J-FUNが2021年7月から一般販売した「abien MAGIC GRILL(アビエン マジックグリル)」(以下、MAGIC GRILL)。わずか3ミリの薄型プレートで、そのルックスとコンパクトさから話題になっているホットプレートだ。

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    3ミリという紙のように薄いプレートと分離可能なスタンドで、収納性やお手入れ性の高さなどが評判を呼ぶJ-FUNの「abien MAGIC GRILL」

2020年秋のクラウドファンディングによる先行販売を経て、このほど一般販売となったMAGIC GRILLは、実店舗での発売開始から半年で累計販売数4万台を突破。今回は、発売に至る経緯や開発秘話、デザインへのこだわりについて、代表取締役の松永晴男氏にたずねた。

MAGIC GRILLははじめての調理家電

2008年に名古屋で創業されたJ-FUNは、もともと業務用の美容機器を製造・販売していた。そんな中でMAGIC GRILLの企画が立ち上がったのは、独自開発のヒーターが発端だ。

「弊社独自の『サーキットヒーター』の開発に成功したのが、企画のきっかけです。技術が確立した段階で『メーカーとして、何か新しいことがやれるのではないか?』と思い、ヒーターを活かした一般向けの企画をスタートしました」(松永氏)

とはいえ、サーキットヒーター自体はすでに特定の分野で活用されていたため、松永氏は別カテゴリーの調理家電に目を付けた。

「ヒーターを使った調理家電となると、応用できる範囲も広がっていきますし。その上で手始めに製品化するには何がいいか? と考えたとき、ホットプレートが最初に思い当たりました」(松永氏)

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    サーキットヒーターのイメージ。一般的なホットプレートで用いられる棒状のヒーターよりも高密度な、フィルム状のヒーターだ

当時の調理家電市場を見渡してみると、ホットプレートはあまり進化がなく、発展性のあるジャンルであることにも気づいた。「ホットプレートは、最初に発売されてから50年あまりになるのですが、その間大きな進化がなく、各社ともあまり力を入れていないようでした」と振り返る。

「ヒーターの開発が完了したのは7~8年くらい前」だったというが、そこからMAGIC GRILLの完成までには、さらに5年の歳月を要した。「発売のタイミングがちょうどコロナ禍で、ステイホームのツールとしてホットプレートが注目されていたことから、需要が高まったんです」と明かす。

極薄プレートが主役のシンプルな外観

MAGIC GRILLという製品名には、「薄いサーキットヒーターで魔法のように誰でも美味しく焼ける調理器具」という意味がこめられている。

開発は「本当にゼロからのスタートでした」と話す松永氏。現在の形になるまでは数えきれないほどの試作を繰り返した。

「ヒーターのパターンだけでも、本当にたくさん考えられるんです。200に届くかどうかぐらい、パターンの検証と検討を繰り返しましたね」

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    MAGIC GRILLのプレートは、サーキットヒーターの上下を絶縁シートで挟み、表面は鉄板、裏面は鏡面ステンレスという5層構造

MAGIC GRILLを開発するにあたって、当初から見た目のインパクトを大事にしていたという。MAGIC GRILLを象徴する、わずか3ミリの薄いプレートをいかにして見せるか。そのために、外観上のデザイン面でこだわったのは「シンプルさ」だった。

「製品のシンボルである薄さを際立たせたいとの思いが強かったです。そのため、薄さが引き立つように、そのほかの構成要素は極力シンプルにしました。どうしても薄いと華奢な印象を与えてしまうのですが、そこを払拭して、全体的に安定感を持たせることも意識しました」(松永氏)

プレートの裏面は鏡面のステンレスを採用。「ヒーターの熱を上に反射して、より美味しく焼くためにステンレスを使いましたが、シンプルな中にも安定感のある印象を持たせるデザインにもつながり、機能美にもなりましたね」と、外観の安定感にも貢献したと語った。

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    薄いプレートが華奢に見えないように、安定感を持たせたデザイン

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    裏面は鏡面ステンレス。堅牢性とともに、ヒーターの熱を下側に伝えない機能性が目的だが、デザイン面でもスタイリッシュな印象を添えている

フラットで薄くむき出しになった形状のプレートは、スタイリッシュで機能的である反面、周囲が汚れやすい点や安全性が懸念されていた。そんな矢先、他社からもフチがないホットプレートが発売されて人気を博した。

