• セブン銀行の第4世代ATM。そのテンキーを開発・製造しているのは「REALFORCE」ブランドで知られる東プレだ

    セブン銀行の第4世代ATM。そのテンキーを開発・製造しているのは「REALFORCE」ブランドで知られる東プレだ

全国のセブン-イレブンなどに設置され、約28,000台が稼働するセブン銀行ATM。現金の引き出しや預け入れだけでなく、キャッシュレス決済アプリへのチャージでも広く活用されている。

この銀行ATMで誰もが必ず触れる重要なインタフェースが「テンキー」だ。暗証番号や金額の入力など、1回の取引で10回以上叩かれることもある部品だが、セブン銀行ATMでは、高級キーボードメーカーとして知られる東プレのテンキーを採用している。

セブン銀行ATMの初代モデルが登場したのは2001年。奇しくも、東プレがコンシューマ向けの高級キーボード「REALFORCE」をリリースしたのと同じ年だった。現在までに第4世代へと進化し、2026年で25周年となるセブン銀行ATMだが、第1世代から一貫して東プレのテンキーを搭載し続けている。

セブン銀行ATMにおけるテンキーの重要性やこだわりについて、セブン銀行、東プレ、ATM本体のメーカーとなる日本電気(NEC)の担当者に話を聞いた。

  • 左から順に、東プレの電子機器部営業部営業3G主担・斎藤隆志氏、同電子機器部技術部部長・榎本賢貴氏、セブン銀行 執行役員 ATMソリューション部・ATMオペレーション統括部担当の水村洋一氏、NECのインダストリーインフラ統括部プロフェッショナル・坂下裕介氏、同 第二金融ソリューション統括部ディレクター・牛膓(ごちょう)浩隆氏

    左から順に、東プレの電子機器部営業部営業3G主担・斎藤隆志氏、同電子機器部技術部部長・榎本賢貴氏、セブン銀行 執行役員 ATMソリューション部・ATMオペレーション統括部担当の水村洋一氏、NECのインダストリーインフラ統括部プロフェッショナル・坂下裕介氏、同 第二金融ソリューション統括部ディレクター・牛膓(ごちょう)浩隆氏

約28,000台が稼働するセブン銀行ATMテンキーの歴史

セブン銀行は、第1世代ATMからテンキーに強いこだわりがあった。そう語るのは、セブン銀行 執行役員 ATMソリューション部・ATMオペレーション統括部担当の水村洋一氏。

利用者がATMを操作する際、直接手が触れる部分は、「画面」と「テンキー」の2つに限られる。しかし、画面タッチの感触で他社と差別化は難しい。そこで、物理キーを採用するかどうか、さらにキーの質感はどうするかなど、「自分たちで作れるところは妥協なくやろう」(水村氏)という方針で、初代から開発が進められてきた。

  • セブン銀行 執行役員 ATMソリューション部・ATMオペレーション統括部担当の水村洋一氏

    セブン銀行 執行役員 ATMソリューション部・ATMオペレーション統括部担当の水村洋一氏

ATM本体の開発を担うのは、第1世代から第4世代に至るまで一貫してNECだ。第1世代の開発において、セブン銀行とNECとの協議によりテンキーを選定。金融機関向けのキーボードで実績を持つ東プレに声をかけたという。

当時、東プレはOEMとして金融機関向けキーボードを納入していた。もともと自動車関連製品のプレス加工がメインの同社が、定温物流や空調機器の事業を展開し、1983年に電子機器業界へも進出。独自の「静電容量無接点方式」スイッチを採用した業務用キーボードの販売を開始していた。

  • 東プレのキーボード。これはセブン銀行の設立25周年の限定キーボードと オリジナルキーストラップ(非売品)。X(旧Twitter)で行われた25周年プレゼントキャンペーンの賞品となっている。現在キャンペーン募集は終了済み

    東プレのキーボード。これはセブン銀行の設立25周年の限定キーボードと オリジナルキーストラップ(非売品)。X(旧Twitter)で行われた25周年プレゼントキャンペーンの賞品となっている。現在キャンペーン募集は終了済み

  • 記念モデルとは異なるが、こちらは2021年に登場したREALFORCEシリーズの第3世代モデル「R3キーボード」。静音仕様の静電容量無接点式キーが使われている

    記念モデルとは異なるが、こちらは2021年に登場したREALFORCEシリーズの第3世代モデル「R3キーボード」。静音仕様の静電容量無接点式キーが使われている

  • セブン銀行ATMを共同開発した日本電気(NEC)は、テンキーの物理的な押し心地や設置位置だけでなく、ATM画面の表示や操作音、発光といった要素と連動させ、利用者にわかりやすく安心感のある操作性を総合的に設計した。写真左が牛膓氏、右が坂下氏

REALFORCEの静音キーはATMから始まった!

