2023年に通信品質が著しく低下し、評判を大きく落としたNTTドコモ。それだけに同社は通信品質向上に力を注いでいますが、2025年はどのような施策をもって通信品質を向上させようとしているのでしょうか? 2024年末に実施された「コミックマーケット105」に向けた通信品質対策から、その一端を見て取ることができました。
通信品質で競合に差、信頼回復半ばのNTTドコモ
国内最大手の携帯電話会社であるNTTドコモは、NTTグループならではのネットワークに対する信頼性が長年顧客に高く評価されてきました。ですが、2023年にはコロナ禍明けの需要を見誤ったことなどにより、大都市部を中心として通信品質が著しく低下。ユーザーの評価を大きく損なう事態を招きました。
それだけに同社は、2023年から2024年にかけて通信品質改善に向けた取り組みを大幅に強化。2024年に代表取締役社長に就任した前田義晃氏の体制下でも、通信品質改善を最重要施策に据え、英国の調査会社であるOpenSignalのモバイルネットワーク体感評価指標で2024年度末までに「一貫した品質」での1位獲得を目指すと打ち出しています。
ですが、そのOpenSignalが2024年10月に公表したレポートでは、競合のKDDIが18部門中13部門を獲得。一貫した品質部門もKDDIが獲得しており、まだNTTドコモが通信品質面で評価を大きく高めるには至っていないようです。
では2025年、NTTドコモはどのようにして通信品質改善を進めようとしているのでしょうか? そのヒントとなりそうなのが「コミックマーケット105」、いわゆる「コミケ」に向けたネットワーク対策です。
毎年夏と冬に東京国際展示場で実施されるコミケは、非常に来訪者が多い日本屈指のイベントとして知られています。それだけ多くの人が訪れることから、携帯各社も来場者の通信品質が低下して「つながらない」といった事態を生じさせないよう、通信品質対策を積極的に進めています。NTTドコモも例年、コミケに向けてはさまざまな対策を実施しているのですが、2024年末に実施されたコミックマーケット105に向けては新しい対策をいくつか実施しており、それらの中には今後の通信品質対策に大きな影響を与える可能性があるものを見て取ることができました。
Massive MIMOだけでなく5GのSA移行が勝負どころ
その1つが「Massive MIMO」です。Massive MIMOは多数のアンテナ素子を用い、個々の端末に対して直接電波を射出することで、多くの人が同時に大容量通信をできるようにする技術で、5Gの高速大容量通信に大きく貢献する技術とされています。一方で、従来はアンテナのサイズが非常に大きく、国内の通信機器ベンダーが開発に消極的だったこともあって、日本ではあまり使われていませんでした。
ですがここ最近、海外の通信機器ベンダーを中心に、より小型化されたMassive MIMO対応アンテナが登場。そこで、NTTドコモも調達先を海外ベンダーに広げるなどしてMassive MIMO対応アンテナの導入を進め、5Gの通信品質向上を図ろうとしています。
なかでも、そのMassive MIMO対応アンテナが積極的に用いられているのがイベントの通信品質対策であり、すでに関西では京都競馬場などで活用された実績があります。ビルなどの基地局に常設するにはビルオーナーの許可を得る必要があるため時間がかかってしまいますが、臨時のイベント対策用途ならば設置場所の融通が利きやすいことが、早期導入が進みやすい理由といえるでしょう。
それゆえ、今回のコミックマーケット105においても、設置した可搬型基地局2台と、移動基地局車3台のうち2台にMassive MIMO対応アンテナを導入。4Gの増強に加え、Massive MIMOで5Gの増強を図ることで、同時に通信できる容量を増やし、品質向上へとつなげていました。
そして、もう1つが「5G SA」です。5Gの運用方法は大きく分けて、4Gのネットワークに5Gの基地局を設置して高速大容量通信を実現するノンスタンドアローン(NSA)運用と、5G専用の機器でネットワークを構築し、5Gの性能をフルに発揮できるスタンドアローン(SA)運用の2つがあるのですが、日本では現在のところ大半の5GエリアがNSA運用となっています。
そしてNSA運用のネットワークは、5Gといっても必ず4Gのネットワークに接続する必要があるため、4Gの通信品質にも影響を与えてしまうのに対し、SA運用のネットワークは4Gとは独立しているので4Gに影響を与えません。そこでNTTドコモは、コミックマーケット105での通信品質対策にあたり、このSA運用の5Gネットワークを大幅に強化したのです。
実際同社は、移動基地局車や可搬型基地局などの臨時施設だけでなく、恒久的に設置されている会場内の基地局も含めて5GのSA化を進め、コミケ会場内の全エリアでSA運用の5Gネットワークを使えるようにしています。SAに対応するスマートフォン利用者にはそちらに接続してもらうことで、その分混雑しやすい4Gの負担を減らして通信品質向上を図る策に打って出たわけです。
これら一連の施策を見るに、NTTドコモは2025年以降、Massive MIMOに対応するアンテナを増やして5Gの通信容量を増やすとともに、5GのSAに対応するエリアを広げることで4Gにかかっている負担を減らし、通信品質の改善を図ってくるのではないかと考えられます。とりわけ5GのSA化は、実は2022年に携帯3社が開始しているものの、各社とも一向に対応エリアの拡大が進んでいないだけに、他社を出し抜くうえでもNTTドコモが5GのSA化をどこまで進められるかという点が、1つの勝負どころとなってくるのではないでしょうか。