世界中を熱狂に巻き込んだ「FIFAワールドカップ2026」が先日閉幕し、見事スペインチームが優勝しました。テレビなどで観戦した方も多かったのではないでしょうか。

そんなワールドカップを多くの素晴らしい写真で伝えたのが、世界最大級のデジタルコンテンツカンパニー「ゲッティイメージズ」(Getty Images)です。同社は、FIFAワールドカップの公式フォトエージェンシーであり、1968年以降の大会を撮影してきました。

  • 2282566360,Alexander Hassenstein,GettyImages

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今大会には115名のフォトグラファー、編集者、運営スタッフを投入し、260万点以上の写真を撮影・配信したとのこと。撮影した写真は、最短30秒で世界に配信されたそうです。

今回は、本大会を撮影したゲッティイメージズのフォトグラファー2名にインタビューしました。1人は手持ち撮影担当で、もう1人はリモート撮影担当のフォトグラファーです。「決定的瞬間をさかのぼって記録できるプリ撮影機能は使っていない」「ゴール裏のカメラに付いているのは意外と安いレンズ!?」といった意外なエピソードも知ることができました。

フォトグラファーも「フェアプレーで全力を尽くす」

1人目は、ドイツを拠点に活動するゲッティイメージズ専属フォトグラファーのアレクサンダー・ハッセンシュタインさん。10代のころ、友人たちがサッカーをしている様子を撮影したことをきっかけに、スポーツ写真に興味をもったそうです。

  • ゲッティイメージズのアレクサンダー・ハッセンシュタインさん(右) 提供:GettyImages

    ゲッティイメージズのアレクサンダー・ハッセンシュタインさん(右) 提供:GettyImages

――これまでに撮影してきたものは?

オリンピック18大会、FIFAワールドカップ9大会、UEFAチャンピオンズリーグ決勝10大会。また、F1世界選手権、世界陸上競技選手権も取材・撮影してきました。「ワールド・プレス・フォト・オブ・ザ・イヤー」(2004年)などいくつかの賞も受賞しています。

――仕事に対していつも心がけていることは?

私たちはスポーツの世界で生きてきました。スポーツとともに生き、スポーツのために生きています。そして、毎日スポーツから多くを学んでいます。

私が撮影する現場には、いつも勝者と敗者がいます。それもスポーツの一部です。負けを受け入れられないのであれば、フィールドに立つべきではありません。フェアプレー、そして全力を尽くすこと。それが私の仕事における根本的な信条です。

スポーツの現場は特殊です。勝利はトレーニングとチームワークによって得られます。今日負けても、明日にはまた新たなチャンスがあります。私はスポーツからそれを学び、それを写真撮影という仕事にも取り入れています。

  • 2283355852,Alexander Hassenstein,GettyImages

    2283355852,Alexander Hassenstein,GettyImages

――サッカー撮影の難しさとそれを克服する手段は?

サッカーでは90分間ずっと同じ場所に座り、すべてのプレーが私たちの前で起こります。残念ながら移動することはできません。それが現実です。そのため、試合を先読みし、今何が起きていて、次に何が起こるかを理解し、自分に割り当てられた撮影ポジションを最大限に活かさなければなりません。

この仕事の性質上、重要な場面が別の場所で起こることもありますし、視界が遮られた位置から撮影することもあります。そして、すべての出来事は一度しか起こりません。そのことを理解し、どう対応するかを知っている必要があります。

なぜなら重要なのは、ゴールや歓喜、感情だけではなく、アーカイブでもあるからです。長く価値を持ち続ける写真、特別な写真を届けなければなりません。そのためには、幅広く、多様な写真を撮影する必要があります。

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――今回使ったカメラを教えてください。

私は、1992年からキヤノンを使っており、現在はキヤノン アンバサダーも務めています。現在は「EOS R1」を3台使用しています。スポーツ写真には最高のカメラです。

私は白黒フィルムから写真を始め、写真という技術を基礎から学びました。暗室でプリントやフィルムの現像も行い、白黒フィルム、カラーフィルム、そしてデジタル時代へと至る写真技術の進化を、自分自身で体験してきました。本当に素晴らしい旅でした。

  • アレクサンダー・ハッセンシュタインさんが試合で撮影した際のカメラマン席。RFマウントの超望遠レンズ「RF600mm F4 L IS USM」を装着したEOS R1をはじめ、EOS Rシリーズがズラリ 提供:GettyImages

    アレクサンダー・ハッセンシュタインさんが試合で撮影した際のカメラマン席。RFマウントの超望遠レンズ「RF600mm F4 L IS USM」を装着したEOS R1をはじめ、EOS Rシリーズがズラリ 提供:GettyImages

――今回使ったレンズは?

