セイコーエプソンは、2022年5月18日、「エプソンミュージアム諏訪」を、長野県諏訪市の同社本社内に開設し、一般公開を開始した。

1942年5月の創業以来、80周年を迎えたのにあわせて、エプソンの歴史や、同社が送り出してきた製品を知ることができる場として整備。1945年10月に竣工した当時の社屋を改修した「創業記念館」ととともに、従来からある「ものづくり歴史館」も改装し、2つの施設で構成している。

  • 諏訪湖のほとり、時計部品からはじまった「省・小・精」の技術 - エプソンミュージアム公開

    2022年5月18日にオープンした「エプソンミュージアム諏訪」の創業記念館

  • 1945年10月に竣工した当時の社屋の様子(写真は 1949 年当時の事務棟)

セイコーエプソンの小川恭範社長は、「エプソンは、諏訪湖のほとりで時計部品の製造からスタートした。創業者である山崎久夫は、『諏訪湖を絶対に汚してはいけない』という強い信念を持っていた。その誠実な想いは、いまも受け継いでいる」と語り、「1942年の創業以来培ってきた『省・小・精』の技術をベースに、独創のものづくりを志し、世界中でお客様の期待を超える製品、サービスをお届けするために、創造と挑戦を重ねてきた。現在、推進中の『Epson 25 Renewed』では、ありたい姿を『持続可能でこころ豊かな社会を実現する』と定め、これまでのように強い技術で革新的製品を生み出すという発想だけでなく、技術によってさまざまな社会課題を解決するという視点で、事業を展開している。とくに、地球環境問題に対しては、その克服のために最大限の努力をしている」と語り、エプソンミュージアム諏訪を通じて、創業から現在に至るまでのエプソンの基本姿勢や、受け継いできたモノづくり企業ならではのDNAなどを知ることができることを訴えた。

  • エプソンミュージアム諏訪のオープンにあわせて挨拶するセイコーエプソンの小川恭範社長

  • 創業記念館の前に立つセイコーエプソンの小川恭範社長(左)と、セイコーエプソン 執行役員 人事本部長兼健康経営推進室長の阿部栄一氏(右)

セイコーエプソンは、1942年5月18日に、服部時計店の腕時計製造部門であった第二精工舎の協力工場として設立した大和工業がルーツである。

味噌蔵を71坪の工場として改装し、「輪振り」と呼ぶ時計部品加工からスタートした。戦時中には一時的に兵器製造工場になったこともあったが、終戦後は時計部品加工だけでなく、時計製造にも乗り出し、1946年1月には第1号製品となる「5型腕時計(婦人用)」を完成させ。SEIKOブランドで発売した。この時計の誕生が、その後、諏訪が「東洋のスイス」と呼ばれる発端となった。

1959年には第二精工舎から諏訪工場の営業譲渡を受け、社名を諏訪精工舎へと変更。さらに、1961年12月には松本市に時計部品製造を行う信州精器を設立。1975年には信州精器がEPSONブランドを制定。1982年にはブランド名であるエプソンをそのまま社名にした。そして、1985年11月に諏訪精工舎とエプソンが合併。セイコーエプソンが誕生した。

ちなみにEPSONのブランドは、1968年9月に発売し、小型軽量デジタルプリンターとして大ヒットした「EP-101」に由来する。「EP-101のように価値ある子供(SON)たちが、世の中に多く出ていくように」という願いを込めたのが理由だ。

つまりEPSONは、EPシリーズの子供たちという意味がある。

セイコーエプソンでは、日本初のオリジナル時計と言われる「セイコーマーベル」(1956年)、オリンピック史上初めてとなる電子記録システム「プリンティングタイマー」(1963年)、世界初のクオーツ時計「セイコー クオーツアストロン35SQ」(1969年)、世界初のメロディICである「SVM7910」(1978年)、時代に先駆けたコンピュータ向け小型軽量プリンター「MP-80」(1980年)、世界初のハンドヘルドコンビュータ「HC-20」(1982年)、テレビ機能を搭載した腕時計「テレビウオッチ」(1982年)、同社の基幹事業に育つことになるインクジェットプリンターの「IP-130K」(1984年)、世界初の液晶ポケットカラーテレビ「ET-10」(1984年)などを発売している。

