2019年10月に携帯電話事業者として新たなサービスを提供するべく、準備を進めている楽天傘下の楽天モバイル。ネットワーク仮想化技術を全面的に導入するなど、これまで新技術の採用を前面に打ち出し強気の姿勢を見せてきた楽天モバイルだが、サービス開始当初は契約者数を絞り小規模で展開するなど、慎重な姿勢を見せるようになってきた。なぜだろうか。

3段階でのサービス展開を打ち出した楽天モバイル

現在MVNOとしてスマートフォン向けのモバイル通信サービスを提供している、楽天の子会社である楽天モバイル。2018年に総務省から1.7GHz帯の電波免許を割り当てられたことを受け、2019年10月には自らネットワークインフラを持つ、携帯電話事業者として新規参入することが予定されている。

その楽天モバイルは、他社を買収して参入するのではなく、ゼロからネットワークインフラを構築する純粋な新規事業者として参入することとなる。それゆえレガシーな設備を持たないことを生かし、最先端のネットワーク技術を積極的に導入することを他社にはない優位性として強く打ち出している。

中でも楽天が強く推しているのがネットワーク仮想化(NFV)技術だ。これは、無線局や交換機、コアネットワークなど携帯電話を構成する機器を、従来のように専用の機器を用いるのではなく、汎用のサーバーとソフトウェアを使って実現するというもの。汎用のサーバーを用いるため機器導入コストが安いのに加え、ソフトウェアを変えるだけで新しいサービスに対応できるなど、柔軟性の高いネットワークを構築できるのが大きなメリットとなる。

  • 楽天モバイルが採用している仮想化RAN(無線アクセスネットワーク)用の機器。インテルのチップセットを採用した汎用のサーバーを用いている

NFVは他社もネットワーク機器の一部に導入しているが、楽天モバイルはNFVを全ての機器に導入することで、モバイルネットワークをクラウド化した世界初のネットワークを構築したとしている。そうした新技術の採用によって、楽天モバイルはこれまで料金の低廉化や従来にないサービスの提供などを実現できると、強気の姿勢を見せてきたのだ。

  • 楽天モバイルはネットワーク全般にNFV技術を採用することで、ネットワークのクラウド化を実現するとしている

だがここ最近、そのトーンにやや変化が見られるようになってきた。そのきっかけとなったのは、親会社である楽天が2019年8月8日に実施した決算説明会で、代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏が、楽天モバイルのサービスを「基本的にホップ・ステップ・ジャンプでやっていこうと思っている」と話したことだ。

これはどういうことかというと、2019年10月のサービス開始当初から楽天モバイルの全てのサービスを提供するのではなく、3段階に分けて徐々に展開していくということだ。サービス開始当初は契約できる人数を絞り、サービスも絞って小規模での展開とし、それから1~2カ月後に本格的なサービスを開始するものの、契約者はオンラインで募るのみと限定的な形を取る。その上で安定性の確認を取ることができた時点で、ようやく実店舗などで大々的に契約者を募るなど、本格的な販売促進を図っていくのだそうだ。

  • 2019年8月8日の決算説明会に登壇する楽天の三木谷氏。楽天モバイルのサービスを3段階に分け、当初は小規模でスタートすることを明らかにした

基地局遅れの問題が浮上、早々に正念場を迎えることに

三木谷氏はサービスを3段階で展開するに至った理由について、NFVを全面的に採用した世界初のネットワークということもあり、安定性を慎重に検証した上でサービス展開を進めたいという旨の話をしていた。ネットワーク自体の安定性には自信を持っているというが、念には念を入れるというのが楽天モバイル側の方針であったようだ。

だがその後、楽天モバイルに基地局整備の遅れという問題が浮上してきている。実際2019年8月15日に実施された石田真敏総務大臣の記者会見で、楽天モバイルの基地局整備の進捗に遅れがあったことを明らかにしている。

  • 楽天モバイルは2018年末より基地局整備を進めてきたが、総務大臣会見から予定通り整備が進んでいないことが明らかとなった

石田氏の会見概要によると、2019年6月末時点で、楽天モバイルが提出した計画から進捗に遅れがあったとのこと。そこで総務省は2019年7月17日に、楽天モバイルに対して2019年度末までの開設計画を確実に達成するための修正案の提出、及び実行を要請したとされている。

この基地局整備の遅れが、3段階でのサービス展開という判断にどこまで結び付いているのか、明確に示されている訳ではない。だがNFVによるコア側のネットワーク構築は順調であったとしても、実際に電波を発する基地局の整備が間に合っていなければ、エリアカバーの“穴”が多数発生する、あるいはカバーできてもキャパシティの不足ですぐネットワークが混雑してしまうなどの問題が浮上してくる可能性が出てきてしまう。

そうしたことからネットワーク全体の安定性だけでなく、エリアカバーに関しても、工事の遅れの影響を慎重に見極める必要が出てきた。そこで当初予定よりも一層慎重を期すべく、3段階でのサービス展開をする必要に迫られたのではないかと筆者は見る。

楽天モバイルは当初より、インフラ整備に関する経験不足から基地局整備を不安視する向きが少なからずあり、今回それが的中してしまったのは残念な所だ。商用サービス開始後さらに基地局整備の遅れや、ネットワークに関する問題が浮上してくるようだと、サービスの信頼性に大きな疑問符が付きユーザー離れも起こしかねないだけに、小規模でのスタートとなる初期段階で、いかに抱えている問題を解消できるかが楽天モバイルには強く求められることになりそうだ。