そうした背景のもと、研究チームは今回、面内磁化した下部強磁性体/非磁性体/垂直磁化した上部強磁性体からなる三層構造において、下部強磁性体の磁化と上部強磁性体の磁化方向をずらすというアイディアを導入。その結果、すべての方向に生成されるスピン流の同時活用が可能となり、低電流密度かつ無磁場の磁化スイッチングを実現することに成功したとする。
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新たに開発された積層構造と得られた信号。(a)面内磁化した下部強磁性体/非磁性体/垂直磁化した上部強磁性体からなる不揮発性磁気メモリ構造の模式図。(b)面内磁場角度を変えて、上部強磁性体と下部強磁性体の磁化角度を変化させたときのスピン軌道トルク信号。これまでのモデル(青点線)では説明できない大きな変化が観測され、新しいスピン流成分を考慮したモデルを用いれば、実験結果を説明することが可能(赤実線) (出所:東北大プレスリリースPDF)
特に下部強磁性体に用いられたエピタキシャルコバルトは面内結晶磁気異方性が大きいため、上部強磁性体の磁化との相対角度を自在に制御でき、さまざまな方向のスピン流を磁化反転に活用可能だとするほか、磁化方向に依存するスピン流成分を明確に分離して同定することもできるようになったとしている。
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多結晶CoFeB/Ti/CoFeB構造で実施された実験データ。(a)不揮発性磁気メモリの製造方法を用いて作製された多結晶CoFeB/Ti/CoFeB構造。(b)外部磁場を印加しない状態で強磁性体の磁化を反転させるのに必要な電流密度の磁化方向依存性。新しいスピン流を利用できる磁化角度では30%の低電流密度化が実証された (出所:東北大プレスリリースPDF)
このような無磁場磁化スイッチング効率の向上は、現在、MRAMの製造方法であるスパッタリング法により作製された多結晶CoFeB/Ti/CoFeB構造においても達成され、提案したアプローチがスピントロニクスデバイスの大量生産に適用可能であることが示されたと研究チームでは説明するほか、既存のスピン流を用いた磁化反転よりも30%の低電流密度化が実現されたともしている。
なお、今回の研究成果は、高密度・低消費電力MRAMの重要なマイルストーンとなると研究チームでは説明しており、IoTやAIで利用されるMRAMの革新的省電力技術になることが期待されるという。