パナソニックが東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催中のCROSS-VALUE INNOVATION FORUM 2018で、これからの100年の社会や人々のくらしについて、同社が考えるお役立ちの姿や未来ビジョンを紹介した(2018年11月3日まで開催)。

空港の顔認証ゲートや翻訳パネルがお目見え

このフォーラムで、同社はくらしをアップデートする会社に、トランスフォーメーション真っ最中であることを強くアピールした。そして、最新技術の展示スペースでは、さまざまな未来を感じさせる製品群を見ることができた。そのほとんどは、かつての家電メーカーとしての松下電器ではなく、B2Bに軸足を置いたパナソニックの姿勢を具現化したものだった。

たとえば、成田や羽田空港で運用が始まっている認証ゲート。実際の運用現場での撮影が禁じられているので、実際に使っているところを写真に撮れる絶好のチャンスだ。すでに体験されている方も多いと思うが、指紋認証よりもずっと素早くゲートをクリアできる。

  • 空港に設置されている顔認証ゲート

また、シースルー翻訳も未来を感じさせるデモだった。対面する二人の人物の間に透明な液晶パネルが置かれ、双方がその表示内容を見ることが出来る。もちろん片側からは鏡文字になる表示が組み合わされる。

ボタンを押して発声すると、それを認識してこちら側に正しく読めるように文字表示、そして、パネルの向こう側から正しく読めるように翻訳結果が表示される。その繰り返しで異言語間のコミュニケーションが文字と音声で実現できる。翻訳エンジンは「みらい翻訳(NICT: 国立研究開発法人情報通信研究機関)」が使われ、すでに「対面ホンヤク」として商品化されている製品の拡張版といってもいいものだ。

  • 対面で使えるシースルー翻訳。透明なパネルに認識された言葉と翻訳結果が表示され、異言語でのコミュニケーションを実現する

こうした製品群を見てもわかるように、そこにあるのはまさに「アップデート」であり、センセーショナルに登場した真新しいテクノロジーではない。すでに確立された汎用技術を組み合わせ、まさに暮らしをアップデートする姿勢が見てとれる。

今、働き方改革が叫ばれ、国そのもののバージョンアップに向かって突き進む日本だが、このパナソニックの方法論は、わが日本を支える日本企業のこれからのあり方のパイロット的存在だといえるかもしれない。日本のお家芸ともいえるものづくりだが、そこにこだわり続けることが明るい未来をもたらすとは限らない。

高橋尚子さんの生活をアップデートしたスポーツウォッチ

この展示を見た同日、フィンランドのメーカー、ポラールの新製品発表会があり、世界初の手首型のランニングパワー計を搭載した心拍計内蔵型マルチスポーツウォッチ「Polar Vantage V」が発表された。同社は世界初の着用式無線心拍数モニターを1982年に発売し、アスリートのトレーニングのあり方を変えたことで知られるメーカーだ。

発表会にはゲストとして2000年シドニーオリンピック金メダリストの高橋尚子さんが、同社のアンバサダーとして登壇した。

  • ポラールのアンバサダー、高橋尚子さん

現役時代に自分のトレーニングの状態を知るためにやったことといえば1分ごとにタイムをはかることくらいだったという高橋さんだが、ポラールのスポーツウォッチの機能を嬉々として語る様子が印象的だった。今や、私服でTV出演するようなとき以外は、24時間ほぼ肌身離さず身につけて自分の体の調子をモニタリングして次のステップアップに活かしているという。まさにアナログ人間だった高橋さんをデジタルトランスフォーメーションさせ、彼女をバージョンアップしたのがポラールだったというわけだ。

タレント的なゲストが登壇する発表会は、総じてとってつけた感が満載で、ちょっとしたうさんくささを感じることが少なくないのだが、この発表会は違っていた。こういう人をアンバサダーに選べたポラールの日本法人は実にラッキーだったといえる。

パナソニックもポラールも向いている方向は同じだ。くらしのアップデートというのはこういうことなのだと思う。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)