Intelは2月23日の午後2時(日本時間で2月24日朝6時)、Live Streamの形で"Intel Unleased: Engineering the Future"と題したBusiness Updateを公開し、今後のIntelの戦略について新CEOであるPat Gelsinger (パット・ゲルシンガー)氏が説明を行った。端的に言えば、Gelsinger氏はIntelのビジネスを以前の戦略に戻し、しかも床までアクセルを踏み込むことを宣言したとも言える内容になっている。簡単にこれをご紹介したい。

最初の7nm世代、Meteor Lakeの進捗

まず現状の動向について。昨年株価大暴落の引き金となった7nmプロセスであるが、現在は問題も確認され、順調に開発が進んでおり、EUV Stepperの製造元であるASMLとの緊密なパートナーシップも引き続き維持されているとしたうえで、今年第2四半期には最初の7nmプロセスを利用したCompute TileであるMeteor LakeのTape outが完了するとした(Photo01)。まだMeteor Lakeの詳細は不明だが、Alder Lakeの次(か、次の次)になる事を考えると、コアアーキテクチャはGolden Coveの次ということになる。どんなものになるか興味深い。

  • Intel、IDM 2.0をアナウンス。Intel Foundry Businessが復活へ

    Photo01: ただし"Multiple manufactureing process"とあることに注意。またFoverosを前提にしているあたりは、AMDのRyzen同様チップレット構成になるのかもしれない。

またプロセスと並ぶ柱であるPackaging技術に関しては、同社は3D Stacking実装であるFoverosと、2.5D実装(Silicon Interposer)であるEMIBの技術を持っているが、この両方を利用したPonte Vecchioのサンプルが既に存在することを紹介した(Photo02~04)。

  • Photo02: Ponte Vecchioをおもむろにポケットから取り出すGelsinge氏。

  • Photo03: Ponte Vecchioのアップ(これはIntel提供の写真より)。

  • Photo04: Ponte Vecchioの構造図。40ものTileから構成されるとする。

IDM 2.0を宣言、アリゾナにファブを新設へ

さてここから今後の戦略の話。もともと14/10/7nmのプロセスが全て遅延した結果、2014年に発表されたIntel Custom Foundry Serviceは事実上開店休業というか、顧客がゼロに近い状態がずっと続いており、「Custom Foundry Businessを行う事で先端Fabの稼働率を上げ、早期に投資を回収することで次世代のプロセスの開発や生産拠点の整備・装置の購入を可能にする」という当初の見積もりが完全に崩壊した。それもあって前CEOであるBob Swan氏のIDM(Integrated Device Manufacturer)モデルを今後も維持するかどうかを含めて検討するといった発言に繋がっていたわけだが、Gelsinger氏は"IDM 2.0"をアナウンス。引き続き同社はIDMモデルを維持する、というかむしろ積極的にIDMの強みを生かしてゆく方向に進むことを宣言した(Photo05)。それだけでなく、改めてCustom Foundry Serviceを提供する事も宣言。その最初の顧客の一社がMicrosoftであることも示された(Photo07)。これに向けて、200億ドルを投じてアリゾナ州のOcotillo Campusの近隣に新しく2つのFabを建設すると発表した(Photo08)。

  • Photo05: 冷静に考えると、従来と何にも違わない気もしなくもない(以前からチップセットとかはTSMCに製造委託を行っていたし)。

  • Photo06: とりあえずは7nmがターゲットと思われる。

  • Photo07: もっともMicrosoftも現時点では何を作るかは説明せず。

  • Photo08: 早ければ今年中に建設を開始するとしている。

余談だが昨年5月、TSMCはアリゾナに5nmのFabを建設するとしたが、これはウエハの生産能力が月産2万枚ので、TSMCの基準からするとMega Fab(その上に月産10万枚以上のGiga Fabがある)レベルであったが、高まる5/7nmプロセスの需要に対応するためにこれをGiga Fabに昇格させる(正確に言えば、生産能力2万枚/月のFabを1つではなく6つ建造する)という噂が出ている。Intelのこの計画はこれに真っ向勝負という形だ。このFab 2つの建設により、多数の雇用をアリゾナに生み出すともする(Photo09)。

  • Photo09: TSMCの分もあわせて、アリゾナに結構な規模のビジネスが生まれる事になる。

このCustom Foundry ServiceではCadence/Synopsysという2大EDAベンダーのサポートがあるとしており(Photo10)、あとはどこまでCadenceとSynopsysの「通常の」デザインツールやIPが使えるか次第という話になるが、そのあたりの細かい所は今回は明らかにされなかった。

  • Photo10: Mentorは?

更にその先に関して、IntelはIBMとプロセス技術及びパッケージングについて共同開発することを今回発表した(Photo11,12)

  • Photo11: これまではプロセスに関してIntelとIBMは割と相反する立場だった気がするが、特にIBMの側はパートナーを組んでいたGlobalfoundriesがまず脱落、Samsungも色々厳しい状況であり、このあたりで保険としてIntelと組み事にしたのかもしれない。

  • Photo12: こちらも具体的な話は今回は無し。

第12世代Alder Lakeはサンプル出荷を開始

次にProduct Roadmap。既にTiger Lakeは出荷開始しているが、これに加えてAlder Lakeのサンプル出荷も開始している事を発表(Photo13)。年末に出荷開始予定であることを再確認した。「ラフに言って、今年の第3四半期は10nmプロセスの製品が大半を占め、その中には10nm SuperFinのものも含まれる」というあたり、もうDesktop向けはMinorityになったということだろう。

  • Photo13: Alder Lakeは"Breakthrough architectual advancements for desktop PC followed by Mobile"ということで、年内はMobile向けのみでDesktop向けは来年送りになりそうだ。

Server向けでは、米国時間の4月6日にIce Lake-SPベースの第3世代Xeon Scalableが発表されるが、これに続き既にSapphire Rapidsもサンプル出荷が開始されている事が明らかにされた。また2023年には先ほど出てきたMeteor Lake(これはIntelの7nmで製造、とされた)の他、IDM 2.0に沿った形の製品が投入予定だが、ここにはTSMCで製造された製品(これはクライアント向けとデータセンター向けの両方)も含まれることが明言された。

  • Photo14: Sapphire Rapidsの方は今年年末ないし2022年初頭に出荷開始予定との事である。

2021年はIDM 2.0に向けての転換の年、というのがGelsinger氏の説明で、今年の見込みは売り上げが720億ドル、粗利率56.5%、EPS $4.55を見込んでいるという話であった(Photo15)

  • Photo15: これはあくまで2021年の予定である。ちなみに2020年はRevenue $77.9B、Gross Margin 56.0%、EPS $4.98だったので、多少業績が落ちる事を予測している訳だ。

ゲルシンガー路線の象徴? IDFを復活へ

最後に"One More Thing"として、2017年に終了したIDF(Intel Developer Forum)を、改めてIntel Onとして復活することが明らかにされた(Photo16)。

  • Photo16: そもそもIDFを23年前に始めたのがGelsinger氏であった。

ということで、従来路線に復帰し、更にアクセルを床まで踏み込むという表現が適切なIntelの新戦略であるが、その一方で先日Micronが完全に手を引くことを発表したOptaneこと3D XPointをどうするか、などの話は今回は出ず終いであった。このあたりは今後、徐々に明らかになってゆくものと思われる。