米Qualcommは10月7日(現地時間)、オープンソース電子機器プラットフォームを開発・提供するイタリアのArduinoの買収に合意したと発表した。この買収により、Arduinoの3,300万人を超える開発者コミュニティが、Qualcommの先進的なAI技術やプロセッサへのアクセスを得ることになる。買収額は非公開であり、取引の完了には規制当局の承認など、一定の条件を満たす必要がある。

Arduinoは2005年にイタリアで設立され、誰でも簡単に電子機器を自作できる環境を提供してきた。学生や教育者、ホビイスト、プロのエンジニアなど幅広い層に利用されており、同社の小型コンピュータボードはロボット製作やスマートホーム機器の開発など、さまざまなプロジェクトで活用されている。その最大の特徴は、ハードウェアとソフトウェアの設計情報を公開するオープンソース方針であり、誰でも自由に改良や応用が可能な点にある。

今回の買収は、Qualcommが進める開発者コミュニティへのアクセス拡大戦略の一環とみられる。Qualcommは、買収後もArduinoブランドや開発ツール、理念の独立性を維持する方針を明らかにしている。Arduinoも引き続き、複数の半導体メーカーのマイコンやプロセッサをサポートする予定である。

買収発表と同時に、Arduinoは新しいシングルボードコンピュータ「Arduino UNO Q」を発表した。価格は44ドル(RAM: 2GB LPDDR4/ストレージ: 16GB eMMC)。

UNO Qは「デュアルブレイン(二つの頭脳)」アーキテクチャを特徴としており、Linux Debianを実行可能なQualcommの「Dragonwing QRB2210」プロセッサと、リアルタイム制御に優れた「STM32U585」マイコンを搭載する。これにより、高性能なAI処理と精密な制御を同時に実現できる。たとえば、カメラやマイクから取得したデータをもとに環境を認識し、リアルタイムにAIが判断・反応するアプリケーションの開発が可能となる。スマートホームデバイスから産業用オートメーションまで、幅広い用途が想定されている。

新しい統合開発環境「Arduino App Lab」も導入される。これは、リアルタイムOS、Linux、Python、AIツールを単一のインターフェースで統合した開発環境である。従来は別々のツールで行っていた開発作業をシームレスにつなぐことで、開発効率を大幅に向上させることを目指す。

App Labには、すぐに利用できるArduino AppsやBricksが用意されており、初心者でも容易に開発を始められる。また、Edge Impulseプラットフォームとの統合により、物体検出や異常検知、音声認識などのAIモデルを実データで構築・最適化できるようになっている。