富士通クライアントコンピューティング(以下、FCCL)が本社オフィスを神奈川県・新川崎に移転してから、2020年3月で約4カ月が経過した(2019年11月25日に移転)。新しい本社オフィスは、社員が働きやすい環境を実現するだけでなく、オフィス全体を働き方や職場を改善するためのリアルな実験場と位置付け、その成果を「商材」にしたり、有能な人材を「獲得」したりするための場として活用することを狙う。

  • 富士通クライアントコンピューティング(FCCL)

    エントランスにはFCCLのロゴ

「社員が常に製品の改善を提案できる実験的なオフィス環境によって、自ら働き方改革を行い、製品への反映、提案を目指す」とするFCCL本社オフィスを訪れ、その取り組みを見た。

FCCLの本社は、もともとは神奈川県武蔵中原の富士通川崎工場の中にあった。だが、2018年5月にLenovo Group Limitedが51%を出資し、新生FCCLをスタート。これにより、富士通川崎工場にあった本社機能と開発機能を、新川崎の新オフィスと、同じ武蔵中原に借りた新オフィスに移転。新川崎は本社として、スタッフ部門や開発部門などが入居し、武蔵中原の新オフィスには、R&Dセンターの名称をつけ、研究部門および開発部門が入居する。

新川崎の本社オフィスは、新川崎三井ビルディングの中にある。JR南武線の鹿島田駅から徒歩3分、JR横須賀線の新川崎駅からは徒歩4分の距離だ。

  • 富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部商品企画統括部チーフデザインプロデューサーの藤田博之氏

    FCCL プロダクトマネジメント本部商品企画統括部チーフデザインプロデューサーの藤田博之氏

本社オフィスのデザインを手がけたFCCLの藤田博之氏は、「本社オフィスをデザインするときは、業務効率が上がって創造性も高まることで、社員の笑顔が増えるオフィスを目指した」とする一方、「FCCLはコンピューティングの会社。その立場とコンピューティングやエッジAIを活用することで、何ができるのか、どんな改善ができるのか、といったことを実験するリアルな場にしたいと考えた」と、FCCLならではの本社づくりを目指したことを示す。

藤田氏は、FMVシリーズPCのデザインを担当する一方、2019年2月25日から稼働させた東京・田町のFCCL東京オフィスでもデザインを担当。東京オフィスでは、FCCLとして初めてフリーアドレス制を採用するなど、働き方改革を顧客に提案するFCCLが、自ら働き方改革を実践する場として活用しているところだ。

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    オフィス内の様子。基本はフリーアドレスだ

新川崎の本社オフィスでは、この成果を反映。さらに、本社で働く社員たちにどんなオフィスが必要なのかを直接議論してもらい、それらの意見も反映した。社員が与えられたオフィスで働くのではなく、自ら考えて働くオフィスづくりを目指したというわけだ。これも、「リアルな実験場」とする取り組みのひとつといえる。

本社オフィスのデザインにおいて、FCCLは「feel ! fccl」を打ち出し、業務効率や創造性、コミュニケーションの向上を図った。合わせて、残業が減り、固定費が削減され、スレトスが減り、社員が健康的になるオフィスを目指し、その成果として「社員が笑顔になれる」オフィスづくりを掲げる。そこでは「自然に」何かができたりといった要素のほか、「優しく」「知的に」「素早く」「美しく」という観点からも何かができたり、業務効率やコミュニケーション、創造性が生まれることを目指したという。

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    FCCLの新オフィス、31階から見た景色の様子。見晴らし抜群

FCCLの本社オフィスには、齋藤邦彰社長をはじめとする役員のほか、本社スタッフ部門、商品企画部門、ハードウェアおよびソフトウェアの開発部門、品質保証部門、調達部門、情報システム部門などが入り、全体で700人強が勤務する。高層オフィスの17階、18階、29階、30階、31階という5フロアを使っており、晴れた日には窓から富士山がよく見える。

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    ここはFCCLの齋藤邦彰社長の部屋

オフィス内は、木目調の机を採用したり、落ちついた色のカーペットを敷いたりといった環境を整備。中央部には大きな机を配置して、部門を超えたコミュニケーションや、さっと集まってミーティングが行えるようにした。ミーティングスペースは随所に用意し、ファミレス風のソファと机を導入したスペースもある。

