パナソニックの炊飯器といえば「おどり炊き」シリーズですが、最上位モデルが「ビストロ」シリーズへと一新されます。9月に発売予定の新しいフラッグシップモデルは、可変圧力IHジャー炊飯器「ビストロ」Vシリーズ(以下、ビストロVシリーズ)です。

デザインも機能も従来と大きく変わる新製品、プレス向けの発表会で実機をチェックするとともに、炊いたごはんも試食してきました。価格はオープンで、推定市場価格は5.5合炊きのSR-V10BAが99,000円前後、1升炊きのSR-V18BAが104,000円前後です。なお、おどり炊きというシリーズ名も、ビストロではない炊飯器のシリーズとして継続されます。

  • 5.5合タイプ可変圧力IHジャー炊飯器ビストロ「SR-V10BA」。5.5合炊きも1升炊きも、カラーはブラックとライトグレージュの2色

こだわりの調理家電だけをラインナップする「ビストロ」シリーズ

「ビストロ」シリーズは、パナソニックの調理家電群のなかでも「味」「技術」「デザイン」にこだわったプレミアムモデルだけに冠される名前です。現在はオーブンレンジ、自動圧力調理鍋、ホームベーカリー、トースターの4製品をラインナップしていますが、炊飯器のビストロVシリーズが加わりました。

  • ビストロシリーズの調理家電。左から、ホームベーカリー(SD-MDX4)、スチームオーブンレンジ(NE-UBS10A)、自動調理鍋(オートクッカー NF-AC1000)、オーブントースター(NT-D700)。そして今回の炊飯器

  • ビストロVシリーズの本体は丸形でシンプルなものに。同じビストロシリーズの調理鍋(オートクッカー)に近いデザインです。5.5合炊きの本体サイズは幅28.5×奥行き30.1×高さ23.0cm、重さは6.3kg

もちろん、炊飯器なので一番のこだわりは「ごはんの味」。炊飯器で「最高のごはん」を炊くのには多くの難関があり、各社が工夫を凝らしている部分です。

お米の状態を見分けて約9,600通りの炊飯プログラムを自動で使い分け

炊飯器で炊くごはん、安定した美味しさを常に再現することが難しい理由はいくつかあります。

ひとつは生米の含水量の違い。お米は収穫時期や銘柄、産地、精米時期、保存方法など、さまざまな要因によって生米の水分量に違いが出てきます。さらに、お釜に入れる水の量やその日の気温など、炊飯にはお米以外にも多くの要素が関わるのです。

白いごはんを重視する料亭では、こうした複数の要素を総合的に判断して、お米の浸水時間や炊くときの火力を調整するそう。今回の発表会には、ミシュランガイド東京のスタート以来、15年連続で三つ星を獲得し続けている日本料理「かんだ」の神田裕行氏がゲストとして来場。自らお米を作るほど「ごはん」にこだわりのある神田氏は、「お米の状態やその日の気温など、職人はすべてを考慮して『美味しいごはん』を炊きますが、あまりにも感覚的なものなので人に教えるのは難しい」と、炊飯の難しさを語りました。

  • 日本料理「かんだ」の神田裕行氏

ビストロVシリーズはこの難しい「職人の感覚」を、3種類のセンサーと新しい加熱制御で再現。センサーには「リアルタイム圧力センサー」「沸騰検知センサー」「釜底温度センサー」を内蔵して、釜内の状況を解析します。たとえば、圧力センサーで「減圧スピード」を計測することで、炊飯するお米の状態(含水量や吸水速度)までわかるそうです。

  • 3つのセンサーによって、釜の内部やお米の状態を詳しく調べて、火力と圧力を適切に制御します

  • 会場に展示されていたビストロVシリーズの分解モデル。フタ内部にある手前の白いパーツがリアルタイム圧力センサー

そして、ビストロVシリーズで最大の特徴ともいえるのは、センサーで見分けたお米の状態などにあわせて、最適な火力と圧力をコントロールする「ビストロ匠技AI」の存在です。炊飯時の火加減や圧力を制御することで、なんと約9,600通りの炊き方から自動的に最適な炊飯方法を選択してくれます。

  • お米の水分量にあわせて、炊飯方法を変えるビストロVシリーズの炊飯プロファイル。たとえば、新米など水分量が多い場合は、後半の加圧ピークを控えめにします

パナソニックは以前から、プレミアム炊飯器に圧力機能を採用。炊飯時の沸騰工程では、3回の急減圧を行っていました(すべてのモデルではありません)。今回のビストロVシリーズは加減圧回数を4回に増やすことで、よりふっくらとしたごはんの炊き上がりを目指しています。追い炊き工程では高温をキープし、「存在感のある粒立ちのよさ」を追求しているそうです。この2つを実現するために導入されたというキモが、新しい「加圧熱風ポンプ」という存在。

