量産適用の最大の課題はEUVの入手と習熟か?

ただ、IBMの2nmプロセスをAlbanyで学んだからといって、それがそのままRupidusの量産プロセスとして適用できるわけではない。

最大の課題は、IBM、というよりもAlbany NanoTech Complexが含まれるSUNY Polytechnic Instituteに設置されているEUV露光装置がADT(Alpha Demo Tool、最初期のEUV試作機)第3世代機の「NXE:3300B」だという点だろう(この2機種以外の最新世代などのEUV露光装置を導入したという話は少なくとも公にはされていない)。

一方で2nmプロセス以降の微細ロジックを量産適用させ、かつ小池氏が標ぼうする「世界で一番早いサイクルタイムを実現する会社」となるためには、少なくとも最新世代のEUVを使いこなす必要がある(TSMCは2nmでは次世代の高NA(NA=0.55)EUVを量産適用させない見通し)。IBMが使えるEUVと、実際の量産に必要とされるEUVに技術のギャップがあれば、そこを埋める必要が出てくる。

もう一方の先端プロセス開発で世界最先端を走るimecもRapidusとパートナーシップを交わしている。そのimecはASMLとのパートナーシップの元、最新のEUV露光装置を導入し、それを活用した研究開発を進めており、Rupidusがimecとの協業を踏まえ、そちらで最新世代のEUVに関するノウハウを蓄積させ、そうした技術ギャップを埋めようとする可能性はない話ではないだろう。

しかし、もう1つの問題はいつRapidusがEUVを入手できるかである。2022年のASMLのEUV露光装置の出荷見通しは55台。2023年は60台以上、2025年までに約90台へと順次生産能力が引き上げられる予定だが、プロセスの微細化に伴い、EUVを適用するレイヤも増加していくため、これまで同様、各社が争奪戦を繰り広げることにはおそらく変わりがない。なかなか入手ができなかったSamsungは2020年秋にトップがASMLに直談判に赴き、2021年に15台の導入に成功したとも言われている。Rapidusは立ち上がりとともに、2021年度補正予算で確保されていた700億円が政府から支援され、その資金を元に導入に着手するようだが、実際にそれが入手できるのは、しばらく後のこととなる。よしんば量産となれば、相応の台数が必要になるわけで、そうした意味でも2020年代後半というのは、そうした工場建設から必要となる製造装置の購入、導入までのスケジュールを踏まえれば、実際のところギリギリの線といえる可能性もある。

2nmプロセスで何を作るのか?

Rupidusが2nmプロセスでの量産を目指すという話が公となって以降、多くの人の間で2nmプロセスで何を作るのか? といったことを話題にするようになった。

前提として、Rapidusに出資したトヨタ自動車やデンソー、NTT、そしてIBMなどが自社が必要とする半導体を製造委託するということが想定されるが、それ以上に重要となるのは、現在、TSMCやSamsungといった先端プロセスを提供しているファウンドリに製造委託を行っているメーカー、例えばAppleやQualcomm、AMD、NVIDIA、MediaTekといったファブレス各社を取り込めるかである。こうした先端プロセスを活用してきたファブレス各社は、先端プロセスが生み出す付加価値を十分理解しており、2nmプロセス時代になっても、そうした流れに大きな変化はないと思われるためだ。

プロセスの微細化と似たような話でストレージ容量が増えて、そんなに何を記憶するのか、といった議論が良く話題になるが、NANDはその都度(価格が下がるということもあるが)、新たなアプリケーションが生み出されてきた。演算性能についても、そうして生み出される膨大なデータ量に対し、より高速かつ低消費電力で処理することが求められているし、スーパーコンピュータ(スパコン)が求める性能も留まるところを知らない。演算能力が向上したからこそ、リアルタイムでAI処理が可能になってきたし、複雑な分子の動きを長い時間シミュレーションすることができるようになった。こうした過去からの流れを振り返れば、誰かしらが新しい用途を見つけて、それを新たなビジネスとして市場を起こしてきた流れがある。2nmプロセスであっても、その流れそのものは変わらない。そのため、重要となるのは、そうしたユーザー企業が求める性能の半導体を作れる技術があるということを示すこととなる。

また、そうした新たな市場を生み出すためにもファブレス半導体メーカーの育成と、設計・開発環境の整備も重要になってくる。かつてIDMで設計も製造も一気通貫で担っていた時代であれば、親会社の最終製品に搭載される、必要とされる機能を搭載した半導体を作る、といったようにニーズが明確化されていた。しかし、ファウンドリとファブレスという水平分業に業態が分かれた現在では、単に製造能力だけがあっても意味がなく、実際にその製造能力を見込んで、自分たちの価値を高める製品の製造を委託する側の存在が不可欠となってくる。技術が良くてもそれを認めて買ってくれる顧客がいなければビジネスは成り立たない。

小池氏は、Rapidusのビジネスとして3つのポイントを挙げている。1つ目は人材の育成、2つ目は最終市場や製品を意識したプロセスの提供体制、そして3つ目が半導体によって実現するグリーントランスフォーメーション(GX)である。今から先端半導体の開発を始めて、それをキャッチアップすることが難しいことは長年、半導体に携わってきた小池氏も東氏も百も承知だろう。しかし、小池氏は日立製作所とUMCの合弁ファウンドリであったトレセンティテクノロジーズ(現ルネサス エレクトロニクスの那珂工場 N3ライン)時代からスピードを意識した生産の実現に向けた取り組みを行ってきた経験を有しており、今に至るまでファウンドリに対する相当な熱意を持ち続けてきた人物である。そうした意味では、小池氏の強いリーダーシップの下、一丸となって量産プロセスの開発を進めていくしか、この難題を乗り越えることはできないとも言える。果たして、日本の地で再び先端ロジックを製造できる時代がくるのか。その実現に向けて一歩を踏み出したばかりのRapidusの今後の動きに注目である。