実験は、両端の量子ドットに電子が1つずつ閉じ込められ、それらの間の交換結合を評価することから始められた。その結果、900Hzという値が得られたという。この値は、量子ビットの操作速度と比較しても1000分の1以下であり、次近接の量子ドットでは、交換結合が無視できる大きさになっていることが確かめられたとするほか、この結果により、次近接の量子ドット以上に量子ビットを離せば、完全に独立な2つの量子ビットとして動作できることが判明したとする。
また、単一電子スピンシャトルの性能評価が行われたところ、シャトルの回数に対するスピン上向き確率の指数関数減衰から、シャトル1回当たりのスピン反転確率0.03%が得られたとするほか、位相についての評価から、シャトル1回当たりの位相コヒーレンスのロス0.4%が得られたとする。
これらの性能は、これまで隣接量子ドット間での電子スピンのシャトルで報告されている値よりも良く、多数の量子ドットを小さい誤りでシャトルし長距離接続を実現できる可能性が示されていると研究チームでは説明している。
加えて、量子ビット2が中央の量子ドットにある場合と右端の量子ドットにある場合について、左端の量子ビット1と量子ビット2に働く交換結合の違いが評価されたところ、隣接量子ビット間に最大10MHz程度の結合が得られたとのことで、このことからシャトルを介して交換結合をオン・オフできることが確かめられたとするほか、シャトルを用いた2量子ビット操作として制御位相操作を行い、その操作忠実度をランダム化ベンチマーク法で評価したところ、操作忠実度93%が得られたともしている。操作忠実度は、シャトルでの誤りではなく、操作中の位相緩和で制限されていると考えられるため、試料設計を含む操作条件の最適化によって実用的な99%以上まで操作忠実度を向上できると考えられると研究チームでは説明している。
なお、今回の実験では、原理検証のため、シャトル部分に1つの量子ドットが設置された結果、十分高いシャトル性能が得られたとしており、今後は2つの量子ビット間に多数の量子ドットを置いた、より実用的な長距離接続が可能になると期待できると研究チームでは見通しを示しているほか、量子ドット10個程度の距離1μmにおいて高い忠実度で量子ビットを結合できれば、配線問題などを現実的に解決できる可能性があるとしている。こうしたことから、今回の研究成果を踏まえ、近年の研究で少数の量子ビットでは高い性能が実証されているシリコン量子コンピュータにおいて、今後の最重要課題である大規模化に向けた研究開発が加速することが期待できるともしている。