私は非常に長いレンズで撮影することが好きで、特に600mmがお気に入りです。これを使えばプレーの中心へ、さらに近づくことができます。時間が経つにつれて、このレンズが私の定番になりました。

また、ゴール前を撮影するために70-200mmも使用しています。さらに3台目のカメラには広角レンズを装着し、何かがすぐ目の前で起きることを期待しています。そして時には、その期待が現実になります。この方法は、過去のFIFAワールドカップでも非常に成功してきました。

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    2283355946,Alexander Hassenstein,GettyImages

――撮影から納品までのワークフローはどのようなものですか?

通常、キックオフの3〜4時間前にスタジアムへ到着します。インターネット接続やケーブルの確認を行い、編集チームと試合の見どころや重要なポイントについて打ち合わせます。

キックオフ1時間前になると選手たちがウォーミングアップを始めます。その時点までには通信システムやカメラの準備を完了させておかなければなりません。選手がピッチに姿を現した瞬間から、世界中のクライアント向けに最初の写真を配信し始めるからです。

私はフィールド上のフォトグラファーにすぎません。状況を見て、写真を撮り、シャッターを切る人間です。しかし、その背後には、私の写真を世界へ届ける大きなチームがいます。私たちは編集チームと常に連絡を取り合い、カメラから編集部へリアルタイムで画像を送信しています。

まさに一瞬一瞬で動く作業であり、それはスポーツと同じようなスリルと緊張感があります。ここで優れたチームワークを実現することは、本当に素晴らしいことです。私たちにとって「勝利」する手段はチームワークしかありません。先ほど、私たちは毎日スポーツから学んでいると言いました。まさにこの瞬間、このタッチラインで、それを実践しているのです。最高のチームが勝つということです。

――シャッターを押す前の写真も記録できるプリ撮影機能は使いましたか?

この機能を初めて知ったときは、とても興味深く感じ、お気に入りメニューにも追加しました。しかし正直なところ、ほとんど使っていません。私たちは十分に鍛えられ、経験豊富で、プロフェッショナルなので、自分たちで対応できるからです。

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――現場で欠かせないアイテムは?

私は何年もの間、古いキャメル色のビリンガムのカメラバッグを愛用しています。人生をともに歩んできた相棒であり、今でも世界中へ重たいまま肩に担いで持ち歩いています。そのほかの機材は大きなペリカンケースに収納し、移動中や車内、スタジアムへの移動時も安全に運搬しています。

長いレンズで撮影するため、一脚は必須です。また、ケーブルが使えずカメラから直接インターネット送信する必要がある場合に備え、モバイルWi-Fiルーターも使用します。

それ以外は、必要最小限しか持っていきません。私はミニマリズムを信条としています。30年間、自分に本当に必要なものが何かを知っており、それはほとんど変わっていません。最近のフォトグラファーはパソコンやカードリーダーなど、スタジアムへ持ち込む機材がどんどん増えていますけどもね。

――ワールドカップ撮影で前回大会よりも進化した機材や撮影技術、ワークフローなどはありますか?

もちろん、カメラはより高速で頑丈になり、技術的にも大きく進歩しました。レンズも軽くなりました。しかし、スポーツそのものは変わっていません。1点でも多くゴールを決めた方が勝つ。その事実だけは変わらず、私たちは毎日それを撮影しています。

  • 2283948043,Alexander Hassenstein,GettyImages

    2283948043,Alexander Hassenstein,GettyImages

――フォトグラファーとしてワールドカップを撮影することの意義を教えてください。

私にとって最も魅力的なのは、多くの国と選手たちが、自国や自国民の精神をこれほどまでの情熱と献身をもって背負っていることです。これはクラブサッカーではありません。特定のクラブへの忠誠ではなく、自分の祖国、自分の国そのものの精神が、競技を通して試されているのです。

ゲッティイメージズには多国籍の大きなチームがあります。私たちは、それぞれが自国の視点から撮影しながらも、魅力的で印象的な写真を通じて共通の成果を生み出していることに、大きな誇りを持っています。

――今大会の撮影を振り返っての感想は?

