監視カメラシステムや入退室管理システムを手掛ける株式会社セキュアが、顔認証で入店や決済ができる無人店舗「SECURE AI STORE LAB」を、2020年7月1日、東京・新宿の新宿住友ビル地下1階にオープンする。店内に入る際には、顔認証システムによりゲートが開閉。棚から商品を取り出すだけで、紐づけておいたクレジットカードなどでキャッシュレス決済が可能になり、手ぶらで買い物ができる。

  • 新宿住友ビル地下1階にオープンする「SECURE AI STORE LAB」の入口

    新宿住友ビル地下1階にオープンする「SECURE AI STORE LAB」の入口

まずは、化粧品・コスメ情報専門ポータルサイト「@コスメ」を展開しているアイスタイルグループの子会社「アイスタイルトレーディング」の日本発コスメブランド「@cosme nippon(アットコスメニッポン)」の商品を販売する。

セキュアでは今後、改良を加えながら、無人店舗ソリューションとしてパッケージ化。2021年1月から商用サービスとして提供する予定だ。

withコロナ時代、注目を集める無人店舗

セキュアの谷口辰成社長は、「最新のAIテクノロジーを活用し、来店客の利便性や新しい購入体験を実現する一方、店舗の無人化、省力化、効率化を目指すソリューションを実現したい。自社で、直接、実店舗を運営することで、開発スピードを高め、最適なソリューションを提供できる」としている。

同社は他のテクノロジー企業とのパートナーシップも強化。日本発の技術を集約した無人店舗の取り組みとして注目も集めそうだ。

セキュアは、2002年10月に設立以来、独自のAI技術を活用した入退出管理システムや監視カメラソリューション、顔認証ソリューションなどで実績を持つ企業だ。アルソックや九州フィナンシャルグループ、メルカリなど、国内4,000社以上の導入実績を持っている。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大とともに、施設での入場者数制限が行われたり、企業における新たな時代に向けた働き方改革が推進されたりしている。接触がない認証システムの導入などによって衛生上の問題を解決するといった動きが促進されており、同社の監視カメラソリューションや顔認証ソリューションなどが注目を集めているという。

無人店舗の出店は、こうした従来の同社事業とは一線を画すようにも見えるが、セキュアの谷口社長は、店舗事業に進出するのではなく、あくまでも実験店舗とし、新たなソリューション提案につなげる取り組みだと位置づける。

「当社が主力事業とする監視カメラシステムや入退出管理システムは、オフィスや工場、店舗などのセキュリティ強化の目的だけでなく、AIと組み合わせることで、もっと多目的に利用できると考えてきた。システムやネットワークに、AIを実装していくには、知見やノウハウが必要であり、セキュアはこれまでの実績によってそれらを蓄積してきた強みがある。知見を生かし、監視カメラシステムなどにAIを組み合わせて、新たな店舗ソリューションの提案を行うために、自ら実験店舗を運営する。無人店舗の運営を通じて、最適化した店舗ソリューションを提供したい」とする。

  • セキュアの谷口辰成社長(左)とセキュア 事業開発部の平本洋輔取締役(右)

入店者数の制限や検温の無人化も低コストで

SECURE AI STORE LABの仕組みはこうだ。

来店客は、サイトで事前に情報を登録し、来店時にゲートに設置したカメラを使って顔情報を登録すれば、顔認証によってゲートが開き、入店ができる。2回目以降は顔認証だけで済み、1秒以内に認識するため、立ち止まることがなく入店が可能だ。

  • 顔認証によってゲートを開いて入店できる

商品棚の管理にはAIを活用。カメラ映像や重量センサーの情報をもとに、リアルタイムに在庫数を把握。これをもとに、商品を配置した場所をもとに売上げの変化を分析するなどし、売れ筋商品をどこに展示するのが効果的かといったデータを抽出できる。

また、商品棚には小型カメラを内蔵するとともに、商品と連動するタッチ型サイネージを設置。サイネージには手にした商品の説明や、SNSの口コミ情報などを表示しており、タッチしてスクロールさせながら、商品の評価などを見ることができる。ECサイトと同じような購入体験が、リアルの店舗でも可能になるというわけだ。