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    オフィス家具には黒と木目を生かしたものを使用している

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    オフィスの中央部に会議でできるスペースを用意

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    中央部のスペースを利用することで、様々な部門から社員が集まりやすい

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    ちょっとしたミーティングが可能なエリアもある

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    ファミレス風のミーティングスペースも用意した

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    休憩したり、気分転換ができるスペースも用意

31階のエントランスエリアに集中している個室の会議室では、カーペットもそれぞれに異なった色調のものを採用。会議室で廊下に面する部分は半透明のガラスとして、外からはホワイトボードに書かれている文字や出席者の顔が識別できないが、誰かが会議を行っていることはわかるようにしている。「ガラスの透明度については、3回張り替えて、最適なものを選択した」という。ここでは、最大70人が入れる会議室も用意。ゲストが自由に使えるWi-Fiも完備している。

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    31階フロアの会議室の様子

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    中の様子がうっすらと見えるが、パワポの資料の内容などは外からは見えない

役員会議室にはホワイトボードを設置していない部屋も用意。ペーパーレスで会議が行えるようにしている。ちなみに、齋藤社長以下の幹部社員は、全員が電子ペーパー「QUADERNO(クアデルノ)」を使用しており、これも役員会議のペーパーレス化を支えることになる。

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    役員フロアに用意された待ち合わせエリア

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    役員会議室はホワイトボードが置かれていない

人事部門や総務部門以外はすべてフリーアドレスとし、机の上には31型曲面ディスプレイおよび27型平面ディスプレイを配置。同じサイズのディスプレイを2台組み合わせて使うこともできる。社員は、所有するノートPCをこれらディスプレイに接続して利用。その日の業務に最適なディスプレイを選択できるほか、統一された美観と知的なオフィス空間を実現している。

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    ディスプレイは仕事にあわせてサイズや形状を選択できるようにしている

「かつてのオフィスは不ぞろいディスプレイが机に置かれており、本体カラーが白だったことから、使っていくうちに黄色く変色し、美観を損ねていた。統一された美観とケーブルの削減によって知的な空間を実現する一方、フリーアドレスの特長を生かして、その日の業務内容に合わせて、最適なディスプレイを選べるようにした」(藤田氏)。

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    31型曲面ディスプレイも用意。開発者には最適なディスプレイだ

そのほか、フリーアドレスでありながら、自然と居場所が管理できる仕組みや、場所が離れていても、お互いが自然にチームプレイできる仕組み、オープンスペースでもテレビ会議が行いやすい環境を追求。今後は、等身大の映像でコミュニケーションできる技術や、3D、VR、ARを活用した開発体制の確立などにも取り組む考えだ。ちなみに、2019年2月に稼働した東京オフィスではフリーアドレスを導入済みだったが、本社部門や開発部門のフリーアドレスは今回が初めてとなる。

藤田氏は、「東京オフィスでも試行錯誤を繰り返しながら、フリーアドレスの定着に取り組んできた。一般的には、フリーアドレスの成功率は6割程度とも言われている。成功した要因のひとつは、社員に、仕事に対する考え方を変えてもらうこと。FCCLの社員全員に対して、改めてフリーアドレスに向けた考え方を示し、まずは6カ月間、試して欲しいと提案している」という。

たとえば、自由に席を決められるフリーアドレスは、出社時にロッカーから自分の荷物を取り出し、帰宅時にはロッカーに片づけることが前提となる。

「明日もこの仕事の続きをやるから、出しっぱなしのほうが効率的というのがこれまでの考え方。確かにその側面は否定しない」(藤田氏)としながらも、「毎朝、今日やることを考え、準備し、作業し、片づけて帰宅――というのがフリーアドレスで仕事をする基本的な考え方。これによって、自然と脳が整理されたり、不要な資料はその日のうちに処分したりといった行動になっていく。結果的に、業務効率の向上につながる」(藤田氏)と提案する。

これまで固定席だった開発部門では、当初、フリーアドレスはそぐわないのではないかといった声もあがっていた。しかし、フリーアドレス導入後は、いち早く浸透させたのが開発部門だったという。

  • 富士通クライアントコンピューティング(FCCL)
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    会議室の様子。フロアの素材を変えている