当初は金融機関やデータセンターで使用される業務用として開発しており、その歴史は2001年登場の「REALFORCE」よりも長い。東プレ 電子機器部技術部の部長・榎本賢貴氏は「テンキーの基本的な構造は業務用とコンシューマ用で変わっておらず、耐久性やフィーリングにはかなり力を入れて開発してきた」と振り返る。

ATMのテンキーにはコンシューマ向けとは異なる特殊な仕様が必要となる。テンキーに組み込まれたセキュリティ構造の話は非公開ということで詳しくは書けないが、ATMのテンキーを開発するにあたっては「セキュリティ」が最重要事項となる。

  • 東プレの電子機器部技術部部長・榎本氏(左)と営業部の斎藤氏(右)

数字を入力する手元が周囲から見えにくい構造であることはもちろん、打鍵音がすべて均一であることも不可欠だ。これは打鍵音の違いから暗証番号を推測されるリスクを防ぐためのレギュレーションであり、榎本氏によれば「スイッチの構造は一緒だが、コンシューマ製品とは中身がまったく異なる」のがATMのテンキーだという。

セブン銀行ATMも第1世代は静音仕様ではなかったが、打鍵音を均一化するため静音仕様に変更した経緯があったそうだ。これが第2世代ATMの頃で、東プレではコンシューマ製品よりも先に、ATMのテンキーで静音化が実現された形だ。この技術がのちのREALFORCEにも、静音キーとして引き継がれていく。

  • 第4世代ATMのテンキー部分。キーの打鍵音を抑えた静音仕様になっている

    第4世代ATMのテンキー部分。キーの打鍵音を抑えた静音仕様になっている

激論を経て決まった45g荷重・4mmストローク

もともと打鍵感に定評のある東プレ製キーボードだが、初期のセブン銀行ATMではセキュリティ要件のクリアが最優先され、テンキーのフィーリングに関する独自のカスタマイズは行われていなかった。しかし、第3世代ATMの開発時から、操作時の「心地よさ」に対する探求がさらに高められた。

開発の現場では、セブン銀行社員がテスト用テンキーを叩いて打鍵感を検討するプロセスが導入された。複数のキーストロークや荷重の組み合わせを用意し、その中でどの打鍵感が利用者にとって最も心地よいかを吟味し、実際のテンキーとして選定するようになった。

結果として、キー荷重は45g、キーストロークは4mmが採用された。荷重は30g、45g、55g、ストロークは2mm、3mm、4mmという計9種類の組み合わせの中から選ばれた。このテストでは、軽い方がいいという意見、ストロークが浅いと打ちにくいといった意見もあり、テストしたメンバー内でも意見が割れることもあった。

「それでも多数決で安易に決めることは避け、徹底的に議論を重ねた」と水村氏。結果として45g荷重・4mmストロークという数値に落ち着いたという。

  • 第3世代ATMのテンキー試作機(左)と、第4世代ATMのテンキー試作機(右)

テンキー配置とユニバーサルデザインの進化

ATM本体におけるテンキーの配置は、身長の高低、車椅子の利用者など、さまざまなユーザー属性を考慮し、最大公約数を導き出す必要がある。第1世代から次第にテンキーの位置は低くなり、車椅子利用でも使いやすい高さを心がけつつ、一方で背が高い人でも不快にならない高さでバランスを保っているという。

  • 第4世代のATMでは、テンキーの位置が従来よりも少し下に配置されている

    第4世代のATMでは、テンキーの位置が従来よりも少し下に配置されている

セブン銀行のATMは全国で約28,000台で、その平均利用件数は1台あたり約100件。そのたびに金額や暗証番号がテンキーで入力され、1回の取引で10回以上のキーが打たれると考えた場合、単純計算だと、年間で1台あたり約36万回以上の打鍵がされることになる(10打鍵×100件/日×365日)。

こうしたことから、ATMのテンキーは耐久性に関しても明確な要件定義を行って、規定の年数を耐えられるよう計算して設計・製造を行っているという。

アイソレーション、カラー、配置にこだわり

セブン銀行ATMでは、海外で発行されたカードを取り扱う関係で、国際的なセキュリティ基準をクリアする必要があり、ハードウェアキーでないとその要件が満たせなかった。しかし、近年では技術の進歩で、タッチパネルでもセキュリティ要件をクリアできるようになってきている。そのため、「第4世代ATMでは物理キーを廃止する可能性もなくはなかった」と水村氏は明かす。

それでも、実際に物理キーとタッチパネルでのテンキーを比較すると、その操作感には歴然とした差があった。結果として、「物理キーというこだわりを貫き通した」と水村氏は強調する。

そうしたこだわりは、キーそのもの以外にも発揮されている。例えば第3世代から第4世代へと進化する中では、ATM操作時の音や光による視覚的な誘導も取り入れられた。次に操作するところが光るため、カードを入れて、その次にテンキーを操作して、という動作が直感的に分かるような設計となっている。

  • セブン銀行ATMでは、まずキャッシュカードを挿入するため、カードの位置のライトが点灯している

    セブン銀行ATMでは、まずキャッシュカードを挿入するため、カードの位置のライトが点灯している

  • 続いてテンキーの入力となるためテンキー位置が光る

    続いてテンキーの入力となるためテンキー位置が光る

テンキーの光らせ方も、キートップの天面全体を光らせたり、文字の部分だけ光を透けさせたり、キーの周辺を光らせたりする試作が行われ、最終的には視認性と操作性のバランスを考慮して、キーの文字部分だけが光り、テンキー周辺の空間全体を照らす仕様となった。

