理化学研究所(理研)と広島大学は11月25日、天の川銀河内にあるブラックホールと恒星の連星系「はくちょう座X-1」の観測から、ブラックホール近傍から放射されるX線がわずかに偏光していることを発見し、ブラックホール近傍にあるコロナ(高温プラズマ)の位置と形状を明らかにしたと発表した。
同成果は、理研 開拓研究本部 玉川高エネルギー宇宙物理研究室の北口貴雄研究員、玉川徹主任研究員、広島大大学院 先進理工系科学研究科のジャン・シシュアン大学院生、同・大学 宇宙科学センターの水野恒史准教授ら100名以上の研究者が参加する国際共同研究チームによるもの。詳細は、米科学雑誌「Science」に掲載された。
ブラックホール連星系とは、ブラックホールと恒星が共通重心を回る連星系であり、ブラックホールが恒星の物質を強い重力で奪って激しく引き寄せる結果、ブラックホールの周囲には100万℃程度の高温プラズマからなる薄い「円盤」が形成され、その円盤が強力な高エネルギーX線を放射することが知られている。
また高エネルギーX線観測から、ブラックホールの周囲には約10億℃にも達する高温プラズマであるコロナの存在も示唆されている。しかし、コロナがどのような形状で、ブラックホール近傍のどこに位置しているのかは、これまでのX線望遠鏡では解像度が不足しており、分離して観測することができていなかったという。
多数のX線の電場が特定の同じ方向を向いている場合、「直線的に偏光している」と表現される。このような偏光はX線が物質を通過し、ある確率で反射するときに生じることから、偏光の強さを測定すると、観測者から見たX線の放射源と反射物質の位置関係がわかる。
このX線偏光の観測に特化した宇宙望遠鏡が、2021年12月8日に打ち上げられた、NASAとイタリア宇宙機関が共同開発した「IXPE衛星」で、理研を含む日本の研究機関も主要観測装置の一部を提供しているのと同時にX線偏光観測とデータ解析に参加している。
そして研究チームは今回、このIXPE衛星を用いて、全天においてX線で最も明るく輝く天体の1つとして知られ、また史上初めてブラックホールを含む連星系として確認された、はくちょう座X-1の観測を行うことにしたという。はくちょう座X-1は、その名称の通りにはくちょう座の方向、地球から約7000光年の位置にあり、太陽質量の21倍のブラックホールと太陽質量の41倍の青色超巨星の組み合わせからなる。観測は、2022年5月15日から21日まで実施された。