1月18日、インテル日本法人が記者会見を開き、2022年に計画している取り組みや、業界の展望を説明した。同社の代表取締役社長 鈴木国正氏は、今年の国内PC市場の成長は、分野によってまちまちながらもおおむね堅調で、横ばいで推移するだろうという見かたを示した。そして、特に国内向けで重く取り組む活動として、人材育成の支援拡大を挙げた。

鈴木氏はまずインテルの2021年を振り返った。同年2月にパット・ゲルシンガー氏が新CEOに就任以来、矢継ぎ早に技術発表が行われ、インテルがテクノロジーのリーダーになるというメッセージが全面に打ち出された。3月にはIDM 2.0の戦略が発表され、自社製造を強化する大規模なファブ投資、継続的な外部ファブ(TSMC)の利用、ファウンドリサービスの事業化の3つの柱が立てられた。背景として製造能力こそが世界戦略における優位性になるという判断に加え、地政学リスクのある半導体業界を安定させたいという意思も含まれていると、鈴木氏は説明する。

  • パット・ゲルシンガー氏が就任後すぐ、3月に発表した「IDN 2.0」

7月に開催したイベント「Intel Accelerated」では、プロセッサ・ロードマップを更新、「ムーアの法則」の継続を宣言し、2025年にプロセスのリーダーシップを獲得する計画を説明するとともに、2.5DパッケージのEMIBや、さらに3DパッケージのFoverosなど、パッケージング技術のイノベーションも発表した。

  • インテル執行役員常務で技術本部本部長の土岐英秋氏は、ムーアの法則を「われわれにとってDNAのようなもの」と話している。「絶対ペースを変えない!」として微細化技術に挑んでいるという

  • 2次元的なPlanarFEtから、スイッチングスピードと漏れ電流低減を実現した現行の縦フィン型で3次元的なFinFETへ。平行してパッケージング技術を進化させつつ、今後はトランジスタを全周ゲート型に移行させる計画

8月に開催したイベント「Intel Architecture Day」では、Efficient Core(E-Core)とPerformance Core(P-Core)の2種類のCPUコアを積む新しいx86コア「Alder Lake」のコアアーキテクチャを発表。従来のIDFに変わる開発者イベントとして10月に開催した「Intel InnovatiON」で、Alder Lakeを第12世代Intel Coreプロセッサとして正式発表した。

  • 今年はじめのCES 2022ではAlder Lakeのモバイル版も追加した

その2021年、パソコンの年間出荷台数は前年比で13.5%増加したと見られている。コロナ禍による需要のピークが過ぎたことによる減速はあったが、一方でゲーミングPC需要が旺盛であったようだ。

  • 世界PC出荷台数の2021年動向と2022年予測

しかし2022年の世界のパソコン出荷台数は減少が見込まれている。法人向けは成長するが、家庭向けは引き続きコロナ禍のピークからの原則が続くという見かただ。ただ鈴木氏は、2022年の法人向け以外でも、eスポーツ市場が確実に伸びており、さらにこの伸びは3~4年で数倍という大きな成長となることを指摘。クリエイター向けについても、「SNSによって一般ユーザーがクリエイターに変わっていく世界、クリエイターの数が乗数的に増えている」(鈴木氏)という状況から、伸びが期待できることを説明。2022年の減少は一時的なものになるという見通しが示されている。

  • eスポーツとクリエイター市場は大きな拡大が見込まれている

一方で日本国内市場について鈴木氏は、在宅勤務や在宅学習でのコンシューマー向けの需要が一段落するが、ビジネス向けが堅調ということで、「2022年の国内パソコン出荷台数は全体としては横ばいになるだろう」という認識を示した。インテルとしては、EvoやvProといったMobility、Manageabilityをキーワードにデジタル・ファーストを更に推進することで、市場を喚起していく方針だ。

  • 国内でも、クリエイターの創作活動、PCゲーマー、法人PC担当者に訴求する各種施策を実施していく

そして2022年、インテルが日本で特に推し進めるのが「デジタル人材の育成」だと強調された。

インテルは昨年、「ユビキタス・コンピューティング」、「エッジ・トゥ・クラウド・インフラストラクチャー」、「パーベイシブ・コネクティビティ」、「AI(人工知能)」の4つを、イノベーションを生むためのSuperpowersだと位置付け、これにあわせて組織の再編も実施している。

その4つのSuperpowersの周りにある問題を解決しないと、その4つが活かされないというが、こと日本においては、その問題のうち「デジタル人材の育成」が大事であると鈴木氏は認識しているという。

  • 4つのSuperpowersを囲む要素のうち「デジタル人材の育成」が特に日本では重要という

日本においてはGIGAスクールがようやくスタートし、大きな前進を見せた。しかし現実として、この1人1台のGIGAスクールPCが、相当な割合で使われていない、有効に使われている現場とそうでない現場の差が大きいといった課題も発生している。鈴木氏は「税金でやったこがこれでは問題がある。文科省も強く危機感を持って動いている。我々ができる支援をしっかりやりたい」と話し、ここで完了ではなく、あわせて、次世代のデータセントリックな教育にも踏み込んでいく段階にあることも指摘した。

PCを配布するだけでも差ができるのに、教える内容の高度化までいくとさらに差が出てしまいかねず、そうなればこれは社会問題にもなりえてしまう。そこでインテルでは、2022年に次世代教育の支援活動を重点的に推進する方針だ。鈴木氏は、「まだ教育とデジタル機器がリンクしていない。閲覧といった用途でモバイル機器とはリンクしていても、それで何かをつくったりといった結びつきになっていない。他国と比べて、日本が遅れてしまう、アナリストが育たない、クリエイティブ人口が増えないことになる。そこに危機意識を持っている」という認識で強く支援に取り組むとしている。

  • 昨年には、もともとインテル社内用のスキル育成フレームワークであった「SFI」を、授業カリキュラムとして応用、提供を進めている

  • STEAM教育推進のための「STEAM Lab」構築を支援も進めている。昨年募集した実証研究校には30校以上の応募があったそうだ。これをさらに拡大する

  • 2022年は新たにRISE教育に取り組みに加える。RISEは社会的責任、受容性、持続可能性、実現能力の英単語の頭文字をあわせた言葉。参加の枠組みなど具体的には春頃までに発表となりそうだが、テクノロジーやデジタルを駆使した課題解決を課外活動として学べる場を用意するものになるようだ

鈴木氏は昨年のGIGAスクールのスタートから今までを、「デジタル教育で課題。ではGIGAスクールをやりました。だが教育プログラム不足、先生不足はわかっていたことでもある。しかしまずは配る。800万台のPCを供給することができた。そのうえでセカンドステップに進める。政府や文科省も課題はじゅうぶん認識している。今はホップステップのホップ、もしかするとまだ"ホ"の段階かもしれない」と述べている。GIGAスクールがはじまったことで、止まっていた時間が急に動き始めた感はある。遅れを取り戻そうとする危機感が強いぶん、教育関連は日本のデジタル化の原動力になっていくのかもしれない。