  • 第4世代ATMテンキーの光り方の試作機。これは数字の部分のみに加えて、下段の「円」などのキーは周囲が光っている

    第4世代ATMテンキーの光り方の試作機。これは数字の部分のみに加えて、下段の「円」などのキーは周囲が光っている

  • 第4世代ATMの実機。最終的には最下段キーの周囲は光らせず、全キーが同じように光る形に落ち着いた

    第4世代ATMの実機。最終的には最下段キーの周囲は光らせず、全キーが同じように光る形に落ち着いた

テンキーの光は、周囲からの覗き見を防止するためのバイザー(覆い)によりテンキーの奥が暗くなることへの配慮でもある。第4世代では清潔感と安心感のあるブルー系のライトを採用したのも、ユーザー体験全体を高める工夫の1つ。

またキーキャップの文字部分を光らせるため、従来の昇華印刷(専用インクを素材に染み込ませる技術)から、2色成形(異なる素材を組み合わせて1つの形を作る技術。プリントではないため文字がかすれない)方式へと変更された。

キーキャップの形状も、コンシューマ向けキーボードのキーのように表面が湾曲しておらず、平らな形状だ。これは、キートップにホコリが溜まることを防ぐため。また、悪意のあるキーキャップの引き抜きにも対策も施されている。

  • 第4世代ATMテンキー試作機を横から見たところ。キートップは平ら

    第4世代ATMテンキー試作機を横から見たところ。キートップは平ら

  • REALFORCE R3キーボードを横から見たところ。指の丸みで押しやすいよう、キートップにへこみが設けられている

    REALFORCE R3キーボードを横から見たところ。指の丸みで押しやすいよう、キートップにへこみが設けられている

  • 第3世代ATMテンキー(左)と第4世代ATMテンキー(右)。いわゆるアイソレーション(飛び石)タイプになった

    第3世代ATMテンキー(左)と第4世代ATMテンキー(右)。いわゆるアイソレーション(飛び石)タイプになった

第4世代ATMテンキーではホコリがキー同士のすき間に入り込んで掃除がしづらいという課題を解消し、サッと拭き掃除ができるというメンテナンス性の高さも実現した。この形状はいわゆるアイソレーション(飛び石)型となり、東プレのキーボードとしては初めてのアイソレーションキーボードになる、という。

  • ちなみにコンシューマ向けのREALFORCEテンキー製品も存在するが、こちらは第3世代ATMテンキーと同じく各キーが隣り合っている形だ

    ちなみにコンシューマ向けのREALFORCEテンキー製品も存在するが、こちらは第3世代ATMテンキーと同じく各キーが隣り合っている形だ

色彩面でも配慮した。第4世代ATMでは初めてカラーユニバーサルデザインを取り入れ、テンキーの「訂正」や「確認」の色は、色弱者にも識別しやすいカラーリングとなった。

操作インタフェース全体では、右側にテンキーを配置し、左側にはスマートフォンやマイナンバーカード、QRコードの読み取りなどを集約。これによってユーザーが視線を動かして迷うことのないように工夫した。

カード挿入口を含めたトータルの配置として現在の配置が最適解という判断だ。なお、テンキーの下には余白が設けられているが、ここは「将来的な機能拡張を見据えたスペース」(水村氏)だという。

  • 右側にテンキー、左側にマイナンバーカードやスマートフォンのリーダーを配置。その上部にはQRコードの読み取り機も設置されている

    右側にテンキー、左側にマイナンバーカードやスマートフォンのリーダーを配置。その上部にはQRコードの読み取り機も設置されている

  • このテンキー下の空間は、今後何か機能を追加することが想定されているらしい

    このテンキー下の空間は、今後何か機能を追加することが想定されているらしい

テンキー単体にとどまらず、ハードウェアとソフトウェアのトータルでのユーザー体験を重視し、こだわり抜いて設計されたセブン銀行ATM。金融機関のATMが減少傾向にある中、ファミリーマートの店頭にも進出することになっており、そのネットワークはさらに拡大する。

全国銀行協会によれば、一般的な金融機関のCD(キャッシュディスペンサー)を含むATM設置台数は82,932台(2025年9月末時点)。単独ではゆうちょ銀行が31,172台だが、ファミリーマートへの展開を踏まえるとセブン銀行ATMがこれを追い抜くことは間違いない。

他社のATMとセブン銀行ATMでは、それぞれUI・UXが異なるため、操作に戸惑うユーザーがいるのではないかという懸念もある。しかし水村氏は、光による視覚的な誘導や配置によって、「他社と比べても直感的に使える」と、自社のユーザー体験へのこだわりに自信を見せる。

今後、セブン銀行ATMは「第5世代」へ向け進化を続けていくだろう。こだわりの追求によって、「より心地よく、使い勝手の良いATM」へと進化することに期待したい。