VAIOが2in1 PCの新製品、VAIO A12(個人向け)とVAIO Pro PA(法人向け)を発表した。いわゆるデタッチャブル2in1で、本体としてのタブレットに、サブバッテリ内蔵のキーボードが合体されるスタイルのフォームファクタだ。

  • 11月13日に発表されたVAIO A12。新しい構造を開発し、100%のクラムシェル体験を目指した1台だ

もっとも標準的な仕様で、デタッチャブルのタブレットが607g、合体させて1009.9gとなる。13.3型でほぼ1kgというのは、決して驚異的な軽さとはいえないが、どうしても重くなりがちな2in1 PCとしてはがんばっているといえる。

二兎を追えない2in1の宿命を打破

この製品は、クラムシェル体験を100%確保することを至上の課題として取り組まれたと同社はいう。同社がいうには構想3年、開発2年の結実なのだそうだ。

膝の上で打ちにくい、キーボードが打ちにくい、液晶角度が調整不可、ヒンジが巨大、キーボード部が厚くて重いなど、合体して使う際の2in1は、クラムシェルPCとしての本来の使い勝手に犠牲を払ってきたが、この製品はこれらすべてを解決するという。一切の妥協を許さない2in1を求めて完成したのがVAIO A12なのだという。

  • 一般的なデタッチャブルPCの課題。本体がディスプレイ側にくる関係上、重心バランスがずれ、後ろに転倒しがちだった

確かに、これまでの2in1 PCは、デタッチャブルにしてもYOGAタイプのコンバーチブルにしても、「一挙両得」というよりも、「二兎を追う者は一兎をも得ず」的なイメージが強かった。タブレットにもなり、スクリーンをタッチしての利用に多少は魅力を感じても、合体させた状態で使う機会がほとんどなら、最初から普通のクラムシェルノートを選ぶというユーザーは少なくなかったはずだ。

この製品は100%クラムシェルをめざしている。タブレットを分離できるのは、あくまでもその100%クラムシェルへの付加価値だ。そのために、チルトアップ構造を両立させた3枚プレート構造案からスタートし、絵本にヒントを得てノドに定規を貼り付ける着想を得た。考え出されたのは、ディスプレイを開くと一緒に動き、重心バランスを安定化するように働く。閉じているときは外装とぴったりよりそう、マグネシウム合金による強い剛性を持ったスタビライザーフラップだ。緻密に計算された機能美だといえるだろう。

  • 重心バランスを安定化する「スタビライザーフラップ」で、デタッチャブルの課題を解決

液晶の開きは約130度で、キーボード面は8度の傾斜が確保される。一般的なクラムシェルと比べても、ほぼ遜色はない。ただ、贅沢をいえば液晶開きは180度を確保してほしかったところだ。

対面のときに役立つワイヤレスモードに感心

これまで2in1 PCをいろいろと使ってきたときが、そのたびに不自由に感じていた多くの点が解消されているのは見事だ。まさに知恵と技術で完成させた名機といってよさそうだ。

感心したのはキーボードにワイヤレスモードが実装されている点だ。タブレット部とキーボード部を分離しても、そのままキーボードをワイヤレスで使えるので、対面プレゼンテーションなどの際に役立つ。しかもBluetoothではなく、独自の形式を使い、やりとりする内容は暗号化されているそうだ。

さらに外側にもリリースレバーが装備されているのもいい。通常、合体している2in1を分離するには液晶を開いてリリースレバーをスライドさせてタブレット部を取り外すという手順が必要で、手間も場所も必要だが、この外側リリースレバーを利用すれば、カバンの中に本体を入れたまま、片手でタブレットだけを出すといったこともできる。

USB Type-C PDでの充電も工夫が光る

充電関連も工夫されている。とはいえType-C PDに対応し、24Wからの充電が可能というのは今どきのPCであれば、ごく普通の仕様だ。一般的なスマートフォンで使われる充電用のACアダプタは18Wの小型のものが多いので、それで充電できないのは残念と思いきや、5V/1.5AでのBC1.2での充電もサポートされ、ごく一般的なモバイルバッテリなどでの充電、運用が可能だという。これなら、いざとなれば、そのあたりのコンビニでも入手できそうだから、出先でのバッテリ切れアクシデントの急場しのぎにもなる。

せっかくの2in1なのだし、モバイルノートでもあるのだから、こんな使い方をしてみたいと思っていたことがちゃんとできるようになっている。これは、実際に使っている人が作ったということが伝わってくる。

もはや完成の域に達しているといってもいいレガシーなクラムシェルノート。その使い勝手にいっさい妥協することなく、2in1としての魅力を付け加えるという発想だ。2in1なのだから仕方がないとはならない製品の企画は、ビジネスの現場に新しい風を起こすかもしれない。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)