シャープとソニーモバイルコミュニケーションズの2社が相次いで5G対応スマートフォンの新機種を発表した。両社が新製品で狙う所には近しいものがあるのだが、その内容にはかなりの違いがある。なぜだろうか。
価格重視の5Gラインアップを揃えたシャープ
2020年に国内でサービスを開始した5Gだが、5G対応エリアが非常に狭いことや、政府の端末値引き規制、そして新型コロナウイルスの感染拡大の影響などもあって5G対応スマートフォンの販売は全くと言っていいほど伸びていない。実際5Gの契約数は、NTTドコモが2020年8月1日時点で24万、数字を公表していないソフトバンクとKDDIはそれを大きく下回ると見られており、消費者の関心も高まっておらず普及が不安視されているのが現状だ。
そうしたことから期待されるのが、より低価格の5G端末のラインアップ拡大である。5Gに対応したスマートフォンは、チップセットの関係でこれまで10万円を超えるようなハイエンドモデルに集中していた。だが徐々にミドルクラス向けのチップセットを搭載した5G端末も増えてきており、政府が端末値引き規制をしている環境下ではそうした安価な5G端末が、普及をけん引するものと見られている。
そして国内のスマートフォンメーカー2社も、5Gの普及を見据えた新しいスマートフォンを相次いで投入している。2020年9月11日に発表会を実施したシャープが新たに投入した5G対応スマートフォンは、「AQUOS zero5G basic」と「AQUOS sense5G」の2機種である。
AQUOS zero5G basicはその名前の通り「AQUOS zero」シリーズの最新モデルとなり、最大240Hz駆動に対応した有機ELディスプレイを搭載するなどゲーミングに力を入れているのが特徴。一方の「AQUOS sense5G」も、やはり「AQUOS sense」シリーズの最新モデルの1つで、日常的な使い勝手を重視しスタンダードな機能を備えながらも、5Gに対応しているのが特徴だ。
そしてAQUOS zero5G basicはクアルコムの「Snapdragon 765G」、AQUOS sense5Gは「Snapdragon 690 5G」と、ともにミドルクラス向けのチップセットを搭載。同社のハイエンドモデル「AQUOS R5G」よりも安価に提供されるようだ。
実際、AQUOS zero5G basicをベースとした「AQUOS zero5G basic DX」の販売を打ち出したKDDI(au)の旗艦店「au SHINJUKU」における価格を見ると、一括価格で81,315円、端末購入プログラム「かえトクプログラム」適用時の価格で47,955円。AQUOS R5Gの価格がそれぞれ106,870円、64,630円なので2万円近く安くなることがことが分かる。AQUOS senseはより下位のチップセットを搭載していることから、一層安価で販売される可能性が高いだろう。
「Xperia 5 II」は性能重視、両社の立場が戦略に影響?
一方、ソニーモバイルコミュニケーションズも2020年9月17日に新しい5G対応スマートフォン「Xperia 5 II」を発表している。こちらは2019年に販売された「Xperia 5」の後継モデルで、上位モデルとなる「Xperia 1 II」の体験をより手軽な形で提供するモデルと位置付けられている。
実際Xperia 5 IIは、6.1インチディスプレイを採用し「Xperia 1 II」よりコンパクトなボディながら、ZEISS T*コーティングのレンズや「Photography Pro」を採用するなど、Xperia 1 IIのセールスポイントでもあった本格的な撮影体験ができるのが特徴となっている。ディスプレイの120Hz駆動に対応するなど、ゲーミング関連の機能強化もなされているようだ。
その一方で、採用するチップセットはXperia 1 II同様、クアルコムの「Snapdragon 865」を搭載。国内での販売時期や価格はまだ公表されていないが、欧州での価格は899ユーロ(約112,000円)。やはりミドルクラスのチップセットを採用したスマートフォンよりは高額だ。
シャープとソニーモバイルコミュニケーションズの新機種は、ともに従来のハイエンドモデルよりは手頃で利用しやすい5G端末を提供するという部分で共通しているのだが、採用するチップセットや価格にはかなりの違いがあり、戦略が大きく異なっていることが分かる。その理由の1つは、両社の置かれている立場と戦略にあるようだ。
シャープは発表会の際、政府の端末値引き規制によって、これまでなんとなくハイエンドモデルを購入していた人達の多くが、価格的にハイエンドモデルを購入できなくなることで、自身のニーズや価値に合ったパフォーマンスを持つ端末を求めるようになると説明。ミドルクラスの端末にさまざまな特徴を持たせた機種を複数用意することで、そうした人達の受け皿を提供することに力を入れる方針を示している。
そもそもシャープは台湾の鴻海精密工業の傘下企業となっているため、資金や部材調達、製造などさまざまな面で同社のバックアップを受けられる。それだけに利益があまり大きくない、低価格のミドルクラス端末のラインアップを充実させられるともいえる。
一方ソニーモバイルコミュニケーションズの関係者によると、Xperia 5 IIにハイエンド向けのチップセットを搭載したのは「Xperia 1 IIの体験価値を可能な限り実現するため」だとしており、あくまでハイエンドモデルの価値を、可能な限り落とすことなく提供することに主軸を置いているようだ。
なぜならソニーモバイルコミュニケーションズは、2014年にソニーグループの経営を揺るがす程の赤字を出したこともあり、現在は販売数を大幅に減らしてでも確実に利益を出すことを重視している。利益率の低いミドルクラスのモデルは無理に増やさず、販売数は少ないが利益率が高いハイエンドモデルを確実に売ることに力を入れていることから、Xperia 5 IIもハイエンドモデルとして投入するに至ったといえるだろう。
このように、自社の置かれている立場を考慮し、消費者にどのような価値を提供できるかを考えた結果が、両社の戦略の違いに現れている訳だ。国内でも秋冬商戦に向けた販売はこれから本格化するだけに、各社の戦略がどこまで消費者にマッチし、端末販売の伸びにつながるかが注目される所だ。