弥生は10月14日、デスクトップアプリ「弥生 22 シリーズ」の提供開始を発表し、これに伴って「弥生の現況と業務デジタル化への取組み」をテーマに事業説明会を開催した。説明会の中で同社の代表取締役社長の岡本浩一郎氏が語った、同社の現状とこれから見据える将来像についてお届けする。

  • 弥生 代表取締役社長 岡本浩一郎氏

弥生の現況について

現在までに、弥生の登録ユーザー数は年々増加しており、デスクトップアプリとクラウドアプリの両輪で共にシェアが拡大しているという。デスクトップアプリとしては65.5%、クラウドアプリとしては57.0%のシェアを同社が占めるとのことだ。

  • 同社サービスは市場シェアの大半を占めるのだという 
    出所: (左) 業務ソフト市場における弥生製品のシェア: 第三者による市場調査をもとに独自集計(対象期間: 2020年10月1日~2021年6月30日) (右) MM総研「クラウド会計ソフトの利用状況調査(2021年4月末)」

岡本氏はこのような成長の要因について「当社製品の登録ユーザー数が増加している原動力となっているのは、会計事務所とのパートナーシップであると考えている。PAP(Professional Advisor Program)会員は1万1000事務所を超え、ネットワークはさらに拡大している」と現状について述べた。

同社が取り組む事業領域は、「業務支援サービス」と「事業支援サービス」に大別できる。このうち、業務支援サービスでは、事業者および会計事務所の実務に寄り添った業務効率化を推進する。その一環として、同社は10月から「弥生 22 シリーズ」の提供を開始する予定だ。

同シリーズでは法令改正へと対応したほか、業務自動化の推進を目指してSMART(自動取り込み自動仕訳)の推論を改良している。勘定科目の推論ロジックを、従来のベイズ推定によるものから、自然言語処理ライブラリfastTextをベースにしたニューラルネットワークによるものに変更したという。ニューラルネットワークの開発には豊富なデータ量が必要であり、市場シェアの大半を占める同社の強みを生かせるとのことである。

  • 「弥生 22 シリーズ」における主な強化のポイント

同社は同様に、業務支援サービスとして「記帳代行支援サービス」を2020年9月から提供している。同サービスは会計事務所の記帳代行業務を支援するものであり、電子データだけでなく、紙証憑のデータ入力にも対応する。それらの取引データを自動仕訳可能なため、会計事務所の記帳代行業務を効率化できる。

同社はさらに、事業支援サービスとして2021年3月に「企業・開業ナビ」の提供を開始した。さらに今後は、資金調達手段の検索や専門家への相談が可能な「資金調達ナビ」に加えて、「税理士紹介ナビ」「事業継承ナビ」など、スモールビジネスのあらゆるステップを一貫して支援するソリューションの提供を予定している。

スモールビジネスの業務デジタル化に向けた取り組み

岡本氏は業務の効率化について、「単に紙での業務を置き換える『電子化』ではなく、さらに一歩踏み込んで業務のあり方まで見直す『デジタル化』が重要である」と話した。これまでの電子化は行政側に利点があった一方で、事業者側はメリットを実感しづらく、業務の効率化にはつながらない場面が多くあったのだという。

こうした背景から、同社が発起人となって「社会的システム・デジタル化研究会」を2019年12月に設立した。同会は確定申告制度や年末調整制度などの社会的システムをデジタル化し、社会全体としての効率を抜本的に向上させ、社会コストの最小化を目指す。2021年6月には、年末調整のデジタル化に向けた提言を当時のデジタル改革担当大臣へ提出している。

  • 「社会的システム・デジタル化研究会」は年末調整に関する提言を実施した

年末調整業務においては、年末に事業者に対して重い負担が発生している。同会では年末調整の将来像として、給与支払いなどの情報を発生時にデジタル化し、リアルタイムに収集することによって、事業者では年末に業務が発生せず業務負担の軽減が可能な世界を描いているとのことだ。

  • 岡本氏が紹介した年末調整の将来像

同氏は続けて、「年末調整制度は、紙での業務を前提として戦後に作られた制度である。この制度をデジタル技術を前提としてゼロから見直すべきだ」と話した。

同社は同時に、インボイス制度および電子帳簿保存法改正に向けた取り組みも進めており、その取り組みの一つとして、同社が代表幹事を務める「電子インボイス推進協議会」を2020年7月立ち上げている。現状の商取引においては、請求書の発送や購買管理が紙を用いて実行されており、事業者の生産性向上を妨げている。そのため同会では、単なる法改正対応ではなくデジタル化による圧倒的な業務効率化を目指すとのことだ。

弥生が見据える将来像

現在、日本国内の企業の多くは、月末などの所定のタイミングで複数の納品物を合算した請求書を発行する「合算請求書方式」を採用している。一方で、デジタル化を前提とした社会では、納品後速やかに請求書を発行する「都度請求書方式」にシフトしていくであろうと同氏は見ている。

合算請求書は元々紙での作業を前提としており、手作業の集約化や郵送費用の削減のために導入されているものだ。デジタル化を前提とした世界では郵送費用が不要になるため、合算請求書方式である必要性は低下する。さらに、経営のリアルタイム化の観点からも、都度請求書が望ましいのだという。

岡本氏は同社の今後について「当社では今後も、電子化にとどまらずデジタル化を推進していく。これからの中核となるであろう新しいサービス『証憑管理サービス(仮称)』では、さまざまな証憑を構造化されたデジタルデータとして扱えるようにしていく予定だ。これらのサービスを通じて、事業者内のみならず、ステークホルダー間も含めてあらゆる業務プロセスを一気通貫で支援する」と展望を語った。

  • 将来の展望を語る岡本氏