私にとって、本当に素晴らしい大会でした。スポーツ面でも個人的にも、多くの素晴らしい経験に満ちていました。私はこの大会が大好きでした。

ただ、結果だけは私が望んでいたものではありませんでした。私の担当はドイツ代表を追いかけ、ゲッティイメージズのエディトリアル写真を撮影することだけでした。結果は皆さんもご存じですし、それについてはあまり触れたくありません。私は約2か月間ドイツ代表と行動を共にし、その後比較的早く帰国することになりました。

それまでは、本当に素晴らしい大会でした。そして、試合が日中に行われたことは、私たちヨーロッパ人にとって非常に特別なことでした。昼間にサッカーを撮影することはまったく珍しかったのです。光と影、太陽と生命が織りなす光景は本当に魅力的でした。

  •  提供:GettyImages

    提供:GettyImages

独自開発のアイテムで安定した撮影・転送を実現

2人目はリモート撮影を担当したリチャード・ヒースコートさんです。イギリスを拠点とするゲッティイメージズチーフスポーツフォトグラファーであり、スポーツイベントの取材を進化させるロボティックカメラといった製品やプロセスの開発にも携わってきたそうです。

  • ゲッティイメージズのリチャード・ヒースコートさん 提供:GettyImages

    ゲッティイメージズのリチャード・ヒースコートさん 提供:GettyImages

――これまでの撮影実績を教えてください。

この28年間で、FIFAワールドカップ7大会、オリンピック10大会、UEFA欧州選手権、ラグビーワールドカップ、ゴルフの四大メジャー大会などを取材してきました。2020年にはスポーツジャーナリスト協会から「エド・レイシー・トロフィー」を受賞しました。

――仕事に対していつも心がけていることは?

私の仕事では、視覚的に力強いこと、その瞬間をできる限り良く捉えること、適切なタイミング、適切なフレーミング、そして、人々がその写真を見て立ち止まり、その内容をじっくり見たくなるような画を作ることを大切にしています。

――サッカー撮影の難しさは?

運です。本当に、ゴールが自分の担当する側で決まり、その後の喜びのシーンが自分の方へ来て、試合を象徴する瞬間が自分の目の前で起こるという幸運が必要です。私たちはワールドカップを複数のフォトグラファーで取材しており、座る位置も交代しています。そのため、その瞬間がどこで、いつ起こるかは誰にも分かりません。

私たちは全員が非常に経験豊富なサッカーフォトグラファーなので、その瞬間が起きたときには、その決定的瞬間を可能な限り最高の形で撮影できるという自信を持っています。

――リモート撮影を行うことのメリットはなんですか?

リモートカメラは、私たちの取材を補完する役割を果たします。自分たちが物理的に立つことのできない場所にカメラを設置できるため、試合の重要な瞬間を異なる視点から、興味深いアングルで提供することができます。

――リモート撮影ではどのようなカメラが使われましたか?

主にキヤノンの「EOS R1」または「EOS R3」を使用しています。場合によっては旧型の「EOS-1D X Mark III」も使用します。これらは「EOS Multi Remote」ソフトウェアを使ってネットワーク経由で制御できるためです。

これにより、露出の変更や必要に応じたフォーカスの変更、長期間設置しているカメラのメモリーカードを、現地へ行かずにネットワーク経由で消去することが可能になります。

  • リモートカメラとして高い位置からゴール付近を狙う、EFマウントのデジタル一眼レフカメラ「EOS-1D X Mark III」 提供:GettyImages

    リモートカメラとして高い位置からゴール付近を狙う、EFマウントのデジタル一眼レフカメラ「EOS-1D X Mark III」 提供:GettyImages

――今回使ったレンズは?