炊飯工程で加減圧回数を増やすには、「狙ったタイミングで十分な圧力を確保する」必要があります。一般的な炊飯器の圧力加熱は、釜内の水分を沸騰させて大量の水蒸気を閉じ込める仕組みですが、とくに炊飯工程後半の水分量が少ない状態だと、圧力が高まるまでに時間がかかります。狙ったタイミングでの加圧が難しくなるわけです。

そこでビストロVシリーズは、外気を取り込んでヒーターで加熱。熱風を釜内に送り込むことによって、任意のタイミングで加圧できるようにしました(体積を一定とすると、温度と圧力は比例します)。これが「加圧熱風ポンプ」です。また、「存在感ある粒立ちのよいごはん」を実現するために、追い炊き工程で高温をキープするためにも「加圧熱風ポンプ」を利用しています。

【動画】加圧熱風ポンプのデモンストレーション。外気を取り込み、リズミカルに蒸気が吹き出しています。沸騰と違って、任意に空気量(≒圧力)をコントロール可能(音声が流れます。ご注意ください)

おかずがなくても美味しい「筋肉質」なごはん

ほかにも、ビストロVシリーズは「ごはんの美味しさ」を追求する工夫が盛りだくさん。実際に試食してみて驚いたのは食感です。これまでパナソニックのフラッグシップ炊飯器は、「ふっくらモチモチ」の食感が特徴的でした。新しいビストロVシリーズは、一粒の中までしっかり柔らかいながらも、キュッと引き締まった弾力ある粒立ちです。日本料理「かんだ」の神田裕行氏は、ビストロVシリーズのごはんを「必要以上に膨らみすぎていない『筋肉質』なごはん」と表現していました。

  • ビストロVシリーズで炊き上がったごはんの様子。写真ではわかりにくいですが、しっかりカニ穴が開き、ごはんは一粒一粒がさまざまな方向を向いていて存在感があります。いわゆる「粒が立っている」状態。なお、ごはんを炊いたときにできるカニ穴は、十分な沸騰で釜内に対流が発生して、お米にまんべんなく熱が伝わっていることを表し、美味しく炊き上がった目安とされています。パナソニックによると、釜側面に「おねば」が付いているのも美味しさの証しなんだとか

  • 会場では、ミシュランシェフの神田氏が一膳一膳ごはんをついでくれました。これは贅沢!

  • マイナビニュース +Digitalの林編集長が実食。「ごはんの味をしっかり感じられます。よく噛んで味わって食べたいごはんです。好みに合わせて、炊き上がりの『やわらかめ』『かため』を調整するとなおよし」(林)

  • 口に運ぶとハリのある粒の存在感。かみしめるたびに甘みが追いかけてきて、ごはんだけで美味しく食べられました。会場ではコシヒカリが提供されましたが、日ごろ食べているごはんよりも雑味がなくて澄んだ味に感じました

最初の試食は標準の「ビストロ炊き」コースで炊いたごはん。ビストロVシリーズは、この標準コース以外にも、米独自の風味を際立たせる73銘柄の銘柄炊きモードを搭載。会場では、「いちほまれ」と「金のいぶき」を銘柄炊きで炊いたごはんも試食できました。

パナソニックいわく、日々のごはんは標準のビストロ炊きコースがおすすめ。お米の銘柄を変えたときや、お米(銘柄)の個性をしっかり味わいたいときに、銘柄炊きモードを使うとよいとのことでした。

  • 左が福井県の「いちほまれ」、右が宮城県の「金のいぶき」。いちほまれはシャキッとした爽やかな味です。金のいぶきはモチッとした甘みの強い味。同じように炊飯しても、炊き上がりが驚くほど違います

  • タッチパネル操作で、73銘柄から目的のお米をすんなりと見つけられました

パナソニックの炊飯器で最上位モデルが「おどり炊き」から「ビストロ」に変わるとのことで、とても期待して発表会に参加しました。実際に新製品のビストロVシリーズを触ったところ、従来モデルのよいところは残しつつも、デザインや機能が大きく進化。ビストロシリーズの新顔にふさわしい炊飯器になったと思います。

とくに驚いたのは味の変化。これまでパナソニックの最上位炊飯器は、標準設定ではモチモチふっくらとした食感と、甘みを強く感じさせる炊飯が得意でした。一方で今回のビストロVシリーズは、どちらかといえばシャッキリと弾力ある食感。甘みを強調しすぎないバランスのよいスッキリした味という印象です。消費者や市場のトレンドもあると思いますが、かなり大胆に味の方向性を変えてきました。

また、もうひとつの驚きは価格。大手メーカー製の炊飯器は、最上位モデルだと13万円以上の製品も珍しくありません。ビストロVシリーズは最上位モデルながら、推定市場価格が99,000円前後(5.5合モデル)と10万円を切る価格帯です。もちろん金額的には安くありませんが、価格面も魅力のひとつといえそうです。