卒業がもたらしたもの
--宗像さんはすでにLeapMindを含めて何社かと関わっておられますが、今のところ代表取締役をなさっているのはB.Groveだけで、あとはみな顧問みたいな形ですよね
あとは社外取締役ですね。
--そうしてコーチングをされている、ということになる
コーチングは新規事業を立ち上げる活動の中の1つの関与の仕方として実施しています。もしくは一緒に事業を構築してやっていくという、OJTでプロジェクトまわすときに、一から全部やるわけではないですが、プロジェクトメンバーに「課題の本質は何? どんな問題を解こうとしてるの?」と聞いてます。それに対して「こんな視点で考えたらどうなる?」「どうしてそれが課題なの?」といった感じで、自分で考え、決断し、行動できるリーダーになれるように関与してます。
--そういう意味ではIntelにいらっしゃった時とあまりやられてることは変わってない気がしますね
オペレーション上はそうですね。
--しいて言えばIntelの頚木を外れた分、もっと自由になった
そうですね。Intelのロゴマークがなくなった分だけ、世界が広がったという感じです。
--ちなみにIntelのロゴマークの下に居られた時と今のどちらが楽ですか?
今の方が全然楽です。ああしろこうしろ言う人がいませんから(笑)。まぁ、これは人によっていろいろだと思うのですけどね。僕はIntelで、本社に対していろいろ提案するわけですが、本社からは「止めたほうがいいんじゃない?」と却下される訳ですよ。それで、本社の社外取締役をされていたハーバードの先生が日本にいらっしゃった時に聞いたんです。「こういう風にやってレビューを受けると弾かれちゃうんですが、どうしたらいいんですか?」と。すると先生は「そんなものは聞くから、聞かれたほうはリスクを取らなきゃいけないわけで、止めろというしかないじゃないか。聞かないでやってしまえばいいんだ」と返事をくださった(笑)。
いちいちレビューしてもらうから、レビューする側は聞かれた都合上、自分の価値観の中で「ヤバいな」と思ったら「やめとけ」というしかない。それはしょうがない。だから聞かれないでやってしまえば判らないから、とめようがないじゃないか、というわけです。我々、というか自分で言ってたのかな、「Autonomous Strategic Action」とか言ってたんですけど、日本語にすると、「自律的戦略行動」という意味になりますね(笑)。
よくよく考えてみると、Intelの戦略って自分たちで考えたものが上手くいったケースはあまりなくて、お客さんに対して反応を返していったらそれがビジネス的に大きくなったみたいなパターンが多いんです。IBM-PCもまったく一緒で、8086売らなくちゃって一生懸命デザインを獲得していって、でもBoca Raton2)に「外部装置が8ビットで制御する装置なので、内部バスは16ビットで良いけど、外部バスは8bitにしてよ」と言われて「判りました」といって8088作ったら、大受けしてドッカーン、と広まった。もしずーっと「外も中も16bitで」と言い続けていたら、多分IBM-PCが興ってないです。お客さんの声を聞いて、それにリアクションで返していくというのは、ある意味正しいな、と思いましたね。カスタマの声を聞けとか、顧客の一次情報を大事にしろとか、MBAとかいろいろなところで沢山言われますが、やってみれば所詮そういうことか、と納得しました。
--そういう意味では、Intelさんが自前で作られたアーキテクチャはほとんど失敗してますよね
結局、供給側のロジックで「これいいだろ」と思ったものはあまりマーケットには受けなくて、逆に言えばマーケットが欲してるものをずーっと追従してゆくと、確実にそこに市場が出来てくる。
我々もスタンフォード大学で講義を受けさせられましたが、「Induced Strategy」と「Autonomous Strategy」の2つがあるんだ、と教えられました。ただInduced Strategyのように、事前に準備して考えた戦略が上手くいく場合もあるんですが、往々にしてAutonomous Strategy、自然発生的に出てきてる戦略の方が現実的には会社のビジネスとしてきちんと回るようになる、という印象ですね。
それこそ大本営とかが一生懸命考えて作ったものというのはほとんど失敗して、現場で困ってます、これ対応してくださいというのが、そりゃ面白いというのでやっていったらビジネスがでっかくなっちゃった、と。そういうのがやはり大きいですね。
これは我々も散々体験して学習しているので、「それはもうAutonomous Strategic Actionだから、いちいち聞いたら聞かれた方は駄目といわざるを得ないので、あえて聞くのをやめよう」と。その代わり成功したら、手柄を相手にあげる。「あなたのお蔭でこれ出来ました」と言ってあげると、「え、俺認めたつもりまったくないんだけど、ああそうなんだ、ありがとう」になる。そうすると、次の2回目の投資がうまくいく。「手柄は相手に渡して、黙ってやれ」と。
日本の会社は、安心安全に暮らせるみたいな体質があるじゃないですか。まぁ、ある一定の状況になれば、そこそこしくじらない限りは、何年か居られますよね。一方、私たち外資系は、どんなに一生懸命頑張っても、会社の方針でOperation Shutdownと言われたら即、その瞬間に職を失うわけですよ。昔のアメリカの外資系の会社だと即レイオフ(解雇)ですよね。「はいそれじゃ2週間以内に会社出てってください」みたいな事を言われちゃう。常にそういう危機感があって、うまくやっても駄目なものは駄目なんだ、と思えるようになりましたね。
そういう割り切りが出来ちゃっているので、やはり考え方がそういう風になっていくわけです。常に安心安全な状態はありえない、という前提に立つと、いつ今やってる仕事がなくなっても大丈夫なようにしなければいけなくて、そのために唯一できることは、自分がいつどうなっても1人で食っていけるだけのスキルセットをあげてかなければいけない。会社には依存しない。
--そういう意味では顧問なり取締役なりをされている会社がほとんどベンチャーというのはやはり若い、会社に依存する人がまだ少ないベンチャーの方がやりやすい、ということでしょうか?
そうですね、話は伝わりやすいですね。自分たちがそういう環境にいるので、僕がIntelに入ってやっていたのと、そういう会社、LeapMindもそうですが、そういう環境の中で皆さんやられているので、共感しやすいですね。これが大手企業に行ってそういう話すると、なんか判ったような顔をしてるんだけど、体が反応しないみたいなことになる(笑)。
注釈
2) IBM Boca Raton Centor。IBM-PCの開発を行ったEDS(Entry Systems Division)がここに拠点を置いていた。
(最終回となる次回は8月3日に掲載します)