イーロン・マスク氏の宇宙企業スペースXは2018年5月12日(日本時間)、主力ロケット「ファルコン9」を大きく改良した最新鋭ロケット「ファルコン9 ブロック5」(Falcon 9 Block 5)の初の打ち上げに成功した。
"究極のファルコン9"であるブロック5が目指すのは、打ち上げのさらなる低コスト化と、宇宙飛行士を乗せた有人打ち上げという2つの使命である。
スペースXとファルコン9の歩み
スペースXは、2002年の創設からわずか十数年で、数々の偉業を成し遂げてきた。
2008年、初めて開発した小型ロケット「ファルコン1」(Falcon 1)が打ち上げに成功したのを皮切りに、2010年にはファルコン1をもとに開発した、大型の「ファルコン9」(Falcon 9)ロケットが登場。数々の衛星の打ち上げで活躍している。
その打ち上げ数は今回を含め55機――だが、じつは厳密にはこの数え方は正しくない。ファルコン9は誕生以来、つねに改良が重ねられ、少なくとも4回、それまでと大きく異なるまるで別物のロケットのようになっているからである。
最初の機体はファルコン9 v1.0と呼ばれており、ファルコン1をベースにし、単純に機体を大きくしたような形状をもち、エンジンも同じものを第1段に9基、第2段に1基装着したロケットだった。こうした手堅い設計が功を奏したのか、初めて開発した大型ロケットながら、1号機から打ち上げに成功した。
そして2013年には、改良型のv1.1が登場。機体の大型化やエンジンの性能向上などを行い、その誕生からわずか早くも3年で、v1.0とは姿かたちも性能も、まったく異なるロケットに変貌した。
また、このv1.1から、スペースXの創設以来からの目標のひとつであり、いまでは同社のロケットの真骨頂ともなった、「ロケット再使用」に向けた挑戦が始まった。第1段機体に着陸脚や小型の安定翼を装備し、成功こそしなかったものの、打ち上げ後に着陸、回収するための実験や試験を何度も行った。
そして2015年、v1.1を改良し、打ち上げ能力がさらに向上した「ファルコン9 フル・スラスト>」の打ち上げが始まった。ロケット着陸の実験もさらに実践的なものになり、2015年の初打ち上げでは地上に、翌2016年には洋上の船への着陸に成功。以来、ロケットが垂直に舞い降りるさまはすっかりおなじみとなり、そして2017年には初の再使用打ち上げにも成功した。
2017年には、フル・スラストをさらに改良した「ブロック4」が登場。機体やエンジンに手を加え、性能向上と再使用のしやすさをさらに追求している。
ファルコン9 ブロック5
そしてこのブロック4を経て、最新の改良型として開発したのが、今回打ち上げられた「ファルコン9 ブロック5」である。
ブロック5はまた、この8年間続いたファルコン9の一連の改良の、最後の"メジャー・アップデート"にもなるという(細かい改良は行う可能性はあるとのこと)。
スペースXがブロック5を開発した目的は、大きく2つある。
まずひとつは、再使用打ち上げを"当たり前"にし、飛行機のような運用に近づけることである。フル・スラストやブロック4にとって、再使用はあくまで実験的、試験的なものであり、再使用の回数も1回にとどまっていた。
しかしブロック5は、機体の部品交換など改修をせずに10回以上、そして部品交換などを含む定期的なメンテナンスを行うことで100回以上の再使用が可能なように設計されている。飛行機のように、とまではいかないものの、従来のロケットは打ち上げごとに使い捨てるのが常識だったことからすると、大きな進歩になる。
マスク氏によると、今後ブロック5の第1段を30~50機ほど製造し、それらを繰り返し再使用することで、引退までに最低でも300回の打ち上げを行う予定だという。ちなみに今回打ち上げられた1号機の第1段は、回収後に分解して分析。その後組み立て直し、来年末までに10回の打ち上げに使うとしている。
さらに、機体の点検やメンテナンスのしやすさも向上し、24時間以内に同じ機体を2回打ち上げることも可能だという。マスク氏は「来年にも24時間以内に2回打ち上げる実証試験を行う予定」と語る。
最も気になる、ブロック5によってどれくらい打ち上げコストが安価になるのかについては、具体的には語られていない。ただ、現在の再使用打ち上げのコストは約5000万ドルとされ、再使用性が向上したブロック5の運用が本格的に始まれば、さらに下がるものとみられる。
有人ロケットとしてのブロック5
そしてブロック5にはもうひとつ、宇宙飛行士を乗せた有人飛行を行うという目的もある。
NASAは2005年から、「国際宇宙ステーション(ISS)への宇宙飛行士の輸送を民間に任せる」という計画を進めており、スペースXはそれに応える形で、有人宇宙船「ドラゴン2」の開発を進めている。ブロック5は、このドラゴン2を打ち上げるための、"有人ロケット"としても開発された。
ブロック4までのファルコン9でも、ドラゴン2を打ち上げること自体は可能だったが、実際に打ち上げを行うには、NASAの定める安全性などの基準を満たす必要があった。そしてブロック5では、その基準をクリアするため、設計や部品に改良が加えられている。
有人ロケットには、シックス・ナイン、すなわち99.9999%の成功率が求められる。実際にこれほど高い成功率を達成したロケットはないが、マスク氏によると、「ブロック5は史上最も信頼性の高いロケットになった」と語る。
ブロック5の運用とドラゴン2の開発が順調に進めば、今年の夏にも無人での試験飛行を行い、早ければ年末にも、宇宙飛行士を乗せた有人飛行を行う予定となっている。
(次回に続く)
参考
・Bangabandhu Satellite-1 Mission | SpaceX
・Bangabandhu Satellite-1 Mission
・Full Elon Musk transcript about SpaceX Falcon 9 Block 5
・SpaceX debuts new model of the Falcon 9 rocket designed for astronauts - Spaceflight Now
・SpaceX targeting 24-hour turnaround in 2019, full reusability still in the works - SpaceNews.com
著者プロフィール
鳥嶋真也(とりしま・しんや)宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info