◆消費電力測定(グラフ228~236)

最後に消費電力測定。前回同様SandraのDhrystone/Whetstone(グラフ228)、CineBench R24のMulti Cores(グラフ229)とSingle Core(グラフ230)、TMPGEncでの4 Streamエンコード(グラフ231)、GeekBench MLの実行(グラフ232)、3DMark SteelNomad Light(グラフ233)とMetro Exodusの2K(グラフ234)という7つのデータと、この7つのテストにおける消費電力の平均値(グラフ235)、及び待機時との消費電力差(グラフ236)である。

  • グラフ228

  • グラフ229

  • グラフ230

  • グラフ231

  • グラフ232

  • グラフ233

  • グラフ234

  • グラフ235

  • グラフ236

多分グラフ236で比較してもらうのが一番判りやすいと思うが、Ryzen 9000シリーズの省電力ぶりは群をぬいている。先にRyzen 5/Ryzen 7はTDP低めにして効率を改善しているが、Ryzen 9も同様に思えるという話をしたが、実際ほぼ全てのケースでRyzen 9 9950XはRyzen 9 7950Xを下回る消費電力になっている(例外がMetroで、0.3Wほど多かった)。勿論Ryzen 5/7に比べれば、そもそもTDP枠が大きい分絶対的な消費電力は増えているのだが、例えば170W枠のRyzen 9 9900Xが実際にはCore i5-14600Kと同等だったりする(GeekBenchなどRyzen 9 9900Xの方が低い)事を考えると、こうしたハイエンド向けであっても性能/消費電力比に振っているのは明白である。これに関してはSandraの所の冒頭でも書いたが、もっと性能を欲しければRyzen Masterなり何なりでOC動作を掛ければもっと性能は上がるだろう。昨今のIntelのRaptor Lakeのトラブルがまだ解決していない事を鑑みるに、こういう節度のある態度は筆者としては好感が持てる。

この性能/消費電力比に関しては、もう少しデータを取ってみた。表2がCineBench R24のMulti Core動作、表3が同じくSingle Core動作、表4がDhrystone、表5がWhetstone、そして表6がTMPGEnc Video Mastering Worksの4 Streamエンコードである。全体的に最高の効率を叩き出しているのがRyzen 7 9700Xで、これにRyzen 7 7800X3Dが続き、次いでRyzen 7 9600X、Ryzen 9 9900Xの順で並び、Ryzen 9 9950Xはその次であるのだが、それでもRyzen 9 7950Xよりずっと良い効率を叩き出している(Core i9-14900Kはお話にもならない)という辺りが、Ryzen 9000シリーズの真骨頂であると言えよう。

■表2
CineBench R24 Mutli Cores Score 実効消費電力差(W) 効率(Score/W)
Ryzen 5 7600X 879 137.2 6.4
Ryzen 5 9600X 918 80.5 11.4
Core i5-14600K 1185 180.9 6.6
Ryzen 7 7800X3D 1109 89.8 12.3
Ryzen 7 9700X 1096 75.1 14.6
Ryzen 9 7950X 2084 249.0 8.4
Ryzen 9 9900X 1762 167.6 10.5
Ryzen 9 9950X 2196 228.4 9.6
Core i9-14900K 2084 271.6 7.7
■表3
CineBench R24 Single Cores Score 実効消費電力差(W) 効率(Score/W)
Ryzen 5 7600X 118 45.2 2.6
Ryzen 5 9600X 133 35.0 3.8
Core i5-14600K 121 49.5 2.4
Ryzen 7 7800X3D 112 23.8 4.7
Ryzen 7 9700X 134 28.1 4.8
Ryzen 9 7950X 121 58.6 2.1
Ryzen 9 9900X 136 47.3 2.9
Ryzen 9 9950X 138 49.2 2.8
Core i9-14900K 136 61.5 2.2
■表4
Dhrystone 性能(GIPS) 実効消費電力差(W) 効率(GIPS/W)
Ryzen 5 7600X 458.35 129.3 3.54
Ryzen 5 9600X 448.91 78.6 5.71
Core i5-14600K 636.07 174.7 3.64
Ryzen 7 7800X3D 533.09 81.6 6.53
Ryzen 7 9700X 524.53 70.9 7.40
Ryzen 9 7950X 1170.00 233.3 5.02
Ryzen 9 9900X 902.54 163.8 5.51
Ryzen 9 9950X 1150.00 216.1 5.32
Core i9-14900K 1000.00 267.3 3.74
■表5
Whetstone 性能(GFLOPS) 実効消費電力差(W) 効率(GFLOPS/W)
Ryzen 5 7600X 261.47 127.4 2.05
Ryzen 5 9600X 257.00 77.8 3.30
Core i5-14600K 395.80 162.2 2.44
Ryzen 7 7800X3D 318.20 76.1 4.18
Ryzen 7 9700X 311.77 70.6 4.42
Ryzen 9 7950X 684.13 233.0 2.94
Ryzen 9 9900X 521.12 162.3 3.21
Ryzen 9 9950X 679.43 220.2 3.09
Core i9-14900K 674.70 248.3 2.72
■表6
TMPGEnc Video Mastering Works 7 性能(fps) 実効消費電力差(W) 効率(fps/W)
Ryzen 5 7600X 14.6 152.3 0.096
Ryzen 5 9600X 15.3 88.7 0.172
Core i5-14600K 16.9 190.8 0.089
Ryzen 7 7800X3D 17.1 92.9 0.184
Ryzen 7 9700X 17.5 84.4 0.207
Ryzen 9 7950X 32.1 271.4 0.118
Ryzen 9 9900X 27.7 177.8 0.156
Ryzen 9 9950X 34.2 241.6 0.142
Core i9-14900K 28.9 286.8 0.101

