パナソニックが2021年8月から展開している電動工具の新ブランド「EXENA(エグゼナ)」。1979年から40年以上にわたり、先端技術を用いた電動工具を手がけてきたパナソニックが、新たに立ち上げたブランドだ。

コンセプトは、「この世界に元気を灯すプロフェッショナルのために」。最先端のテクノロジーを惜しみなく投入するだけでなく、これまでの電動工具のイメージを覆すファッショナブルなデザインも注目を集めているEXENAの誕生秘話を、開発陣に尋ねた。

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    パナソニックが2021年8月から展開している電動工具の新ブランド「EXENA」。最先端の技術や実用性の向上だけでなく、デザイン性にも力を入れた

EXENAが目指す「建設業界の人材不足」解消

製品のマーケティングを担当した、パナソニック エレクトリックワークス社の石神理希氏によると、新ブランドの立ち上げの背景には、建設業界が直面している課題解決への思いがある。

「一番大きな狙いは、建設業界、中でも電気工事業界が抱えている、人材不足の解消につなげたいというものです。現在、電気工事士の有資格者の50~70%を50代以上が占めるなど高齢化が進んでおり、2030年には3万人もの人材が不足すると言われています。

さらに、2019年に制定された時間外労働の上限規制で、建設業界は2024年までは猶予期間とされているものの、ただでさえ人材が不足して高齢化している現場の労働時間が短くなります。そこで、電動工具として使いやすいものをお届けすることで作業効率を上げると同時に、若い人や子どもたちにとって職人さんが憧れの職業になるように、電動工具をよりかっこいいものにして、その魅力を発信していきたいです」(石神氏)

  • パナソニック エレクトリックワークス社の石神理希氏

    パナソニック エレクトリックワークス社の石神理希氏

新ブランドのEXENAでは、「Pシリーズ」と「Lシリーズ」の2シリーズを展開。Pシリーズの「P」は、プロフェッショナル、プレミアムの頭文字で、作業効率を上げられるフラッグシップとして位置づける。

一方のLシリーズは、軽量やコンパクトを表すライト(Light)の頭文字。パワーとコンパクトを両立させたシリーズとして、最近増えている女性の職人やDIYユーザーに向け、扱いやすく仕上げたモデルだ。

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    Pシリーズ(左)に比べて、Lシリーズ(右)はバッテリーがひと回りコンパクトになっているのが大きな違い

「Lシリーズは、Pシリーズよりもバッテリーがひと回り小さいのが特徴です。作業範囲をある程度絞ることで、なるべく軽くコンパクトにしました。Pシリーズはフルスペックモデルで、使用シーンによって使い分けをしていただくようなイメージですね」と、商品企画を担当した山中康寛氏は語る。

実はPシリーズも、旧モデルからヘッドサイズの小型化を図った。従来機に比べてモーターを30%小型化して、業界最短という98ミリのヘッドサイズを実現。山中氏によると、ヘッドサイズを小型化するにあたっては、モーターに限らず機械部品全体について小型化に向けた技術開発をしなければならなかったという。

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    Pシリーズのドリルドライバー(右)と従来モデル(左)との違い。モーターの30%小型化により、ヘッドサイズが業界最短の98ミリと大幅に短くなっている

「モーターの効率を高めることで、小型化しながらも性能は維持しています。ヘッドの小型化のため、モーター以外のメカも構造を新開発しました。従来の構造だとデッドスペースになっていた部分をどんどんつぶして小さくしているので、クリアランスがなくなり精度の高い設計が求められます。同時に落下への耐久性、さらに熱がこもらないように、排熱用のファン形状や風路を設計し直すなど、開発要素は多岐にわたりました」(山中氏)

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    新旧モデル(写真上が新モデル)の上から見た比較。横からの見え方より、コンパクトになったことがわかりやすい

  • 商品企画を担当したパナソニック エレクトリックワークス社の山中康寛氏

    商品企画を担当したパナソニック エレクトリックワークス社の山中康寛氏

ハイパワーな工具のデメリットを独自技術で解決

Pシリーズには、独自の新技術「+BRAIN(プラスブレイン)」を搭載した点も特徴のひとつ。モーターや機構部品の動作をセンシングして、スピードとパワーをリアルタイムでコントロールする制御技術だ。例えば、回転方向に叩きながらネジを締めるインパクトドライバーでは、強く叩きすぎてビットがネジ頭から飛び出し、内装材を傷つけるような失敗を防いでくれる。

「他メーカーも含めて、世の中のインパクトドライバーはスペックを上げていく方向で進化してきました。ですが、(パワーが向上した結果)強く押さえつけながら作業しなければならず、現場の職人さんからは『スペックを上げていくとかえって使いにくくなる』との声もあります。職人さんとしては、失敗をしないのが第一。そこで、相手部材の硬さなどをセンシングして、インパクト打撃を最適な強さへとリアルタイムで自動調節するように、モーターを制御する機能を開発しました」(山中氏)

Pシリーズのインパクトドライバー「EZ1PD1」には、インパクトドライバーの先端に、業界初となる8方向にワンタッチ着脱できるアタッチメントシステムを備えた「ATTACH8(アタッチエイト)」シリーズを新たに展開。

壁際などにビットを偏芯(平行移動)させる「スミ打ちアタッチメント」、本体の方向に対して90°曲がった角度に締め付けられる「アングルアタッチメント」という2種類を用意する。市場には常に片手で支えながら使うタイプの汎用品が存在するが、使い勝手を高めるため本体に一体化できる専用品を開発した。

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    Pシリーズのインパクトドライバー用に開発されたアタッチメントシリーズ「ATTACH8」。業界初の8方向に取り付けできるアタッチメントシステムで、「アングルアタッチメント」と(上)「スミ打ちアタッチメント」(下)の2種類のアタッチメントがある

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    「スミ打ちアタッチメント」の使用例。8方向に取り付け可能で、壁際など狭所での作業を効率化する

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    「アングルアタッチメント」の使用例。本体に対して垂直方向に作業ができるようになるL字型のアタッチメント。8方向に取り付けられるため、さまざまな作業場所で柔軟に対応できる

「市販でいろんなものが出ているのですが、いずれにしても両手を使って工具を支える使い方になります。職人さんとしては、片手はネジをしっかり持って失敗なく作業をしたいので、本体と一体化できれば便利だと考えていました」(山中氏)

いずれのアタッチメントも、インパクトドライバー本体との着脱がワンタッチで行える新しい構造。「設計部門からは、インパクトドライバー単体として完成している構造の上に、アタッチメントをワンタッチで着脱できるようにするのは難しいと言われましたが、職人さんの使い勝手を考えるとワンタッチ着脱が必須であることを説得し、実現してもらいました」と明かす。

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    アタッチメントはワンタッチで着脱でできる構造を採用

電気工事や建設現場のイメージを変えることを目標に、機能とデザインを大きく刷新したパナソニックの電動工具の新ブランド「EXENA」。ユーザーの目を惹くスタイリッシュでかっこいい見た目もさることながら、道具・機器としての基本に目を向けて開発された、現場の作業負担を減らして効率化できる製品群でもあるのだ。