その結果、基板温度がキーパラメータであることが見出されたとする。これにより、スパッタリング法を用いてガラスや単結晶シリコン上への低温成膜(約400℃)が可能となり、結晶中で高熱伝導な梯子面を基板に対して平行に堆積できるようになったとする。

また、石英ガラス基板の温度の調査を進めていた中で、350~450℃のとき、(0k00)面由来のピークのみが明瞭に現れることが確認されたという。X線の回折理論によれば、これはb軸配向、すなわち高熱伝導な梯子面が基板に対して平行に堆積していることを意味するとしているほか、透過型電子顕微鏡像や電子線回折パターンの観察からは、柱状成長した単結晶ドメインの存在を確認することができたとする。

約400℃における柱状配向構造は、単結晶シリコン基板上のLCCOにおいても確認されたとのことで、基板温度と柱状構造の関係は、一般的な薄膜成長モデルによって説明され、配向構造については梯子面を形成する銅と酸素の強い結合力と低い表面エネルギーによって説明されるという。

梯子面の高い熱伝導の起源は、銅イオンの電子スピン由来の特殊な粒「マグノン」であり、今回の試料のラマン分光において、マグノンの存在を示すピークが明瞭に観察されたとする。これは、今回の配向膜は梯子面内での高い熱伝導を保持していることを意味する重要な結果だと研究チームでは説明する。

なお、LCCOなどのスピン梯子系銅酸化物の成膜に関する研究はこれまでもあったが、梯子面と基板が平行になるような配向構造を狙って成膜した研究は今回が初めてだという。研究チームでは、デバイス応用において重要な成膜プロセスであるスパッタリング法を用いて、ガラスやシリコンへの低温成膜できるようになった点に意義があるとしているほか、電極やほかの物質からなる多層構造と組み合わせることによって、電子デバイスの効率的な排熱やその再利用を可能にする、次世代熱制御デバイスへの応用が期待されるとしている。

  • スパッタリング法によって単結晶シリコン上に成膜されたLCCO

    スパッタリング法によって単結晶シリコン上に成膜されたLa5Ca9Cu24O41。(a)単位構造。c軸方向に沿って梯子面が寝ている。(b)断面の透過型電子顕微鏡像。(c)電子線回折パターン。X線回折や電子線回折パターンなどの結果から、梯子面が基板に平行に堆積した配向構造を持つことが判明した (出所:東北大プレスリリースPDF)