイクによる音声認識率は89.0%だが、4個のマイクでは92.4%に上昇する。また、90度の広範囲では、2個のマイクが79.9%であるのに対して、4個のマイクでは87.5%の音声認識率を達成している。広角に音を拾うことができるのがFCCLのPCの特徴である」(FCCLの竹田弘康副社長兼COO)とする。

また、NHシリーズには、オンキヨーとの協業によって開発したスピーカーボックスを搭載。迫力のある低音を実現している。ここでは、音響補正アプリケーション「Dirac Audio」を搭載しており、スピーカーユニットに最適化する形で、映画館やコンサート会場にいるような臨場感がある音を楽しめるようになっている。

こうしたマイクやスピーカーへのこだわりが、音楽教室のオンラインレッスンにも活用できるPCとしての機能を備えることにつながっている。

そして、NHシリーズでは、フルHDカメラも標準で搭載。相手に商品や素材、コンテンツなどを鮮明に見せられるようにしている。これも先に触れたように、フルート教室において、姿勢や唇の形、指づかいを指導するのに適している。

では、なぜFCCLは、マイクやスピーカーにこだわってきたのか。実は、そこにはユニークな裏話がある。

FCCLのPCの特徴のひとつに、AIアシスタント「ふくまろ」がある。

ふくまろに話しかけると、PCで音楽や写真を再生したり、家電を操作したり、外出中には、PCに内蔵したカメラ機能を使って部屋の写真を送信してくれるといった活用が可能だ。

FCCLの齋藤邦彰社長は、「ふくまろを快適に利用するためには、ユーザーの声をしっかりと聞き取とるマイク、ふくまろがしっかりと発話するスピーカー、そして、鮮明に撮影するカメラの搭載が必要だった」と語り、「これらの仕様は、在宅勤務でテレワークを行う際に重視されるものと同じ。FCCLのPCが、テレワークに最適なPCとして評価されている理由はそこにある」とする。

そして、その仕様は、音楽教室のオンラインレッスンにも最適なものであったともいえる。

今回のフルート教室では使っていないが、デュアルディスプレイ機能を利用して、HDMIで接続した大型テレビに楽譜などを映し出すことができ、講師がテレビの前に立って楽譜を生徒に説明しながら、正面のPCに映った生徒と会話することもできる。

  • HDMI接続により、楽譜を大画面に表示することも可能になる

これも、オンイランレッスンにも有効だ。FCCLのPCは、最初から、テレワークやオンラインレッスンをターゲットに開発したものではないが、その仕様の多くが、テレワークやオンラインレッスンに最適なものになっている。

このように、高いスペックのPCを数多くラインアップしているからこそ、FCCLは、オンラインレッスンの支援にも乗り出すことができたといえる。

対面の代替手段にとどまらない、オンライン化のメリット

Liebeフルート音楽教室では、4月7日に、政府が7都府県を対象に緊急事態宣言を発令して以降、対面でのレッスンは基本的には行っていない。東京都では、6月1日の午前0時から、ロードマップのステップ2へと移行。これにより、音楽教室の営業も解除になる。Liebeフルート音楽教室でも、それにあわせて、対面レッスンを再開する予定だ。

「3月に入ってから、医療関係者や学校関係者、老人ホームなどに勤務する人たちなど、感染により注意をしなくてはならない人たちから、レッスンを休みたいという連絡があった」と振り返る。

Liebeフルート音楽教室では、約50人の生徒がいるが、3月以降、収入は大幅に減少。演奏の仕事はまったくなくなったという。

オンラインでのレッスンを開始したのは、ゴールデンウイーク明けからだ。

FCCLから、6台のLIFEBOOK NHシリーズを貸与され、講師用として1台、生徒用として5台を使い、Microsoft TeamsやZoomを利用して、オンラインレッスンを開始した。

72歳から小学3年生までの5人の生徒がLIFEBOOK NHシリーズを使用してオンラインレッスンに参加。最初は、レッスン時間とは別にPC環境の設定や試験的に使う時間を10分ほど用意していたというが、全員がそうした時間を使うことになくスムーズにレッスンが開始できたという。

上塚氏自身も、「PCを使うのは、資料作成やメール、発表会や演奏会のプログラム制作ぐらいだったが、オンラインレッスンの準備は簡単にできた」という。

また、5人の生徒に対するレッスンの成果が上々だったことから、Twitterを通じて、オンラインレッスンを行っていることを生徒に告知したところ、自分が所有しているPCでオンラインレッスンを受けたいという生徒からの声が相次ぎ、現在、15人がオンラインレッスンに参加しているという。