  • 商品棚の様子。サイネージを設置し、小型カメラも内蔵している

また、属性にあわせて、メーカーや店舗からのお勧め情報も表示でき、来店客が、商品に関して知りたい情報をその場で得ることができる。商品の陳列数が減るとスタッフに通知して、販売機会の損失を防ぐほか、AIの活用によって、万引きなどの犯罪も検知することも可能になる。

さらに、カメラ映像の解析や複数のセンサーによって、来店者の動線分析や表情分析も行うことができ、手に取ったが買われなかった商品や、商品がどれくらい手に取られているかといったデータも見える化する。

セキュア 事業開発部の平本洋輔取締役は、「データアナリティクス機能により、売上げのサマリーや棚状況の分析ができ、商品や棚ごとのCTR(クリック率)やCVR(コンバージョン率)も把握できる。商品が触れられずに売れていないのか、あるいは触れられているのに売れていないのか、といったことがわかり、対策も立てやすくなる。外部データなどと組み合わせて、売れている理由を把握できることから、それをもとにした最適な仕入れや在庫管理にも生かせる。また、来店客の年齢、性別の分析も可能であり、店舗のKPIを見ることができる。例えば眼鏡をかけた人が特定の商品の前に止まっていることが多いといった分析も可能であり、それをもとにした販売提案にもつなげられる」とする。

手に取った商品は自動認識され、待ち時間がなく決済できるので、そのまま退店できる。財布が不要であるばかりでなく、スマホで決済端末にタッチするといったことも不要だ。

今回のSECURE AI STORE LABでは、購入者自身が間違った課金がされていないかを確認するために、ゲートにあるディスプレイでタッチをして決済内容を確認する仕組みとなっているが、顔認証だけでゲートを開けて、決済を完了できるようにすることができる。また、セルフレジの仕組みを導入して決済することも可能だという。

  • 出口で決済を確認している様子

  • 決済情報はこんな形で表示される

「来店者は事前登録を済ませておけば、手ぶらで買い物ができる。すでにいくつかの無人店舗の実証実験が始まっているが、顔認証による入店や決済を行っているケースのほとんどは、社員に限定したものになっている。一般顧客を広く対象にしたケースは珍しい。また、来店客は、買い物に必要な商品情報なども入手できる。店舗側は、無人化するといった用途だけでなく、人が行わなくてもいい作業をすべてAIに任せ、空いた時間を接客などに利用でき、顧客満足度を高めるといった使い方も可能になる。このように、無人店舗をゴールとしない提案もしていきたい。また、フランチャイズの場合には、本部の担当者がカメラを使って店舗の様子を確認するといった使い方もできる。顧客や店舗側にとって、新たな仕掛けを数多く実現した店舗になっている」(平本取締役)とする。

SECURE AI STORE LABでは、新型コロナウイルス感染防止のために、入店者数も自動的に制限することが可能であり、約5坪の店内には、最大8人までは入れるが、4人までの入店に制御している。また、サーマルカメラを利用して、37.5度以上の熱を検知すると、ゲートが開かない仕組みもある。

  • サーマルカメラで37.5度以上を検知するとゲートが開かない

今回の実験店舗では天井や棚などに約15台のカメラを設置。棚にはセンサーも設置しているが、今後、画像データを蓄積することで、カメラの画像解析だけでの商品管理を可能にする考えだ。

  • 天井には多くのカメラが設置されている

入店時の顔認証においては、店内のPCで顔検出部分だけを処理。マッチングはクラウドを利用するなど、店舗側にITリソースの負荷がかからないように構築した。店舗には一般的な性能のノートPCだけで済むほか、登録者数が増えてもクラウド側のリソースを拡張できるため、運用コストや拡張コストを抑えることができる。

また、「@cosme nippon(アットコスメニッポン)」は、商品化されている26種類のすべてを展示、販売する。同社のECサイトでの販売データや、ポータルサイトのデータを連携させた分析などを行い、展示の改善などにも反映させるという。

  • 「@cosme nippon」の26種類の製品を展示販売している

店舗は無人での運用もできるが、1人常駐させて、接客対応を加えることで顧客満足度向上の成果なども推し量る考えで、「無人店舗での運用だけをゴールには置かずに、新たな店舗運営の形を提案したい」(平本取締役)としている。

