価格で勝負する大型量販店の進出やネット通販の隆盛を受け、差別化が難しくなりつつあるのがメーカーの直営店。「直営店はメーカーのショールームみたいなものだから面白くない。価格面でも魅力はないから足を運ばない」と考えている人も少なくないのでは?
新しい取り組みを進めているのが、ソニーの直営店であるソニーストア。7月下旬、カメラをテーマにしたイベントを実施していたソニーストア大阪では、来場者がイベントの登壇者や外部のカメラアクセサリーメーカーの担当者と話をする様子が随所で見られるなど、まるでCP+の会場のように熱気にあふれており、静かで退屈な直営店の姿はありませんでした。
こんな盛況なのに、スタッフがカメラやレンズの購入を来場者に勧める様子が一切なかったのが意外でした。ソニーストアの担当者は「売り上げや利益は二の次でいい。このような機会をきっかけに、人と人のつながりを作っていきたい」と語ります。メーカー直営店らしからぬ戦略を採るのはなぜなのか、取材しました。
EOS Rシリーズを愛用するクリエイター、α7 Vを買ったわけ
7月18日、JR大阪駅前のビル内にあるソニーストア大阪を訪れると、カメラをテーマにしたイベント「Camera FES」が開かれていました。Camera FESは、昨年に続いて2回目となるイベントで、今年は7月18~20日が静止画主体の内容、翌週の7月25~26日を動画主体の内容にするなど、写真と動画それぞれで作品作りを楽しむ人に向けて焦点を絞った内容にしています。
静止画主体の内容だった7月18日は、クリエイターのゆ~とびさんが登壇。ソニーの最新フルサイズミラーレス「α7 V」をいきなり衝動買いした理由について語りました。
幼いときからカメラに親しんでいたというゆ~とびさん、最近はキヤノンのEOS Rシリーズをメインに使っています。それなのに、異なるマウントのα7 Vを購入したのは、オートホワイトバランス(AWB)時の色が劇的によくなった、という話を聞いて興味を感じたのがきっかけだそう。店頭でのトークショーでも、木々の緑や幹の発色がAWBでも見た目に忠実になったことを評価していました。
AWBの発色以外にも、バッテリーの持ちがかなりよくなったことや、秒30コマの連写がさまざまなシーンで頼りになることを実感したそう。「このクオリティのカメラがスタンダードという位置づけなので、今後出るであろう上位機種はどんなすごいカメラになるのか、とっても楽しみになってきました」
EOS Rシリーズと比べてα7 Vのアドバンテージとして、まずサードパーティの交換レンズが使える点を挙げました。「シグマのレンズで使ってみたいものがあったんです。純正にはない面白いレンズが揃ってますから」。そう語るゆ~とびさんですが、ソニーの純正レンズも改良版のII型になって、高性能化しつつ小型軽量化が図られていることを評価していました。
秋の行楽シーズンで出かける機会が増えるこれからの季節、実家や観光地など目的地だけの写真を撮るだけでなく、道中の写真も撮っておくことをゆ~とびさんは勧めます。「通りかかった道にあるカーブミラーだったりバス停だったり、そういう何気ない被写体を撮っておくと、その街のよさがグッと伝わると思うんです。どこかに行くたびに、毎回写真展をやってやるぞ!ぐらいの気持ちでいろいろ撮っておくといいと思います」
ソニー以外のメーカーのカメラアクセサリーを展示
トークショーから少し離れた一角には、三脚や照明、フィルターなどのアクセサリーメーカーが最新製品を展示し、来場者が実際に製品を手に取りながら機材選びの相談ができるスペースを用意。製品を試しながらメーカーの担当者と話す来場者で賑わっていました。
毎年春に横浜で開かれるカメラ展示会「CP+」では、カメラ本体や交換レンズはもちろん、サードパーティーのカメラアクセサリーをお目当てに来場する人が少なくありません。カメラアクセサリーは、大きなカメラ量販店でも取り扱いがなかったり、試用できるサンプルが置いていないことがあり、各社の製品がまとめて試せるCP+は貴重な機会になっているからです。
ソニーストアにソニー以外の製品を展示したり、他社の人を招くのは、本来はNGなんだそう。そのような制約があるなか、関係各所と調整してソニー以外のメーカーを招いてカメラを展示したのは、ユーザーの立場に立った好ましい判断だと感じました。
「関西にもCP+を!」あるスタイリストの熱意
盛り上がりを見せ、成功裏に終わったCamera FESですが、実はソニーストア全店でこのイベントを展開しているわけではなく、ソニーストア大阪独自の取り組みだそう。メーカー直営店といえば、どこに行っても共通の店作りなのが当たり前ですが、ソニーストアは各店舗の個性を生かした運営を推進しているといいます。
ソニーストア大阪でCamera FESを実施できたのには、CP+のようなカメライベントが関西にはないことを残念に思うスタイリスト(スタッフ)の存在がありました。
ソニーストア大阪でカメラ担当のスタイリストを務める小林優樹さんは、もともと神奈川に住んでいてソニーストア銀座に勤務していたそう。大阪に転勤して気づいたのが、大阪はカメラの人気が高い地域なのにもかかわらず、CP+のようなカメライベントがないことでした。
「大阪に来てからも、CP+が始まれば必ず足を運んでいました。CP+って、単に製品を試すだけではなく、メーカーの担当者やファンと話をして人と人をつなぐ場でもあると思うんです。そんな場が関西にもあったらいいな…と思い、ソニーストア大阪として何かできないかと考えました」
ソニーストア大阪に足を運ぶ常連客から、「気になっているアクセサリーメーカーの人に話を聞きたい」「クリエイターの撮影術を聞いてみたい」といった要望を聞くことがあったそう。そこで、CP+のような場をソニーストア大阪に設けるべく、去年の7月に第1回のCamera FESを実施しました。
ソニーストア大阪の店長を務める長谷川祐貴さんは「もともと、ソニーストアでは競合するメーカーの製品や人間を配置するのはNGだったんです。ですが、カメラはカメラメーカーだけでは成り立たないジャンルの製品じゃないですか。三脚しかりストラップしかりカメラバッグしかり、さまざまなメーカーのアクセサリーを組み合わせてこそ、カメラは人それぞれの使い方に寄り添える存在になります。お客様のライフスタイルに寄り添うソニーストア、という文脈から考えると、Camera FESはほかのメーカーの力も借りなければだめだ、と考えました」
昨今のソニーストアは本部主導ではなく、客にもっとも近い現場の声を生かした店舗主導の店作りを進めていることもあり、ソニー以外のメーカーの参加もOKになったそうです。
客とつながることで、量販店にはない価値を提供する
ソニーストア大阪がCamera FESを実施した背景には、客との中長期的なつながりを重視し、客のライフスタイルに寄り添うことを重視していることが背景にあります。
「売っているものは量販店と一緒ですから、価格面ではかないません。ですが、ソニーストアは製品を売っておしまいではありません。スタイリストとつながることで、製品のことをもっと知りたい、こんなことをやりたい、というお客様の要望にずっと応えられます。ソニーストアにはサポートを担うテクニカルラボもありますから、何か困ったことがあった時は迷わず来ていただけます。もちろん、製品を販売して売り上げを立てるのも大事ですが、製品を使うことで人生や体験がどう豊かになるかをお伝えすることを優先しています」(長谷川店長)
そのような思いで開かれたCamera FESの会場では、客とスタイリスト、客とクリエイター、さらに今日初めて出会った客同士がカメラ談義に花を咲かせる光景がありました。ソニーストア大阪は単なるメーカーの直営店ではなく、カメラファンの「好き」を広げる場所になっていました。