「対面レッスンでは、月2回で60分ずつ、あるいは月3回で40分ずつというコースを用意。その多くがマンツーマンで行っている。これまでは教室に来ることが前提であったため、月2回のコースを選ぶ生徒が多かったが、オンラインレッスンでは、月3回に変更する生徒が増えている。レッスンは短期間に繰り返し行ったほうが、習得が速い。オンラインであれば、移動の手間がなく、時間も取りやすいため、レッスンとレッスンの期間を短く設定し、頻度を増やしやすい」という。

約50人の生徒のうち、約半分の生徒は自転車や徒歩で通えるが、残りの半分の生徒は電車などを使って通っていたという。なかには、八王子や川崎のほか、新幹線を使って伊豆から通っている生徒もいる。

「対面レッスンでは交通費がかかったり、移動時間がかかったりして、月2回のレッスンに通うのも大変だったが、オンラインであればそうした問題も解決する。フルートを習うことができる機会が増えることにもつながる」と期待を寄せる。

これまでは、「東京都練馬区にある、プライベートフルート教室」というのが、Liebeフルート音楽教室の訴求点だったが、「今後は、日本全国のあらゆる場所からレッスンを受けられることを訴求したい」と笑う。

始めに課題は付き物、より豊かな新常態を目指して

もちろん、課題がないわけではない。

たとえば、Microsoft TeamsやZoomを利用した場合、お互いの音の発生に時間差が生まれるため、2人以上が同時に演奏するアンサンブルによるレッスンができないという問題がある。

「フルート教室のレッスンは、デュエットで進めていくことも多く、これがオンラインレッスンでは対応できない。いまは、あらかじめ、レッスンに使う楽曲の伴奏パートを録音したものを事前に送信し、レッスンの際に再生しながら、吹いてもらっている」という。

また、教室でのレッスンであれば、防音が施された環境であるため、心おきなくレッスンできるが、自宅の場合、防音環境のなかで練習ができる生徒は少ない。吹奏楽器のなかでも、消音ユニットや弱音システムが用意されているのはサックスぐらいで、フルートにはそれがない。

今後、東京都のロードマップではステップ3で解除されるカラオケボックスを利用したりといったことも想定されるが、自宅で音を出せない場合には、呼吸法の練習や音楽理論の学習に活用するといった対応を行うこともあるという。

「防音対策の関係で、自宅でフルートを演奏できない生徒のなかには、講師が出した音にあわせて、指使いの練習をするといった例もある」という。

「エアギター」ならぬ、「エアフルート」ともいえる学習法であるが、こうしたオンラインレッスンならではの新たな学習法が生まれるかもしれない。

Liebeフルート音楽教室では、今後、対面レッスンとオンラインレッスンを選択できる形で教室運営を行う考えだという。

「感染リスクを避けるために教室に通いたくないという人はこれからもいるはず。フルートは息を吹いて演奏するため、同じ部屋での演奏することを嫌がる人がいるかもしれない。こうした社会の変化に柔軟に対応するために、オンラインレッスンは有効だと考えている」とする。

また、こうも語る。

「真夏の暑い日や、真冬の寒い日は教室に通うのが大変。また、ゲリア豪雨などにより、急に行けなくなったという場合にも、オンラインレッスンに切り替えることができる。近所の生徒が、ゲリラ豪雨の影響で10分前になって行けなくなったり、シニア層の生徒が朝起きたら膝が痛くなって通えないといった場合にも対応できる」

これも音楽教室の新たな姿だといえるだろう。

「新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、音楽教室は不要不急の外出になると言われ、音楽に携わってきた立場からは、ちょっと寂しく思った部分もあった。だが、オンラインレッスンを受けた生徒からは、久しぶりに人と真剣に話したり、真剣に学んだりすることができ、音楽を楽しみながら、心の潤いが戻ったという声を聞いた。また、オンライン化によって、『毎週月曜日午後2時からはフルートのレッスン』と決めることで、外出自粛の生活のなかにリズムを作ることができたという声ももらった。オンラインレッスンという新たな手法にいち早く取り組むことができ、社会に必要な存在として、人に貢献できる役割を果たせたことはうれしかった」とする。

レッスンのオンライン化によって、人とつながる場がひとつ用意されたともいえる。

FCCLの秋山アドバイザーは、「今回のフルート教室におけるオンラインレッスンの支援は、PCの機能が単なる機能として捉えられるのではなく、具体的な用途として利用されるという事例になる。FCCLは、人に寄り添うライフパートナーとして、PCの力を活用し、新たな市場を生み出したい」とする。

同社では、フルート以外の音楽教室などにもオンラインレッスンの実施を支援する考えを示すほか、この仕組みを導入した教室の生徒向けにオンラインレッスンに最適なPCの特別販売キャンペーンを実施することなども検討していきたいという。

これも新たな時代におけるPC活用の新たな姿のひとつといえそうだ。