グラフト型PEM中に軽水と重水の組成比が異なる水を含ませてSANS測定することで得られたCV-SANSデータをもとに、疎水相を構成する疎水性の基材高分子、親水相を構成する親水性のグラフト高分子と水、それぞれの大きさや間隔が着目され、解析が行われたところ、高イオン伝導性かつ低含水性のグラフト型PEMの親水相内には、約2nmの間隔でグラフト高分子と水の各相が、相分離しながら三次元的につながった「共連続相分離構造」で存在していることが見出されたという。

このナノ構造は、Nafionなどの汎用の非グラフト型PEMでは見られない、ユニークなイオンの通り道(イオンチャンネル)だという。

  • 燃料電池とグラフト型PEMの模式図

    燃料電池とグラフト型PEMの模式図 (出所:量研機構Webサイト)

グラフト型PEMでは、このようなナノメートルオーダーの水相が適切に接続されたイオンチャンネル構造が形成されることで、少ない水でも効率良く水素イオンが流れる特性(高イオン伝導性かつ低含水性)を発現することが示されたことから研究チームでは今後、今回解明されたナノ構造を重要指針として、より高機能なグラフト型PEMの合成を進め、発電性能や耐久性を向上した燃料電池の開発を加速させるとしている。

  • グラフト型PEMの親水相内におけるナノ構造の模式図

    グラフト型PEMの親水相内におけるナノ構造の模式図 (出所:量研機構Webサイト)

また、CV-SANSとPSFを組み合わせた今回の解析手法を、ほかのグラフト型機能性高分子材料にも適用して正確な構造データを獲得し、QSTアライアンス事業の「先端高分子機能性材料アライアンス」におけるマテリアルズ・インフォマティクスに基づく機能予測研究に活用することで、予測精度の向上、さらには機能性材料の創製を図るともしている。