「その状況を見て、MAGIC GRILLの薄いプレートも受け入れられるのではないかと思いました。少し高さを設けてフチを付けることも検討していましたが、『ホットプレートがこんなにも変わりました』と印象づける意味でも、薄さをできるだけ強調したいと思っていましたので、設計を変えずに進めました。油ハネを気にする声もあったのですが、フチのある一般的なホットプレートであっても油は飛びはねてしまいますので、そこは同じですよね。MAGIC GRILLは少量の油で調理できるのも特長で、はねる油の量がそもそも抑えられます。結果、懸念していたよりも否定的な要素にはならなかったと思います」(松永氏)

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    プレートの表面には、上下にわずかに盛り上がった境界がある。周りにガードがないフラットな設計ではあるものの、汁などの液体が下に垂れないようにせき止める役割を持つ

サイズを決めたのは「必然性」

MAGIC GRILLのもうひとつの特長は、プレートと土台部分が分離できる構造。一般的なホットプレートにはない画期的な機構で、お手入れや収納がしやすい。

「今までのホットプレートの欠点として、取り出しにくい、洗いにくい、片付けにくいというものがありました。ホットプレート自体は便利な家電なのに、そうした欠点が足を引っ張ってしまって、使いたくても、面倒くささが先に来てしまっていたんです。サーキットヒーターによるプレートの薄さを活かすためにも、さらなるユーザビリティーの向上、使いやすさを極める必要があると考えました」(松永氏)

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    本体から完全に取り外せるスタンド

プレートから取り外せるスタンドの中には磁石が組み込まれている。着脱しやすさを考えた結果、採用された仕様だ。

「ホットプレートが『こうだったらいいな』と思える機能を考えました。もちろん、技術的にできない部分や諦めた部分もありましたが、できる限りひとつずつ実現していきました」(松永氏)

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    スタンド内部には磁石が組み込まれており、本体とのスムーズな着脱をアシスト

MAGIC GRILLのプレート寸法は、幅約40センチ・奥行き30センチで、1~2人用に最適なコンパクトな卓上サイズ。「縦横のサイズに関しては、あえて決めたというよりも、実は必然的な理由からです」と明かす。

「プレートは、1枚の大きなアルミを切断して作るのですが、サイズを大きくすると価格も上がってしまいます。一般家庭用のホットプレートとして受け入れられる価格で販売するには、コスト的に既存のデザインで使われているサイズが限界でした」(松永氏)

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    本体のサイズは幅約40センチ、奥行き30センチの長方形。お盆のようなコンパクトな卓上サイズだ

今後は調理家電以外にも進出予定

一般的なホットプレートでは、200~250℃程度を最高温度として、温度を無段階に調整できるものが多い。対してMAGIC GRILLは、180℃と250℃の2段階という温度設定もユニークだ。松永氏は、その理由を次のように説明した。

「『焦げないけれど、ちゃんと焼ける温度帯』を追求した結果、180℃と250℃の2パターンがベストだろうとの結論になりました。棒状ヒーターの一般的なホットプレートは、ヒーターが当たっている部分とそうでない部分で温度のバラつきも多いんです。一方、2段階の温度設定しかないとはいえ、MAGIC GRILLは的確な温度コントロールができるので、均一に焼けるとプロの料理人からも評価いただいています。プレートに直接ヒーターを貼りつけた構造なので熱のロスが少なく、リカバリーも早いわけです。熱の密度が高いためエネルギー量が大きく、面状のヒーターだから離れても熱が伝わり、遠赤外線の効果も高いのも特長です」(松永氏)

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    いたってシンプルな操作部。ダイヤルで温度を180℃と250℃の2パターンに切り替える

これからも、自社の独自ヒーター技術を核にした製品を調理家電だけでなく、それ以外の分野でも展開していくとのこと。最後に、今後の展望や意欲を次のように語ってくれた。

「美味しくできること、便利に、ラクになるという目的に向けて、今後もジャンルを問わず優れた製品を投入していきたいです。MAGIC GRILLに関しては、要望の多かったシリコン製のフタと、小さなお子さまのいるご家庭でも安心してご利用いただけるシリコンガード、サイズ違いの製品の発売を予定しています。ラインナップが増えてきたら、限定カラーやオリジナルカラーといったデザイン違いの展開も考えたいですね」(松永氏)