大手食品加工メーカーの日本ハムが10月4日、「培養肉」の細胞を増殖させるために必要な「培養液」の主成分である動物の血液成分(血清)を、食品で代替することに成功したと発表した。安価かつ安定的に供給可能な培養液の作成につながり、将来的な培養肉の社会実装が前進することになる。

  • 日本ハム、食品成分から「培養肉」に成功 - 商用化とディストピア飯が加速

    培養液の主成分である動物の血清を食品で代替に成功。これにより「培養肉」商用化の道筋がかなり明るくなる

ここで言う「培養肉」は、ウシやニワトリなどの動物から少量の細胞を採取し、その細胞を「培養液」を使って増殖させて作る肉のことだ。従来の肉の代わりとなる代替肉の一種だ。

世界人口が年々増加し、それにあわせて食肉全体の需要も増加傾向にある。2030年ごろには、タンパク質の需要が供給を上回るとも言われている。同社は、この問題に対して、ウシやニワトリなどの動物から少量の細胞を採取し、その細胞を培養して作る培養肉が、動物性タンパク質を供給できる手法として期待されているとして、2019年より培養肉の研究開発を行ってきた。

培養肉を作るには、細胞の増殖をサポートする多くの成分が必要なため、ウシなどの動物由来の血液成分(血清)を主成分とする「培養液」が必要になる。しかし、この動物血清は動物の体から採取するため、高価で安定供給が困難という問題を抱えている。そこで、培養肉の商品化を目指すにあたり、動物由来の血清を含まない培養液の開発を行なったのだそう。

  • 実験用の小型培養装置を用いて、開発した培養液中でニワトリの細胞から4センチほどの培養肉も試作した

同社の中央研究所は、ウシおよび、ニワトリから採取した筋肉の細胞を、動物血清を含む血清添加群、動物血清を含まない血清未添加群、特定の食品成分を添加した培養群の3つのグループに分けてシャーレで培養。結果として血清未添加群では増殖がほとんど見られなかったのに対して、特定の食品を添加した培養群では、血清添加群と同等に細胞が増殖するのを確認したという。

  • 動物の種類によっても適切な食品成分は変わってくるとのこと

さらに、動物の種類によって細胞の増殖促進に適した食品が異なることを確認したそう。上記3つの培養液で、ウシの細胞は4日間、ニワトリの細胞は3日間培養を行ない、培養後の細胞数を血清添加群と、特定の食品成分を添加した培養群とで比較した。結果として、それぞれの血清添加群と、特定の食品成分を添加した培養群はほぼ同等に増殖したそうだ。ちなみに、記事執筆時点では、特許出願中のため、特定の食品成分に関する詳細な情報は明かされていない。

同社は、培養液のコストで大きな割合を占める動物血清を、安価かつ安定的で調達可能な食品に代替できることになり、将来的に培養肉の社会実装に向けて前進するものとなったと語っている。今後は、食品成分由来の培養液を用いた培養肉の実現に向けて技術を確立するとともに、培養スケールを拡大するために、培養肉の生産技術に関する研究開発を進めていくとしている。

オランダ・マーストリヒト大学のマルク・ポスト教授が、2013年に培養肉パティを使ったハンバーガーの試食会をロンドンで開催したことがある。その試食会で出された重量140グラムの培養肉パティの生産コストは25万ユーロ(日本円で約3,500万円)以上だったそうだ。そこから着実に培養肉分野は発展を続けていき2021年には、イスラエルの代替肉企業・Future Meat Technologies社がニワトリの細胞から作った培養肉を約113グラムあたりの7.5ドル(日本円で約1,000円)にまで生産コストの削減に成功したと発表していた。もう一息だが、いまだに社会にひろく流通する価格とは言えないだけに、今回の開発でどこまで生産コストを削減できるかが期待されるところ。

ネット上では、「こりゃすごい。選択肢が増えることはいいことだね」「食にこだわる日本人なら、世界に通用する培養肉が作れるかも!」との声が上がる一方、「オレがジジイになったら絶対本物の牛豚鶏食ったこと孫に自慢しよ」「そのうち一般人は本物の肉が食べられなくなって、こんなのしか食べられなくなるんだろうな」と、ちょっとディストピア飯を連想してしまう声も寄せられた。