モトローラ・モビリティ・ジャパンから9月15日に発売されたAndroidスマートフォン「moto g32」を試用しました。28,800円というお手頃価格のSIMフリーモデルです。

モトローラの日本向け機種は、2022年に入ってからすでに4機種目。価格帯の近い上位機種・下位機種に挟まれた立ち位置で、第一印象ではややつかみどころがないようにも感じましたが、実際に使ってみると先に発売された「moto g52j 5G」とはまた違った魅力が見えてきました。

  • モトローラのSIMフリースマホ「moto g32」を試す

    モトローラのSIMフリースマホ「moto g32」を試す

「moto e32s」や「moto g52j 5G」との違いは?

これまでに登場したモトローラの2022年モデルのラインナップを整理しておくと、まず「motorola edge30 PRO」というハイエンドモデルが久しぶりに日本市場に投入され、タイミングを同じくして同社初のIP68防水/おサイフケータイ同時対応モデル「moto g52j 5G」も発売されました。その後、約2万円のエントリーモデル「moto e32s」も加わり、ハイエンドからローエンドまでバランス良くカバーし終えたように見えました。

ところが、一足遅れて9月に入ってから今回取り上げる「moto g32」も増えました。すでに本格的な日本仕様で作り込まれたmoto g52j 5Gがあるところに同じミドルレンジのmoto gファミリーからもう1機種、それもあまりローカライズされていない機種をあえて投入する意味とは一体……?と最初は首をかしげましたが、ひとまず性能を見比べてみましょう。

moto e32s moto g32 moto g52j 5G
OS Android 12 Android 12 Android 11
SoC Helio G37 Snapdragon 680 Snapdragon 695
メモリ(RAM) 4GB 4GB 6GB
ストレージ(ROM) 64GB 128GB 128GB
ディスプレイ 6.5インチHD+ 6.5インチフルHD+ 6.8インチフルHD+
アウトカメラ 約1,600万画素 F2.2(広角)+約200万画素 F2.4(マクロ) 約5,000万画素 F1.8(広角)+約800万画素 F2.2(超広角)+約200万画素 F2.4(マクロ) 約5,000万画素 F1.8(広角)+約800万画素 F2.2(超広角)+約200万画素 F2.4(マクロ)
インカメラ 約800万画素 F2.0 約1,600万画素 F2.4 約1,300万画素 F2.2
通信方式 4G 4G 5G
SIM nanoSIM×2 nanoSIM×2 nanoSIM/eSIM
バッテリー 5,000mAh 5,000mAh 5,000mAh
急速充電 15W 30W 15W
防水/防塵 IPX2/IP5X IPX2/IP5X IPX8/IP6X
生体認証 指紋認証/顔認証 指紋認証/顔認証 指紋認証/顔認証
FeliCa対応 × ×
サイズ 約164.0×74.9×8.5mm 約161.78×73.84×8.49mm 約171.0×76.8×9.1mm
重量 約185g 約184g 約206g
直販価格 21,800円 28,800円 39,800円

なるほど、価格的にも性能的にもちょうどmoto e32sとmoto g52j 5Gの中間に収まる機種のようです。

最近は世界情勢の影響による物価の高騰、そして国内の携帯電話市場の変化による割引規制などの影響もあってミドルレンジの機種が売れ筋になってきています。一口にミドルレンジとは言っても、どこまでの性能・機能を求めるかは人それぞれですから、売れ筋ゾーンの中でもさらに細分化して2万円級、3万円級、4万円級ときめ細かな選択肢を用意して選手層の厚いラインナップを構築しているのでしょう。

  • moto e32s(左)やmoto g52j 5G(右)とあわせて、手に取りやすい価格帯で幅広い選択肢が用意される

    moto e32s(左)やmoto g52j 5G(右)とあわせて、手に取りやすい価格帯で幅広い選択肢が用意される

下位モデルのmoto e32sとmoto g32のスペックを見比べると、SoCやディスプレイ、カメラなどほぼ全面的にmoto g32が勝っており、さすがに価格相応の差があります。一方、上位モデルのmoto g52j 5Gと比べてみると、処理性能にこそ差がありますが、見ようによっては案外moto g32の方が良いかも?と思える部分もあるのが面白いところです。

5G対応やメモリ(RAM)容量、そして防水やFeliCa対応といった点ではmoto g52j 5Gにかないませんが、ステレオスピーカーに物理デュアルSIM、30W急速充電など、ひそかにmoto g32が上回っている部分もあるのです。また、IP68のフルスペックの防水/防塵に対応しないとは言っても、モトローラのスマートフォンは撥水コーティングを施している機種が多く、本機種もちょっとした雨に降られても問題ない程度(IPX2)の防水性はあります。