考察

長々と考察してきたが、今回一通りベンチをやって思ったのは、Zen 5はまだ完成していないということだ。今回のZen 5のフロントエンドは、今後数世代の基本になるだろう。その一方でバックエンドは明らかにまだフロントエンドに見合うだけの実行ユニットが足りてないし、もっと足りてないのがIoDである。現在のZen 5はIoDがぼちぼちボトルネックになりつつある。その意味では、次のZen 6とかZen 7はもっと楽しみである。製造プロセスはTSMCのN4で、これはN5の派生型というかそう大きな違いはないが、アーキテクチャの改良だけでここまで性能を上げて来たのだから、立派の一言に尽きる。

ネックで言えば、やっぱり3D V-Cacheは偉大な技術であり、今回もゲームに関してRyzen 9000シリーズはRyzen 7 7800X3Dに及ばなかった。実は某先生に「俺今Ryzen 9 7950X3D使ってるんだけど、Ryzen 9000シリーズのUpgradeどう思う?」と言われて、流石に悩んだ。確かに今Ryzen 9 7950X3Dを使ってるユーザーにRyzen 9 9950Xは勧めにくい。いやRyzen 7 7800X3Dユーザーにも悩ましいくらいなのだ。そういう意味でも、早めに3D V-Cache搭載のRyzen 9000シリーズの発表をお願いしたいところである。

ところで何時もの様にまだ日本での発売価格が発表されていないのだが

米国価格 日本価格(実売) 換算レート
Ryzen 5 9600X $279.00 \54,800 \196.4/$
Ryzen 7 9700X $359.00 \70,800 \197.2/$

となっており、おおむね\196.5/$前後と推定すると

米国価格 日本価格(推定) 換算レート
Ryzen 9 9900X $499.00 \98,000 \196.4/$
Ryzen 9 9950X $649.00 \127,600 \196.6/$

というあたりになるのではないかと思う。ちなみに8月12日における日本のAmazonでの価格は

・Ryzen 9 7900X(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BF52XLJW/) \81,617
・Ryzen 9 7900X3D(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BTRRNK7T/) \79,800
・Ryzen 9 7950X(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BF5BBBXS/) \107,879
・Ryzen 9 7950X3D(https://www.amazon.co.jp/dp/B0BXJ44R21/) \115,960

と、これまた絶妙な価格である。とりあえずゲームをメインにするのであれば、必ずしもRyzen 9000シリーズは必要なく、Ryzen 7000シリーズの3D V-Cacheモデルを選んだ方が短期的には幸せだろう(長期的にはまた話が違うが)。ただ3D V-Cacheモデルはゲーム以外はやや性能が低め、というのは今回も示した通りであり、ゲーム以外でピーク性能を求めるユーザーはRyzen 9 9900X/9950Xを選ぶのが良いだろうし、性能/消費電力のバランスを求めるならRyzen 7 9700Xがおすすめである。

追記:日本国内での価格と発売日が発表されました。
https://news.mynavi.jp/article/20240814-3005358/
価格はRyzen 9 9950Xが119,800円、Ryzen 9 9900Xが88,800円。

まぁ何にせよ、このRyzenは随分魅力ある製品に仕立てあがった、というのが素朴な感想である。IntelはArrow Lakeでこれを打ち破る必要があるのだが、消費電力と性能のバランスの良さも強力であるし、なかなかハードな競争になるのではないかと思われる。