今回のお題は、光学センサーの画像解析である。身近なところでは、画像解析機能の応用事例としてデジタルカメラの顔認識機能があるが、「軍事とIT」という話になると、利用形態が違ってくるのは当然の話。

モーション・ディテクター

特に2010年代に入って「対テロ戦」の掛け声が賑やかになってきた頃からだろうか、軍の施設や民間の重要インフラなどを警備するためのセンサー機器の売り込みが活発になった。そこで出てきたキーワードの1つが、モーション・ディテクターである。日本語に訳すと「動き検出装置」とでもなろうか。

例えば、軍事基地の外側に向けて監視カメラを据え付けている場面を想定する。カメラの映像を人の眼で見る方法でも、もちろん監視はできる。しかし、これは疲れる作業だし、うっかりして脅威を見落としてしまう可能性も否定はできない。もちろん、コンピュータによる画像解析でも、見落としの可能性はあるのだが。

そこで、「動く物体」を自動的に見つけ出してくれる仕組みを用意できたら、どうだろうか。誰かが軍の施設を襲撃しようとすれば、必然的に、なにがしかの「動き」が生じる。それを見つけ出して警報を発することができれば、不意打ちを仕掛けるつもりだった相手に対して、逆に不意打ちを仕掛けることができるかもしれない。

「動く物体」を検知するというと、今時のマンションなどには当たり前のように付いている人感センサー付きの照明装置を思い浮かべる(筆者の自宅にもあるが、やたらと点滅してうるさいので普段は切っている)。

ただ、照明用の人感センサーは単に、「動く人がいる」かどうかを感知すれば用が足りる。しかし、警備用のモーション・ディテクターでは、単に「動いている何かがいる」というだけでなく、その「動いている何か」がどの辺にいるかも知らせてくれないと不便だ。それでないと、対処行動のとりようがない。

そこで、電子光学/赤外線センサー(EO/IR : Electro-Optical/Infrared)センサーの応用が考えられる。センサー映像をデジタル化してコンピュータに取り込む。ずっと動かずに同じ位置に留まっているピクセルは、動かない物体(建物や構造物など)と見なせる。

そして、動きがあるピクセルが出現したら警報を発する。その際に、単に動きがあるかどうかだけでなく、動くピクセルのパターンがどちらの向きに動いているかも調べる。探知目標の方位は、センサーの向きを調べれば分かる。これが基本的な考え方になりそうだ。

ただし実際には、屋外に設置したカメラだと風などの外的要因によって揺らされるので、それによる影響を検知してキャンセルする処理が必要かもしれない。ある種の手ブレ補正みたいなものである。

ちなみに、EO/IRセンサーを使用するのは、昼夜・天候を問わない監視を可能にする必要があるから。電子光学センサーだけでは、暗くなった時に困ってしまうので、赤外線センサーも援用する必要がある。それに、動く物体が発する熱源の情報があれば、人間・動物・車両といった「熱を発する物体」と、そうでない物体の区別をつけるのに役立つ。

電子光学/赤外線センサー以外の方法はどうか

モーション・ディテクターの実現手段は、映像ベースのセンサーに限らない。超音波、あるいは電波を使用してセンシングする方法もある。ただ、これらの方法について回る問題は、本物の目標と贋目標の区別ではないか。

例えば、公園でセンサーを作動させる場面を想像してみてほしい。超音波にしろレーダー電波にしろ、人だけでなく、コンクリートブロック、フェンス、木々や草、遊具など、有効範囲内にあるさまざまな物体から反射してくるはずだ。

しかし、そうした反射の大半は用なしであって、動く人間からの反射だけがあれば用が足りる。そこで、用無しの反射が大量に含まれている中から、本当に探知しなければならない探知目標からの反射だけを選り分ける必要が生じる。しかも、その中から動いているものを抽出しなければならない。これは、かなり骨が折れる作業であろう。

映像だったら前述したように、ピクセルが動くかどうか、という判断基準がある。しかし、音波や電波の反射波だと話が違う。相手が動いている時に生じるドップラー・シフト(ドップラー効果に起因する周波数の変動)を検出する方法だろうか。ところが、相手が動く速度が小さいとドップラー・シフトも小さくなるので、贋目標を排除するのは簡単ではなさそうだ。

この手の「常続的に見張っていて、何かあると警報を発する」センサー機器のメーカーが常用する売り文句は、「誤警報(false alarm)が少ない」である。口でいうのは簡単だし、それが必要とされているのは間違いないが、実現するには相当な研究開発と試験の積み重ねが必要になる。

そして、それを機械的に、あるいはアナログ電気回路で実現するのは無理な相談だから、データをコンピュータに放り込んでソフトウェアで処理する作業は必須である。そのソフトウェアの良し悪しが、誤警報の多寡を左右する。

顔認識もいろいろ使われる

実は、冒頭で引き合いに出した顔認識も、デジタルカメラの専売特許というわけではない。

例えば、アメリカに何回も渡航している方なら御存じの通り、入国審査の場面で機械を使うように指示される。あの機械では指紋の読み取りに加えて顔認識の作業も行っている。最近は日本でも、顔認識を利用する自動化ゲートが登場しているし、すでに使った経験がある方がいらっしゃるかも知れない。

この場合の顔認証は、パスポートにデジタル・データとして記録してある顔写真の情報と、そのパスポートを使って入国しようとしている本人の顔写真を照合するためのもの。偽造パスポートで、パスポートに記録してある顔写真が所持者のそれと異なっていればアウト……というわけだ。

偽造を完璧にやろうとすれば、偽造パスポートを使う本人の顔写真を、所定の形式のデジタル・データとしてパスポート内のICチップに書き込んでおかなければならないことになる。顔写真の部分だけ偽造するのと比べると、ハードルはだいぶ高い。