ウオッチ開発で培った超微細、精密加工技術を磨きあげ、これを多彩な分野に展開したことが、同社の成長につながっている。

創業記念館は、創業から1970年代までの歴史を紹介している。

1945年10月に竣工した、当時の社屋を改修し、創業当時の生産風景や、機械式時計とその技術や技能の進化、クオーツウオッチの開発に至るストーリー、小型デジタルプリンターの誕生と発展などを、実際の商品を見ながら、知ることができる。

同社では、「諏訪地方に時計産業を根付かせたいという、創業者の山崎久夫と、関係者の思いから始まり、機械式時計の技術、技能の進化を経て、世界初のクオーツウオッチや小型軽量デジタルプリンターの開発まで、創業以来培ってきた『省・小・精』の技術と、その歩みを紹介している」とする。

展示室は、大和工業創業から諏訪精工舎発足までのあゆみを、創業者の時計づくりへの情熱とともに辿る「誠実努力」、機械式時計の精度を競う世界的コンクールに挑戦し、頂点を極めたのちも、次世代腕時計を模索した「創造と挑戦」、革新的な製品や技術開発が加速し、事業の多角化に向けた一歩を踏み出した時代を振り返る「技術は人びとのために」の3つのエリアで構成している。

一方、ものづくり歴史館は、創業時からの製品や技術の変遷、長期ビジョンである「Epson 25 Renewed」の紹介、エプソンが取り組む5つのイノベーション(オフィス・ホームプリンティング、商業・産業プリンティング、マニュファクチャリング、ビジュアル、ライフスタイル)の紹介、プリント体験コーナーなどで構成している。かつての工場配置を再現したジオラマや創業当時の資料なども見ることができる。

エプソンミュージアム諏訪の見学は、完全予約制となっており、約80分~120分で全体を回ることができる。

・エプソンミュージアム諏訪
https://www.epson.jp/company/manufacturing_museum/

なお、創業時からの理念やこれまでの歴史をひもといた「セイコーエプソン創業80周年スペシャルサイト」もオープンする。

・セイコーエプソン創業80周年スペシャルサイト
https://80th.epson.com

エプソンミュージアム諏訪 創業記念館の様子

エプソンミュージアム諏訪の創業記念館の様子を写真で見てみよう。

  • セイコーエプソンの本社内にあるエプソンミュージアム諏訪

  • 創業記念館の入口の看板

  • 創業記念館の「誠実努力」の展示エリア。「誠実努力」はセイコーエプソンの基本姿勢となっている

  • 大和工業の創業時の写真。左が創業者の山崎久夫氏

  • かつての社屋の写真などが展示されている

  • 「誠実努力」の展示エリアの様子

  • 味噌蔵からスタートした歴史を紹介している

  • 持ち運びできるサイズに小型化した水晶時計の展示

  • 大和工業に設置されていた半鐘。火事に対する警戒心を持っていた創業者の思いが込められている

  • 1959年に誕生した諏訪精工舎の銘板

  • 創業記念館の「創造と挑戦」の展示エリア

  • 「創造と挑戦」の展示エリアの様子

  • エプソンにとって大きな挑戦となったスイス天文台コンクール

  • 国産初の独自時計マーベル、高級時計のグランドセイコーの誕生

  • 生産革新への取り組みについても紹介

  • 左側は放送局用水晶時計。電気回路には真空管が使われていたためロッカーほどのサイズだった。これが10年後には腕時計のサイズに小型化された

  • 右は、世界初のAC電源不要なポータブル型高精度水晶時計「セイコー クリスタルクロノメーター QC-951」。1963年に発売した

  • 当時の時計製造で利用していたピーターマン製のカム式旋盤機

  • 「技術は人びとのために」の展示エリア

  • 「技術は人びとのために」の展示エリアの様子

  • 1968年9月に発売した小型軽量デジタルプリンター「EP-101」

  • 世界初のクオーツウオッチ「セイコー クオーツアストロン 35SQ」はIEEEのマイルストーン賞を受賞