半導体商社が見た今の半導体不足の裏側
一方のコアスタッフの代表取締役社長を務める戸澤正紀氏からは、半導体商社の現場から見た半導体供給不足に関する考察が語られた。
同社が掲げている自社の商社としての存在意義は大きく4つ。「余剰在庫増加」、「入手難」、「生産中止品増加」、「リソース不足」。いずれも製造業に関する課題の解決を目指すというもの。特に現在の半導体不足の流れは、この4つを大きく浮き彫りにするものとなっているという。例えば余剰在庫の問題。不足といっているのに、余剰があるのか、という話になるが、現実問題としては、日々生産がなされているわけで、自社で必要とするものと、不足するもののバランスが変動するため、そうしたことも起こる場合がある。また、近年、経済環境の変化により、売れないものをいつまでも販売することができない状況へとドラスティックに変化が生じており、生産中止品が増加。後継機種や代替品があるものがあればよいが、置き換え不可のものもあり、そういったものは生涯生産分をラストバイとして購入するが、その予測は必ずしも当たるわけではなく、余る場合は余剰在庫になり、不足すれば入手難ということになる。そのため、入手難と言っても、現実としては現行品が手に入らないのか、それとも生産中止品が手に入らないのかで話が変わってくるという。
また、そのビジネスの特徴は、従来型の営業が足を使って販売する形態と、オンラインストア「CoreStaff ONLINE」経由での販売のハイブリッドの営業スタイルを採用している点で、現在同社の売上高の半分を超す規模がオンラインでの販売によるものとなっている。
また、独立系半導体商社という独特の立ち位置から、通常の半導体や電子部品メーカーから製品を仕入れて販売するのみならず、海外に有する5つ拠点によるネットワークを活用して、現地の販売代理店が持つ在庫を入手したり、メーカーの持っている余剰在庫の販売、Mouser ElectronicsやRochester Electronicsの代理店といった、さまざまな角度・視点から流通を担っている。特に、メーカーの持つ余剰在庫を自社の倉庫に預かり、CoreStaff ONLINEに在庫として値段とともに提示し、販売するといった仕組みは、今回のような半導体不足においては、貴重な在庫情報として国内外のユーザーに重宝されているという。
加えて、半導体が不足すると話題になるのが偽造品が増加するという問題。この偽造品に対する真贋判定サービスも提供。99%はこのサービスで真贋の識別ができるとのことで、こうした検査をしたうえでマーケットから購入すればよい、という認知度が今回の半導体不足を機に、高まったという。
半導体不足の解消はいつか?
同社の受注金額データ推移を2020年1月から2021年11月まで見ると、一度2021年6月でピークを迎えている。これは、以前、戸澤氏が予測した通りで、実際に7月、8月と受注金額は落ち着きを見せていった。しかし、9月に入り、再び受注金額が増加に転じ、10月、11月と急激に上昇している。
「この背景を読み取るのは難しいが、自動車分野が生産量を増す目的で、各所から調達を進めた結果、それ以外の分野で部品の入手が難しくなり、それが数値としてでてきたのではないか」とする一方、「こうした受注を出せる企業は、ある程度の規模がある。本当に規模の小さい企業は、必要とする部品の4-5割程度しか調達できず、あきらめる傾向がある。これが8-9割だと、もう少しで製品が作れる、ということで入手に向けた動きを見せることとなる。実際に、各所からものがそうやって入手できるようになったので、製造しようという動きがでてきたのではないか」と推測する。ただし、あくまで戸澤氏自身の肌感覚での話であり、実際にこの推測が正しいかどうかについては保証できない点は注意が必要である。
また、部品種別ごとに受注金額の推移をみると、当然ICが圧倒的に割合が大きいが、一定割合でコネクタの受注が続いているという。これは、樹脂不足によりコネクタが2020年から続いているためで、2021年2月に米国で発生した寒波による大停電で化学メーカーの生産ラインが1か月停止された影響もいまだにある模様だという。
ただし、少しずつ半導体・電子部品が入手しやすくなってきているのは事実で、受注については若干の軟化傾向にあるという。そのため、半導体不足のピークアウトは近々迎えるのではないかとの見方を示すものの、実際には不足している半導体・電子部品の種類が多岐に及んでいるため、そのすべての不足が解消するというところに至るまでは、しばらく時間がかかるのではないかとする。
そのため戸澤氏は、「各社の各数値がピークアウトしてきており、下がってくるのは確実だが、中小企業はまったく状況が別で、もう少し不足が続く。これからはそうしたところが入手に向けた動きを進めるうえで偽造品の問題がさらに増えることが予想される。その一方で、4-5割の部品を入手してしまって、残りが手に入らないため製品が作れない場合であっても、購入してしまった部品に対する支払いは発生する。そのため売り上げが立たない中での支払いとなるため、非常に厳しい状況が発生する可能性もでてくる」と、将来を読むことが非常に難しい局面となるとする。
半導体各社(IDM、ファウンドリ)は、工場をフル稼働させて日々生産を続けている状況であり、OSATも売り上げが拡大基調にある状況を見るに、半導体不足のピークアウトは、必ずいつかはやってくることになるだろう。しかし、業界関係者からは、納期の回答が1年後はまだしも、2年後、3年後といったものもあるという声も聞く。そうした現状を考えれば、ピークアウトの仕方がハードランディングなのか、もしくはソフトランディングなのかで、現場の状況は大きく変わってくることになるだろう。今回、コネクタ不足の話題として樹脂の不足が取り上げられたが、それ以外の鋼材をはじめとする素材不足や、グローバルにおける物流の停滞といった課題の解決タイミングも異なってくることになる。そうした意味では、全体論として不足は解消という方向性になっても、個々の企業、製品ごとに見た場合は解決の見通しが立っていない、といったことも起こりうることが考えられることから、まだしばらくは購買・調達の担当者を悩ませる日々は続くものと思われる。