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    大きめの会議室も用意されている

ユニークな取り組み「Tech Pit」

もうひとつ、本社オフィスでユニークな取り組みが、OSC(Office Service Center)の「Tech Pit」だ。

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    Tech Pitでは修理中のPCや修理が完了したPCがカウンターに置かれている

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    修理作業がしやすいようにカウンターにもコンセントを用意

Tech Pitは、「社員のPCが壊れた」「操作方法がわからない」といった場合に、持ち込みが可能な社内サポート窓口だ。オンラインによるサポートも行っている。

これまでは正式な窓口があり、混雑しているときは順番待ちが通常だったが、Tech Pitでは背の高いカウンターとカウンタースツールを用意。社内サポート窓口を気軽に訪れて、気軽に話せる環境を作った。カウンターの上には、修理中のPCや修理が終わったPCが並び、担当者はカウンターの横で立ったまま作業。このスタイルが、フラッとやってきた社員が話しやすい空気を醸し出すことにも成功している。

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    Tech Pit ではMIBを活用した情報発信も行っている

また、Tech Pitでは、FCCLが開発した教育向けエッジコンピュータの「MIB(Men in Box)」を設置。エッジコンピュータを活用した社内向けの情報配信も開始している。

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    Tech Pitのロゴも用意されている

  • エッジコンピュータの「MIB(Men in Box)」

    役員フロアにも置かれたMIB。エッジコンピュータの活用を自ら模索している

本社オフィスでは今後、社内向けサービスなどにおいて、「MIB」やエッジAIコンピュータ「Infini-Brain」を活用した各種実験を行う予定だ。Tech Pitの取り組みはその先駆けとなる。そして、これらの成果は、FCCLの「商材」へとつなげることも視野に入れている。

  • エッジAIコンピュータ「Infini-Brain」

    エントランスのエリアには、エッジAIコンピュータ「Infini-Brain」のプロトタイプを展示

リアルな実験場のいろいろ

先述の通り、FCCLの本社オフィスで目指したのは、「オフィスがリアルな実験場」であることだ。

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    本社オフィスのエントランスの様子。斜めの通路を作り、広がりを見せている

「FCCLは、コンピューティングやエッジAIを提供するだけでなく、それを活用して、働き方改革を提案する企業。自分たちの職場や働き方を、コンピューティングやエッジAIで改善すればするほど、そこからFCCLの商材が生まれる。また、働きやすく、新たなことに挑戦するオフィス環境は、若い人材や優秀な人材を獲得することにもつながる。その結果、FCCLが継続的に発展する仕組みを構築できる」(藤田氏)。

また、こんなことにも取り組んでいる。エントランス部分には、最新の機器を一堂に展示しているほか、製品紹介の動画や、ブランドイメージおよび企業イメージを高める動画を随時放映。

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    FCCLの最新のPCが展示されている

一見すると受付エリアに製品を展示しているだけに見えるが、実はここにも「実験場」としての役割がある。店頭展示をした際に、その商品に最適な見せ方はどうかといったことを検証する場にもなっているからだ。商品やカタログ、POPの置き方、展示台の色や高さなども検証の対象になるという。「展示PCに盗難防止ワイヤーがなくても盗まれない展示とは」といったことも検証している。

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    店頭展示の検証などを行うこともできる

さらにこのエリアでは、3台のディスプレイを使って、それぞれ別々の映像を流しているが、5分ごとに3台のディスプレイがリンクした形で映像を流す。そうした視覚効果なども検証している。

「これも、創意工夫のきっかけづくりを目指したもの」(藤田氏)。

今後は3Dディスプレイを活用して、FCCLの対話型AIアシスタント「ふくまろ」が来客者を迎えるといった実験も行う予定だ。

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    受付の様子。将来は「ふくまろ」が対応する予定だ

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    3台のディスプレイを連動させて視覚効果を検証する

このように、FCCLの本社オフィスは、社員の働きやすさを追求したり、働き方改革を促進するという狙いだけでなく、社員の実践によってオフィスを進化させ、その成果を商品やサービス、マーケティングなどにも生かそうとしている。「実験場」を担うFCCL本社オフィスの成果が、商品やサービスなどに、これからどんな形で反映されるのか楽しみだ。