ゴール裏では主に「RF24mm F1.8 MACRO IS STM」単焦点レンズを使用しています。24mmは、広角でありながら、選手がカメラから離れている場合でも小さくなり過ぎない、ちょうど良いバランスです。

また、この24mmレンズはコンパクトであり、シュートが当たった際にも交換・修理費用が比較的安く済みます。

  • ゴール裏に配置された「EOS-1D X Mark III」。後方のポーチには、モバイルバッテリーなどが収納されている 提供:GettyImages

    ゴール裏に配置された「EOS-1D X Mark III」。後方のポーチには、モバイルバッテリーなどが収納されている 提供:GettyImages

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    2281313896,Richard Heathcote,GettyImages

――実際のリモート撮影の方法はどのようなものですか?

私はコーナーフラッグ寄りのピッチサイドからリモートカメラを操作していました。通常、ゴール裏のリモートカメラは試合開始約2時間前に設置し、正常に作動し、画像送信も問題ないことを確認します。

その後、芝への散水があるためカメラを覆います。屋根にリモートカメラを設置する会場では、大会開始の約1週間前に設置し、常時電源を入れておきます。これにより、再び現地へ行くことなくネットワーク経由でアクセスできます。

カメラ設定の変更にはEOS Multi Remoteを使用しますが、一度試合用に設定すれば、通常は試合中に変更することはありません。シャッターを切る方法はいくつかあり、フォトグラファーが選べるようにしています。

具体的には、ソフトウェア経由、PocketWizard(リモコン)による無線トリガー、ゴール裏リモートではフォトグラファーの足元のペダルからケーブルで接続する方式があります。

――リモート撮影でゲッティイメージズならではの技術やアイテムはありますか?

私たちは独自にカスタマイズしたコントロールボックスを使用しています。これにより、長期間設置したカメラから画像を素早く取得し、さらにネットワーク経由で遠隔リセットするために必要な重要な機能を提供しています。

これは、この14年間にわたり改良を重ねてきた装置であり、私たちのリモート撮影をここまで安定して運用できるよう支えてきた技術です。

――撮影から納品までのワークフローを教えてください。

サッカーでは非常にシンプルです。そして、そのシンプルさこそが安定した成功の鍵です。フォトグラファーが撮影した写真は、自動的にFTP経由で編集者へ送られます。編集者は画像を処理し、お客様へ配信します。

私たちはシステムとプロセスを磨き続け、フォトグラファーにとっては扱いやすく、編集者にとっては迅速に処理できるようにしてきました。問題が起きる可能性のある複雑な工程は取り除いています。

――現場で欠かせないアイテムは?

サッカーでは通常カメラを5台持ち込みます。手持ちの試合撮影用にはカメラ3台と、それに合わせたレンズが400mm、70–200mm、24–70mm、15–35mm。です。

リモート撮影用はカメラ1台と24mmレンズ。予備のカメラが1台。私はすべての機材を入れたローラーバッグを引いて移動するのが好きですが、バックパックを使う人もいます。これは個人の好みです。

そのほか、一脚やPocketWizard送信機、試合後の追加編集用ノートPCを持ち込みます。

――リモート撮影でも前回大会より進化している機材や撮影技術はありましたか?

私たちは新しい機材を試験的に導入し、プロセス改善に役立つか検証してきました。ただし、このワールドカップはカタール大会とそれほど大きく変わってはいません。

最も大きな改善点は、私たちが共同開発してきたソフトウェアが最終段階まで完成し、ネットワーク経由でより速く、より効率的にカメラを制御できるようになったことです。

――フォトグラファーとしてワールドカップを撮影することの意義は?

ワールドカップはサッカー最高峰の舞台です。しかし、必ずしも常に最高レベルのサッカーというわけではありません。世界中から非常に多くのチームが集まるため、本当に強豪同士が対戦するまでには時間がかかるからです。

フォトグラファーとしては、小さな国々が番狂わせを起こし、期待以上の活躍を見せ、大国に挑む、そのストーリーを伝えられる機会です。どの試合にも、必ず素晴らしい写真を撮るチャンスがあります。

――今大会を振り返っての感想を教えてください。

最も印象的だったのは、規模の大きさです。これまで以上に大規模となり、期間も長くなりました。3カ国にまたがる大会だったため、私たちは小さなチームに分かれ、地域ごとに取材しました。私にとって一番良かったのはそこです。

ゲッティイメージズのフォトグラファー仲間と一緒に、毎日のように都市や国を移動しながら、4年に一度しか会えないチームを取材しました。その仲間意識こそが、この大きなイベントを仕事として楽しめた一番の理由でした。