無人店舗はゴールとせず、小売店の新形態を模索

セキュアが、新宿の高層ビルの地下1階という好条件の立地に、無人店舗をオープンする理由について、平本取締役は次のように語る。

「無人店舗などの仕組みを実験的に導入したいと思っている小売店舗があっても、それによって売上げが減少したり、イメージが下がってしまったりといった懸念があり、踏み出せないという状況が生まれていた。そこで、我々が自らやってみて、ある程度、成果が見えたものを提供していくことが最適であると考えた。また、場所を持っていることは、店舗運営に関するデータやノウハウを蓄積したり、新たなテクノロジーを実装したりといったことがやりやすい環境にもつながる。顧客に最適化したソリューションを開発し、リリースするための役割を担う拠点になる。LABという名称をつけたのもそうした意味がある」とする。

そして、「大手企業とは違って、ベンチャーは何度も失敗を繰り返すことができ、それによって成長することができる。自ら店舗を持つことで、運用上の問題や、小売店が本当に必要とする機能やソリューションを実装することができ、アイデアをどこまで実現できるかといったことも、卓上の議論ではなく、実際に店舗で検証できる」とする。

まずは、2020年内までの半年間をかけて検証するが、同社では、この店舗で2年間の賃貸契約を結んでおり、半年ごとにテーマを変えながら、最新テクノロジーを活用した様々な取り組みを行っていく考えだ。

一方で、平本取締役は、「本来は6月にオープンする予定であったが、新型コロナウイルスの影響もあって、1カ月ずれ込んだ。だが、検討を開始してから7カ月という短期間で出店することができた」としながら、「短期間で出店できた理由のひとつが、パートナーとのエコシステムで取り組んだ点にある」とする。

ユーザー登録アプリの開発企業や、データ分析企業、電子値札を提供する企業とも連携することで、今回のスピード出店につながっている。

「パートナーとの連携により、提案の幅を広げたいと考えており、今後も、テクノロジー企業や小売店、DCブランド企業などを含めて、パートナーシップは広げたい。地方の有名店と組んで、新たな小売店舗の可能性を模索するといったこともやっていきたい」とする。

地方の老舗店が、無人店舗で首都圏に出店するといった提案にもつながる可能性がある。

だが、先にも触れたように、SECURE AI STORE LABは、無人店舗の運営だけを目指すのではない。

「新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、小売店での接客の方法も変化しようとしている。テクノロジーを活用しながら、変化しないと生き残れないと思っている小売店も少なくない。そして、監視カメラと他のシステムとの連携したい、あるいはAIを活用した自動化をしたいといったように要望は多岐に渡っている。AIであっても多くの人が技術的な壁を感じることなく導入しやすい環境を提案するとともに、コスト面でも導入しやすいことを狙いたい。リテール業界に新たな店舗の姿を提案したい」(平本取締役)とする。

また、谷口社長も、「当社の強みはセキュリティにある。新たな取り組みを通じてのその強みは生かした。書店やドラッグストアなど、ロス率が高い店舗の経営改善などに生かしたい」とする。

商用サービス提供は来年1月、サブスク方式も視野

セキュアでは、2021年1月を目標に、商用サービスの提供を開始する予定だ。

「顔認証決済や入店・退店管理、AI棚管理、サイネージ機能など、機能ごとにメニュー化して、それぞれの課題解決ができるように、柔軟な選択肢を用意したい。さらに、他のサービスや、ECなどとのAPI連携も可能にしたい。サブスクリプションモデルとして、なるべく低価格で提供したい」(平本取締役)とする。

SECURE AI STORE LABでの取り組みを通じて、どんなサービスが創出されるかも注目されるが、それとともに実装しやすく、低コストで導入できるソリューションの提供にも期待したい。

SECURE AI STORE LABは、2020年7月1日にプレオープンし、小売店関係者や同社ユーザー企業の経営者などに公開。7月13日から、一般顧客を対象に本格オープン。営業時間は午前9時~午後7時。定休日は、水曜日および土曜日、日曜日、祝日となっている。

「水曜日を定休日にしたのは、業界関係者などに、ゆっくりと体験をしてもらう日にしたため」(平本取締役)という。

住所は、東京都新宿区西新宿2-6-1 新宿住友ビル地下1階。都営大江戸線の都庁前駅とも直結している。店舗の公式サイトはこちら

SECURE AI STORE LABが、小売店舗の未来にどんな貢献をするかが楽しみだ。