東京工業大学(東工大)は4月12日、トポロジカル絶縁体を用いて、垂直磁気異方性を持つ磁性薄膜を低電流密度かつナノ秒で磁化反転させることに成功したと発表した。

同成果は、東工大工学院 電気電子系のファム・ナムハイ准教授、同・ゲィン・フン・ユィ・カン外国人特別研究員(研究当時)、NHK放送技術研究所の宮本泰敬主任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米物理学会が刊行する応用物理学を扱う学術誌「Applied Physics Letters」に掲載された。

ICT機器の電力消費量低減を目指し、次世代磁気抵抗メモリ(MRAM)として磁性体に接合した非磁性体に電流を注入し、スピンホール効果を介してスピン流を生成するという仕組みの「スピン軌道トルク(SOT)方式」の研究が進められている。

SOT方式には、スピンホール効果によるスピン流の生成効率を表すスピンホール角θSHが大きい材料を用いる必要がある。そこで期待されているのが、トポロジーに保護された表面状態(TSS)の寄与により、1を超える巨大なθSHを有するトポロジカル絶縁体であり、トポロジカル絶縁体をスピン流源として用いれば、垂直磁化膜の超高速磁化反転に必要な電流密度を低減することが可能になるとされている。

そうした背景から研究チームは今回、高い電気伝導率と巨大なスピンホール効果を有することから、これまで研究を続けてきたビスマスとアンチモンからなる「BiSbトポロジカル絶縁体」の超高速磁化反転を実証することにしたという。

具体的には、垂直磁気異方性の大きなプラチナ/コバルト多層膜とBiSbトポロジカル絶縁体との接合を、スパッタリング法を用いて酸化シリコン基板上に製膜。1000nm×800nmの素子を作製し、パルス幅1~4nsのパルス電流を掃引したときと、3nsの正負のパルス電流をBiSbに連続的に印加したときの磁化反転の評価を実施。その結果、面内に印加されたバイアス磁場の向きを逆にすると、磁化反転の向きが逆になったことから、SOT方式による超高速磁化反転が確認されたとした。

また、磁化反転に必要な電流密度の大小の指標として、絶対零度におけるしきい値電流密度Jthoの評価も実施。今回作製された素子に1nsから1msまでのさまざまなパルス電流を印加し、磁化反転に必要なしきい値電流密度の測定が行われた。