コロナ禍の影響で5Gのサービス開始が遅れていた楽天モバイル。2020年9月30日にようやく5Gのサービスを開始したが、そのエリアが非常に狭いだけでなく、面展開の見通しも明らかにされなかった。他の3社とは異なり、楽天モバイルが5Gのエリアの面展開を容易に進められない理由はどこにあるのだろうか。

明らかにされなかった5Gの面展開スケジュール

2020年4月に本格サービスを開始したばかりの楽天モバイル。同社は5Gの商用サービスを、当初2020年6月に開始するとしていたが、新型コロナウイルスの感染拡大でネットワークの試験をしていたインドでのロックダウンが発生した影響で、2020年9月に延期するとしていた。

そして公約していた期日の期限となる2020年9月30日の15時30分、楽天モバイルはようやく5Gの商用サービスを開始した。改めてその内容を確認すると、楽天モバイルは同社に割り当てられているサブ6の帯域(3.7GHz帯)とミリ波(28GHz帯)を同時に使ったサービスを開始するとしており、先にサブ6の帯域を使ってサービスを開始した他社との差異化を打ち出している。

また料金プランに関しても、他社が5Gに対応した多くの料金プランで1,000円を上乗せしているのに対し、楽天モバイルは従来の料金プラン「Rakuten UN-LIMIT 2.0」の月額2,980円という料金や、自社エリア内では使い放題というサービス内容を変えることなく、5Gに対応させた「Rakuten UN-LIMIT V」を提供するとのこと。従来プランの契約者は自動的にRakuten UN-LIMIT Vに移行するとのことで、全てのユーザーが5G対応となり、しかも他社より大幅に安い料金で利用できることをアピールしている。

  • 楽天モバイルの5Gサービスは、従来の「Rakuten UN-LIMIT」と同じ料金で利用可能。低価格であることを大きく打ち出している

ただ5Gのエリア整備計画を見ると、不安を抱かざるを得ないというのも正直な所だ。楽天モバイルは5Gのサービス開始当初のエリアは6都道府県だが、最も多い東京都でも世田谷区を主体とした14カ所で、それ以外の道府県は1、2カ所をスポット的にカバーしているに過ぎない。

程度の差はあれ、開始当初のエリアが狭いというのは他の3社と変わらないのだが、不安を与えたのはその後のエリア展開計画だ。楽天モバイルは2021年3月までに全都道府県で5Gのサービスを開始し、2021年第2四半期には、5Gの実力をフルに発揮できるスタンドアローン運用を開始するとしているのだが、全国各地を4Gと同じように、面的にカバーしていく計画が公表されなかったのだ。

  • 楽天モバイルの5G整備計画。2021年3月に全都道府県で5Gサービスを始めるとしているが、全国を面展開するスケジュールは公表されていない

一方他の3社を見ると、楽天と同様に5G向けの周波数帯だけを使ってエリアカバーを進めるNTTドコモは、2021年度から面展開を開始。2021年6月末までに5G基地局を1万局、2022年3月末までに2万局を設置するとしている。一方、4G向けの周波数帯も活用して5Gの面展開を進めるKDDIとソフトバンクは、共に2021年3月末までに5G基地局を1万局、2022年3月末までに5万局を設置するとしている。

こうした計画を見ると、楽天モバイルが5Gエリアの面展開で他社に大きく遅れてしまうことが懸念される。なぜ5Gでは3社とスタート時期が大きく変わらないにもかかわらず、楽天モバイルだけが面展開を容易に進められないのだろうか。

他社より圧倒的に不利な電波の割り当て

その大きな要因は周波数帯にあると考えられる。楽天モバイルに割り当てられている5G向けの周波数帯は3.7GHz帯と28GHz帯だが、28GHz帯は障害物の裏に回り込みにくいため広範囲のエリアカバーに適しておらず、3.7GHz帯は衛星通信との電波干渉を考慮しながら基地局を設置する必要があるため、設置できる場所が限定されてしまうという弱点を抱えている。

一方でNTTドコモは3.7GHz帯だけでなく、衛星通信の影響を受けにくい4.5GHz帯の割り当ても受けていることから、そちらを使って3.7GHz帯の弱点を埋められる強みがあり、それが両社のエリア展開スピードの差となっている。一方で、楽天モバイルと同様4.5GHz帯の割り当てがないKDDIやソフトバンクは、先にも触れた通り4Gの周波数帯を5Gに転用、あるいは共用する技術を使うことで、3.7GHz帯の弱点をカバーしようとている。

  • 総務省「第5世代移動通信システム(5G)の導入のための特定基地局の開設計画の認定(概要)」より。4社に割り当てられている帯域のうち、28GHz帯は広域のカバーに向かず、衛星干渉の影響を受けない4.5GHz帯はNTTドコモにしか割り当てられていない

なのであれば、楽天モバイルも4Gの周波数帯を活用すれば早期に5Gのエリアを広げられそうなものだが、そうもいかない事情がある。というのも楽天モバイルに割り当てられている4G向けの周波数帯は1.7GHz帯の1つしかなく、仮に1.7GHz帯を5Gと共用してしまえば4G側の通信速度が大きく落ちるなどの影響が出てしまうのだ。

そうしたことから楽天モバイルが5Gのエリアを早期に広げるためには、より多くの周波数帯の割り当てが必要ということになるだろう。そこで期待されるのが新たな4G・5G向け周波数帯の割り当てだ。

総務省は現在、いくつかの周波数帯の5G向け割り当てを検討している。その1つは、2018年に4G向けとして割り当て申請を受け付けたものの、携帯電話会社からの申請がなかったため割り当てがなされていない東名阪以外での1.7GHz帯。そしてもう1つは、「周波数再編アクションプラン」の改定案に記載されている2.3GHz帯、4.9GHz帯、26GHz帯、40GHz帯だ。

総務省は2020年9月にこれら周波数帯の5G向け割り当てに関する調査を実施しており、2020年10月2日には携帯4社から寄せられた回答が公表されている。楽天モバイルも回答をしており、1.7GHz帯は「早期に地方部まで5Gを展開」、2.3GHz帯は5Gだけでなく「4Gでも活用」、4.9GHz帯は「面的なエリア構築」、26GHz帯は「通信需要が高い場所にスポット的に設置」するのに使いたいと答えているようだ。

  • 総務省「第5世代移動通信システムの利用に係る調査の結果」の概要より。5G向けの割り当てが検討されている東名阪以外の1.7GHz帯などに関して、楽天モバイルをはじめとした4社が割り当てを希望する回答をしている

総務省では各社の意見を受けて今後これらの帯域割り当てを進めると見られるが、楽天モバイルの5Gエリア拡大はその割り当てが早くなされるかどうかにかかっているといえるだろう。それまでは当面、楽天モバイルの苦悩が続くことになりそうだ。