携帯各社が生成AIを活用したサービスを料金プランとセットで提供、あるいは割引する動きが強まっている。現時点で各社の狙いはまちまちだが、今後の各社のビジネスを考えると重要な存在となる存在となる可能性が高い。
生成AIチャット提供の動きが急拡大
いわゆる「生成AI」のブームは、一時期と比べればやや落ち着きつつあるとはいえ、依然加熱が続いている。それだけに2024年はさまざまな業界が生成AIの影響を大きく受けているのだが、それは携帯電話業界も同じだ。
とりわけユーザー視点で見た場合、生成AIの影響が色濃く出ているのは、携帯電話の料金プランと生成AIを活用したサービスが割引、あるいはセットになる施策が、急激に増えたことではないだろうか。その先駆けとなったのがソフトバンクである。
実際ソフトバンクは2024年6月17日に、生成AI技術を活用した検索サービス「Perplexity」を提供するPerplexity社と戦略的提携を開始すると発表。この提携によってソフトバンクは「ソフトバンク」「ワイモバイル」「LINEMO」の顧客に対し、Perplexityの有料サービス「Perplexity Pro」を1年間、無料で利用できるトライアルの提供を開始している。
Perplexity Proを利用するには月額2950円、または年額2万9500円を支払う必要があるのだが、トライアルによってソフトバンクの3ブランドの料金プランを契約していれば1年間は無料で利用できる。そこで注目を集めたのが、オンライン専用の「LINEMO」の料金プラン「LINEMOベストプラン」である。同プランは月額990円にもかかわらず、契約していればそれより月額料金が高いPerplexity Proを1年間無料で利用できてしまうため、Perplexity ProのためにLINEMOベストプランを契約する人も多くいたようだ。
それに続く形となったのが楽天モバイルである。同社は2024年10月31日に、楽天モバイル契約者のみが利用できるコミュニケーションサービス「Rakuten Link」を、ポータルとしての機能を強化する形でリニューアル。新たな機能としてAIチャットの「Rakuten Link AI」を追加しているのだ。
Rakuten Link AIはRakuten Linkが利用できる楽天モバイルユーザーであれば無料で使えるので、実質的には楽天モバイルの料金プラン「Rakuten最強プラン」にバンドルされたサービスと見ることができよう。無料だけに1日のチャット数の入力上限が50回、1回の質問につき文字数が500文字以内といった制約は設けられているものの、追加料金不要で独自のAIチャットが利用できるのはメリットだ。
生成AIがコンシェルジュに進化する可能性
そしてもう1社、新たに生成AIサービスと料金プランとの連携を打ち出したのがNTTドコモである。同社は2024年11月22日、生成AI関連スタートアップのSUPERNOVAと業務提携し、「Stella AIセット割」の提供を、2024年12月1日から開始することを発表している。
Stella AIはSUPERNOVAが提供する、生成AIを簡単に利用できるサービス。生成AIで適切な成果を得るには、生成AIに指示をする文章「プロンプト」を上手く入力するコツが求められる。そこでStella AIは目的に応じた1000を超えるプロンプトのテンプレートを用意、追加でいくつかの文章を入力するだけで成果を得ることが可能で、生成AIを簡単に活用できる点が大きな特徴となっている。
そしてStella AIセット割は、NTTドコモの料金プランのうち「eximoポイ活」「eximo」「ahamo」を契約している人が適用できるもので、「初月無料キャンペーン」を合わせると合計で1年間の割引が受けられる。ちなみにStella AIの「プレミアム」の場合、その月額料金となる2728円相当分が割り引かれるという。
ソフトバンクと比べた場合、低価格の「irumo」が対象になっていない点は非常に気になる。その理由は売上減少の主因となっているirumoの契約をあまり増やしたくないというNTTドコモ側の事情、そしてこの割引施策自体SUPERNOVA側が提案したもので、割引原資の多くをSUPERNOVA側が負担していることなどが影響しているようだ。
こうして見ると、生成AIのサービスを料金プランとセットで提供するという施策自体は共通しているものの、それを提供する各社の狙いには違いがあるようで、現時点では「人気の生成AIを多くの人に使ってもらう」以上の狙いがあるようには見えない。とはいえ携帯電話会社のビジネスの今後を考えると、生成AIサービスを料金プランにセットで提供することの意味は大きい。
それは楽天モバイルの事例から見えてくる。楽天モバイルは将来的に、「楽天市場」「楽天トラベル」など楽天グループが持つ顧客の情報と、Rakuten Link AIとを連携させ、ユーザーの指示をもとにグループの基盤を生かした最適な提案ができるパーソナルコンシェルジュへと進化させる方針を打ち出している。
国内携帯各社は市場飽和により、主力のモバイル通信で収入を増やすのが困難なことから、最近は携帯電話の顧客基盤を生かして自社系列のさまざまなサービスを利用してもらう、いわゆる経済圏ビジネスに力を入れている。それゆえ生成AIに顧客の情報を連携させてハブとして活用し、AIと対話しながら適切なサービスを案内して系列サービスの利用につなげるコンシェルジュサービスを提供できれば、経済圏ビジネスを活性化させ、収益拡大につなげられる可能性が高い。
もちろんそのためには、生成AIで個人情報を活用する上で生じるプライバシーへの懸念など、非常に多くの課題をクリアしていく必要があることから決して容易ではない。だが単に話題の生成AIを使ってもらう、というだけでは各社のビジネスに与える影響は小さなものにとどまるだけに、より大きな狙いがあるものと筆者は見ている。