「あいててよかった」でお馴染みだったセブンイレブンが、それを「当たり前」のこととし、「近くて便利」のキーワードを前面に押し出したのは2009年だった。その「当たり前」が今、揺らごうとしている。セブンイレブンだけではなく、コンビニの24時間営業が労働人口の減少によって揺るぎ始めているからだ。この状況を打破するためには、なんらかの抜本的な改革が必要だ。それはコンビニ各社ともにわかっている。

  • ファミリーマートとパナソニックによる、次世代型コンビニの実証実験店舗

    ファミリーマートとパナソニックによる、次世代型コンビニの実証実験店舗。オープン日のテープカットに立ち会った株式会社ファミリーマート 代表取締役社長 澤田貴司氏(左)と、パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社 社長 樋口泰行氏(右)

IoTを駆使した次世代型コンビニ

4月2日にオープンしたパナソニックとファミリーマートの協業による実証実験店舗は、そんな問題を解決するチャレンジのひとつでもある。

なにしろ、パナソニックがファミリーマートのフランチャイズとなり、両社の社員が店舗スタッフとして運営し、次世代型コンビニの実現に向けて現場最前線での状況把握を模索するという。なにしろ、副店長がファミリーマート社員、店長がパナソニック社員である。コンビニに出向して接客するような人事は技術者本人にとっては青天の霹靂だったろう。だが、組織としてそれをやる。そのくらいやる気は満々だ。

新店舗の佐江戸店(神奈川県横浜市都筑区佐江戸町700番地)のロケーションは、パナソニック コネクティッドソリューションズ社 佐江戸事業場の広大な敷地の一画、公共道路に面した交差点の角地にオープンした。つまり、関係者のみならず、周辺住民や通りすがりのドライバーなど、誰でも利用できることが前提だ。交差点の斜め向かいには既存のファミリーマート横浜都筑池辺店もある。

店舗業務の削減のためには、改善できる余地はたくさんある。パナソニックのITを駆使した店舗にしたいとファミリーマートはいい、IoTで実現する現場のデータ化や画像分析技術などの先端AI技術でユーザーフレンドリーの絆を作りたいとパナソニックはいう。

「困りごと」は技術者が解決

パナソニックにとってファミリーマートはお客さまでもある。今後、目指していかなければならない次世代コンビニは、ITがなければ成りたたない。そのお客さまとしてのファミリーマート、つまり、コンビニ業界が何を求めているのか、何に困っているのかをつぶさに観察し、その困りごとを解消するというのがこの店舗の目的だ。そのために、実装されている各種のシステムは、様子を見ながらどんどん変化させていくという。そして、何かトラブルがあれば、至近距離で研究開発している技術者がとんできて問題を解決する。

こうした新しいタイプの店舗開発によって、新しい店舗運営パッケージができるのではないかと両社は考えているようだ。ひとつの店舗空間として、働きやすい店舗設計やデジタル化による運営の効率化、利用者に新たな気づきを与えるイートインやモバイルアプリを利用した購買体験の提供などで、これまでは店舗の成立が難しかった地域にも出店できる可能性があると両社は考えている。

  • 店内の商品はE Ink表示による電子棚札化

移動は3千円、買い物は千円

個人的にはコンビニの24時間営業不要論について、都市部の住民の声が大きいように感じている。確かに労働人口の減少に伴う改革には、24時間営業の撤廃は手っ取り早い。ただ、その背景には、コンビニの一部が11時に閉店しても、どこかあいているところはあるだろうという期待はないだろうか。

こんな時代にも、地方に行けば、30分間歩かなければコンビニもないようなところはたくさんある。深夜、人っ子一人歩いていないような市街地で、何か事件につながるような犯罪の心配はないのだろうか。そして、そんな地域に住家を持つ人口も決して少なくない。特に、今後は労働人口の減少とともに、高齢化社会の問題も出てくる。クルマなどの移動手段を持たない高齢者が、3,000円かけてタクシーで往復し、最寄りのコンビニで1,000円の買い物をするといったことも珍しくない。

自動運転のバスが巡回し、無人店舗があちこちで運営され、集中管理で犯罪も防ぐ、あらゆる決済がキャッシュレスで行われ、現金を狙う犯罪も無意味になる。国が一丸となってそういう社会を目指さなければならないのに、法律の整備さえまだまだの状況だ。なにしろ国会議員がタブレットで参考書類を参照しても非難される国なのだ。

犯罪解決の糸口も見つかるかも

ちなみに今回の次世代店舗の営業時間は朝6時~夜11時までだ。顔決済セルフレジも設置されるが、そちらは今のところパナソニック社員のみの関係者限定となっていて、その運用時間もまだ決まっていない。また、モバイルアプリによるオーダーも、初期は配達先限定となっている。

最先端技術のショールームに終わってしまわないように、両社ともに、本当に崖っぷちにたって、本気の運用をすることを望みたい。店舗内の全商品が万引きされるようなことがあったら、それはそれで研究開発の大きな材料としてしっかりモトもとれるだろうし、犯罪解決のソリューションさえ導けるかもしれない。そのための社員の出向なのだから。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)