また、コンピュータの区分として、汎用と専用という分け方もできる。パソコンやサーバに使われている汎用CPUは、OSが動き、その上でワープロやWebブラウザも動けば、科学技術計算やデータベースも動く。

一方、3Dグラフィックス表示を行うGraphics Processing Unit (GPU)は、特定の処理を行うことを目的に設計されており、専用コンピュータである。また、ビデオのエンコードやデコード、無線通信の信号処理なども、専用コンピュータが開発されている。

これらの専用コンピュータの処理は、もちろん、汎用コンピュータで実行することも可能であるが、GPUのように、汎用CPUチップでは性能が不足でより高い性能を実現したい場合や、限定された機能を、汎用CPUよりも低コストや省電力で実現したいという場合には、専用コンピュータが作られることになる。

前述のように、これらの専用コンピュータは各種の固定機能ブロックをデータフロー的に結合してデータ処理を行う非ノイマンコンピュータである場合もあるが、ノイマン型である場合もある。

最近のグラフィックス処理では、表示の写実性を高めるために面の色づけ(シェーディング)などに複雑な処理が用いられるようになり、ハードウェアの配線で完全に固定された手順では、処理が困難になってきている。また、ビデオや無線の信号処理も、多種の標準規格をサポートする必要があったり、規格が改良されて機能が追加されるのに対応する必要があったりするという事情があり、処理に対してある程度の可変性を持たせることが必要となってきている。

このため、ハードウェアとしては、グラフィックス処理向けの演算ユニットを持つノイマン型のコンピュータとしてより汎用的な処理を可能にしたGPGPU(General Purpose GPU)や、計算部分にFPGA(Field Programmable Gate Array)のような可変要素を組み込んで再構成可能(Reconfigurable)とするような構造のものが増加してきている。

本稿では、ノイマン型の汎用コンピュータのアーキテクチャについて述べる予定であるが、コンピュータチップの種類としては専用のチップの方がずっと数が多いと思われるし、そのアーキテクチャのバリエーションもずっと幅が広い。建築に例えて言えば、汎用コンピュータは住宅のような建築の一つのカテゴリである。住宅はメジャーなカテゴリではあるが、建築全般ではオフィスビルもあれば、各種工場、ショッピングモール、ホール、ホテル、旅館、お寺、教会など様々なカテゴリがある。しかし、住宅以外の建築を一纏めにして専用コンピュータと呼んでいるような感じである。従って、本稿で述べるものだけがコンピュータというような狭い視野を持たないように注意して頂きたい。

1990年代には汎用コンピュータを開発するメーカーが多数存在したが、国内でいわゆる汎用コンピュータを自主開発しているのは富士通のPRIEMPOWERシリーズに使われているSPARC64プロセサと、日本電気のスパコンのSXシリーズのプロセサくらいになってしまった。世界的にみても、米国のIntel、AMD、IBM、Sunなどが主要なメーカーであるが、アルファを作ったDECは既に無く、HPもプロセサの開発は止めてしまっている。というように、汎用のコンピュータを設計している会社は、現在では十指で数えられる程度に減少してしまった。

従って、コンピュータアーキテクチャを勉強しても汎用のコンピュータを設計できる機会は限られているのであるが、各種の専用コンピュータの開発の機会は豊富に存在する。そして、専用、汎用を問わず、ディジタルの計算処理という点では基本技術は共通であり、本稿で述べる汎用コンピュータの技術は専用コンピュータの設計にも役に立つものである。