操作性重視の人や動画を観る時間が多い人におすすめ

まず端末を手に取って感じたことは、moto g52j 5gよりも一回りスリムで、手が小さめの方でも馴染みやすそうです。本体幅76.8mm/重さ206gと大柄なmoto g52j 5Gに対し、moto g32は幅73.84/重さ184gということで、手に取った際の感覚は大きく異なります。また数値上の違い以上に、moto g32は両サイドが深く絞り込まれていて薄く感じますし、左右方向に限れば3万円クラスの機種としてはベゼル(画面の余白)が狭いことも扱いやすいサイズだと感じた一因でしょう。

  • 6.5インチのフルHD液晶を搭載し、本体サイズは約161.78×73.84×8.49mm/約184g

    6.5インチのフルHD液晶を搭載し、本体サイズは約161.78×73.84×8.49mm/約184g

  • ボディカラーはミネラルグレイとサテンシルバーの2色。今回はサテンシルバーを試用した

    ボディカラーはミネラルグレイとサテンシルバーの2色。今回はサテンシルバーを試用した

ディスプレイは6.8インチフルHD+/120HzのIPS液晶から6.5インチフルHD/90Hz液晶へとややダウングレードされているものの、解像度を維持したまま縮小されているため405ppiの高密度となっており、十分美麗な表示です。Dolby Atmos対応のステレオスピーカーが搭載されているというアドバンテージも含めると、トータルの映像体験としては、スマートフォンで動画を観る機会が多い方がより楽しめるのはmoto g32の方かもしれません。

性能面では、現時点の日本における5Gの展開状況では、特にミドルクラスの端末を低料金のプランと組み合わせて使う場合には実用上どうしても欲しいという場面はあまり考えられません。moto g52j 5Gに搭載される「Snapdragon 695 5G」とmoto g32の「Snapdragon 680 4G」の処理性能に注目すると、CPUのマルチコア性能では15%ダウン程度の差ですが、グラフィック性能は差が大きく、軽めのタイトルであってもゲームを遊びたい人は差額を選ばず上位機種を選択した方が良いと思われます。

  • Geekbench 5のベンチマークスコア

    Geekbench 5のベンチマークスコア。参考までに、moto e32sはシングルコア166点/マルチコア966点、moto g52j 5Gはシングルコア670点/マルチコア1,895点だった(いずれも筆者測定)

  • 3DMark(Wild Life)のベンチマークスコア

    3DMark(Wild Life)のベンチマークスコア。グラフィック性能を測る本アプリでは、上位機種のmoto g52j 5G(1,214点)と差が開いた

  • 3DMark(Sling Shot)のベンチマークスコア

    3DMark(Sling Shot)のベンチマークスコア。下位機種のmoto e32sでは823点だった

アウトカメラの仕様は両機種で変わらず、約5,000万画素 F1.8(ピクセルサイズ0.64μm/クアッドピクセル/PDAF対応)の広角メインカメラ、約800万画素 F2.2(ピクセルサイズ1.12μm)の118度超広角/深度兼用カメラ、約200万画素 F2.4(ピクセルサイズ1.75μm)のマクロカメラという3眼構成。

両方使った上で実際の写りに関してもほぼ変わらない印象を受けました。夜景や暗めの室内などの高い性能が要求されるシーンでは限界を感じるものの、風景や料理などをとっさに記録するには十分な仕上がりです。同価格帯の競合機種と比べてどうかという観点では、3万円級のmoto g32であれば納得できるレベルです。

  • 日中・屋外でのカメラ作例

    日中・屋外でのカメラ作例

  • 夜景(イルミネーション)の作例

    夜景(イルミネーション)の作例

細かい点ですが、nanoSIM×1枚とeSIMの組み合わせでデュアルSIMに対応しているmoto g52jに対し、moto g32はnanoSIM×2枚でのDSDV対応という点も個人的には歓迎したいところ。eSIMに注目が集まる影で物理SIMスロットを1枚に減らす例も出てきていますが、eSIMでは入れ替えのたびに再発行をすることになります。通信事業者によってはその再発行のためにチャットサポートに頼る必要があったり、また別の事業者ではセキュリティ強化のためにeSIM再発行時には旧端末が正常に動く(SMSを受信・表示できる)必要があったりと落とし穴も多く、まだまだ物理SIMが良いという人もいるのではないでしょうか。

また、5,000mAhの大容量バッテリーを搭載する機種ですから、急速充電が最大15Wから30Wに強化され、充電時間を短縮できることも見逃せないポイントです。ただし、この急速充電は「TurboPower」という独自規格で詳細が公表されておらず、別売の純正充電器が必要となるのは充電器の無駄を減らす風潮の中ではナンセンスでもあります。手持ちの一般的なUSB PD充電器でも急速充電中らしき表示を確認できましたが、TurboPower以外の汎用規格への対応状況は明言されておらず、もう少しオープンにしてもらいたいところです。

  • 他のモトローラ製スマートフォンと同様に、メーカー独自のカスタマイズは控えたクセの少ないユーザーインターフェースとなっている

    他のモトローラ製スマートフォンと同様に、メーカー独自のカスタマイズは控えたクセの少ないユーザーインターフェースとなっている

  • 特徴的なジェスチャー機能も、上位機種と比べると若干項目が減っているものの便利に使える

    特徴的なジェスチャー機能も、上位機種と比べると若干項目が減っているものの便利に使える

  • デュアルスピーカーを搭載し、Dolby Atmosによる音質強化も入る。動画コンテンツが身近になる中、重宝する機能だ

    デュアルスピーカーを搭載し、Dolby Atmosによる音質強化も入る。動画コンテンツが身近になる中、重宝する機能だ

求める機能によっては「g52j」より「g32」を選んだ方が満足できるかも

ハイエンドのmotorola edge30 PROからローエンドのmoto e32sまで一通り使ってみた上で評価すると、万人受けする機種は日本市場のニーズを汲んで作り込まれた「moto g52j 5G」でしょう。ただ、ニーズの高い機能とは言っても必ずしもFeliCaや防水対応が必須な人ばかりではありませんし、他の部分にステータスを振り直したもう一つの選択肢としてはmoto g32も魅力的な候補です。

交通系ICを日常的に使う人や軽めのゲームなら遊べるぐらいの多少の性能的余裕を求める人にはmoto g52j 5G、「スマホの用途は情報収集や連絡程度、価格もサイズも手頃な機種がいい」あるいは「スマホを使っている時間のほとんどはずっとYouTubeを見続けてしまう」などといった方にはmoto g32が適しているのではないでしょうか。

  • 日本のニーズに合わせた機能を盛り込んだmoto g52j 5Gが主力機種だが、1万円安いmoto g32も見どころは多い。扱いやすいサイズ感、ステレオスピーカー、30W急速充電などはあえてこちらを選びたくなるポイントだ

    日本のニーズに合わせた機能を盛り込んだmoto g52j 5Gが主力機種だが、1万円安いmoto g32も見どころは多い。扱いやすいサイズ感、ステレオスピーカー、30W急速充電などはあえてこちらを選びたくなるポイントだ

「moto g32」フォトギャラリー

  • モトローラ・モビリティ・ジャパンから9月15日に発売された「moto g32」。価格は28,800円

    モトローラ・モビリティ・ジャパンから9月15日に発売された「moto g32」。価格は28,800円

  • カラーはミネラルグレイとサテンシルバーの2色があり、写真の端末はサテンシルバー

    カラーはミネラルグレイとサテンシルバーの2色があり、写真の端末はサテンシルバー

  • 右側面には、上側から順に音量+/-、電源ボタンを配置。電源ボタンには指紋センサーが内蔵されている

    右側面には、上側から順に音量+/-、電源ボタンを配置。電源ボタンには指紋センサーが内蔵されている

  • 左側面にはSIMカードスロットを配置。2枚のnanoSIMが入り、DSDVにも対応する

    左側面にはSIMカードスロットを配置。2枚のnanoSIMが入り、DSDVにも対応する

  • 上部にはマイクのみ。側面のフレーム部分は樹脂製で、光沢を抑えた仕上げとなっている

    上部にはマイクのみ。側面のフレーム部分は樹脂製で、光沢を抑えた仕上げとなっている

  • 下部にはイヤホンジャック、USB Type-C端子、スピーカーが並ぶ。なお、反対側(上側)のスピーカーは受話口と兼用だ

    下部にはイヤホンジャック、USB Type-C端子、スピーカーが並ぶ。なお、反対側(上側)のスピーカーは受話口と兼用だ

  • 画面サイズは6.5インチ。低価格の端末としては、特に左右方向のベゼルが狭めに作られている

    画面サイズは6.5インチ。低価格の端末としては、特に左右方向のベゼルが狭めに作られている

  • 広角+超広角+マクロのトリプルカメラ。ボディは樹脂部分が多いが、カメラ周りの金属調のプレートが安っぽく見せないアクセントとして効いている

    広角+超広角+マクロのトリプルカメラ。ボディは樹脂部分が多いが、カメラ周りの金属調のプレートが安っぽく見せないアクセントとして効いている

  • TPU素材のクリアケースが付属する。やや青みがかった色合いで、経年劣化による黄ばみの進行が目立ちにくそうだ

    TPU素材のクリアケースが付属する。やや青みがかった色合いで、経年劣化による黄ばみの進行が目立ちにくそうだ

  • 同じく付属ケース。指紋認証をしやすいよう、電源ボタン周辺は滑らかに削られている。また、ケースを装着するとカメラ周りの突起はカバーされる

    同じく付属ケース。指紋認証をしやすいよう、電源ボタン周辺は滑らかに削られている。また、ケースを装着するとカメラ周りの突起はカバーされる