こういう仕事をしていると、編集部内から筆者のところに「オススメのイヤホン教えてください!」という相談がSlackで飛んでくることがあります。そんなとき、詳しくない人に「これLDAC対応で音質最強だからオススメですよ」とマニアみたいな返しをしても「あ、やっぱりいいです」と引かれる可能性は十分あり、特に低価格帯からオススメを探すのは難しいもの。そこへ、誰でも知っている“ソニー”ブランドを冠した手ごろな製品が登場しました。

  • WF-C500(ホワイト)

その名は「WF-C500」。2021年のヒットモデルとして記憶されるであろうソニーの最上位完全ワイヤレスイヤホン「WF-1000XM4」の音質や装着性を受け継ぎながら、ノイズキャンセリング(NC)機能などを省いてグッと低価格化した新製品です。

10月8日発売で、価格はオープンプライス。店頭価格は11,000円前後を見込んでいます。カラーはアイスグリーン、コーラルオレンジ、ホワイト、ブラックの4色展開です。

完全ワイヤレス(TWS)では高付加価値路線を歩んできたソニーが、ついに1万円台前半の“激戦区”に殴り込みをかけると聞けば、どんな製品なのか気になるというもの。ソニーのイヤホンでは珍しいカラーリングであるホワイトモデルをお借りして、音質から使い勝手までチェックしてみました。

  • WF-C500のカラーバリエーション。左がコーラルオレンジ、下がアイスグリーン、右がブラック、上がホワイト

小さくても高い装着性。使い勝手も良し

1万円台で買えるソニーの完全ワイヤレスイヤホンは、実はWF-C500(以下、C500)が初めてではありません。重低音再生にこだわった「EXTRA BASS」シリーズから2020年に登場した「WF-XB700」は当初の想定売価が15,000円前後(税別)で、執筆時点では実売1.3万円前後まで値下がりしています。

また、h.earシリーズのカラフルなデザインが目を惹く「WF-H800」(2020年発売)も、当初の想定売価は税別22,000円前後でしたが、今では安いところで実売1.5万円を切るなど、値ごろ感が高まっています。

では、C500の魅力は(価格以外では)どこにあるのでしょう? ざっくりですが、箇条書きで書き出してみました。

  • WF-1000XM4ゆずりのデザインによる装着性の高さ
  • 最長20時間のバッテリーライフ、IPX4防水対応
  • 純正スマホアプリで各種設定が可能
  • 普段使いで十分楽しめるサウンド

順を追ってみていきます。

C500のデザインをパッと見て「あ、WF-1000XM4とカタチが似てる!」と感づいた方も多いと思いますが、C500では1000XM4と同様の「エルゴノミック・サーフェス・デザイン」を採用することで、耳の中の面で支えるように接触面を増やして装着時の安定性を高めています。

実際につけてみると、このフィット感の良さはすぐに実感できます。飛び出し量が小さいので耳にすっぽりはまり、頭を振ったくらいでは外れたりしません。

  • 「エルゴノミック・サーフェス・デザイン」を採用したWF-C500の本体

ソニーの大ヒットTWS、WF-1000XM3では耳の中の3点で支える構造(エルゴノミック・トライホールド・ストラクチャー)を採用していましたが、イヤホンの本体サイズと相まって耳からの飛び出し量が大きいために振動を拾いやすく、最悪の場合は耳からポロッと落下するおそれがありました。1000XM4では新デザインでこの課題を克服しており、末弟TWSのC500にもそれが受け継がれたカタチです。

  • WF-C500(中央)のサイズを他の完全ワイヤレスイヤホン(左:WF-XB700、右:AirPods Pro)と並べてみると、C500のコンパクトさがよく分かる

C500はノイズキャンセリング(NC)機能や外音取り込み機能を備えていない分、片耳約5.4gと軽くコンパクトに作られているので、耳の小さな人や女性にもフィットしやすくなっています。NC/外音取り込み機能はいらないけれど、普段使いできる手ごろなTWSが欲しい……という人にはうってつけといえるでしょう。

なお、片耳あたりの重さを挙げてみると、1000XM4は約7.3g、H800は約7.6g。XB700に至っては約8gもあります。たった数gの違いですが、長時間音楽を聴くときの耳への負担は決して少なくはないのです。

  • 編集部の女性記者(WF-1000XM3ユーザー)にWF-C500を装着してもらったところ。小さい耳にもフィットして高い遮音感が得られ、(後述する)物理ボタンによる操作感も好印象だったとのこと

続いてバッテリー性能を見てみましょう。C500はイヤホン単体で最大10時間、付属の充電ケースと組み合わせると計20時間音楽を聴けます。

1000XM4はNCオフ時で単体12時間、ケース込みで最長36時間聴けるのでそれには見劣りするものの、H800(単体8時間/ケース込みで計16時間)やXB700(単体9時間/ケース込みで計18時間)よりはバッテリーが長持ちしそう。急速充電にも対応しており、10分の充電で60分再生できます。

  • WF-C500のイヤホン本体を充電ケースに収めたところ

ちなみにソニーのTWSでは1000XM4のみ、ケースのワイヤレス充電に対応しています。充電パッドにポンと置くだけで充電できるのはとても便利で、1万円台のTWSでもワイヤレス充電をサポートする機種が増えてきているので、C500もできれば対応して欲しかったところです。

  • 充電ケースの後ろ側にUSB-C端子を備える。ちなみにワイヤレス充電には対応しない

  • 充電ケースを横から見たところ。正面(写真右)に向かってわずかに傾斜が付けられており、デスクに置いた状態でイヤホン本体を抜き取りやすい

  • WF-XB700(左)とWF-C500(右)のケースはクリア素材を使い、収納部に傾斜を付けるなど、デザイン面で似ているところが多い。C500は小さなバッグや化粧ポーチにも収まるサイズ感を目指したとのこと

イヤホン本体はIPX4防水対応で、1000XM4やXB700と同じ仕様。H800は防水非対応でした。屋外で使うものなので、防水仕様になっていたほうが何かと安心です。

C500の表面の丸い部分は物理ボタンになっていて、スマホ画面を見なくても音楽再生操作などが行えます。軽く押すと「カチカチ」とくぐもったクリック音が聞こえ、タッチセンサーよりも確実に操作できる安心感があります。

ボタンを押す回数や長押しで各種操作を使い分ける仕組みで、左イヤホンで音量調整、右イヤホンで再生/停止や曲送り/曲戻し、着信応答/ボイスアシスタント呼び出しなどが行えます。TWSでは特に珍しいものではありませんが、人によっては利き手が違ったり、使い慣れたキーアサインがあったりするので、機能割り当てをカスタマイズできるとなお良かったように思いました。

スマホアプリ「Sony|Headphones Connect」に対応している点も見逃せません。近頃は低価格なTWSでもアプリから各種設定が行えるものがいくつかあり、C500もそのトレンドはキッチリ押さえてきました。

設定できる項目はイコライザー/(立体音響体験の)360 Reality Audio設定/Bluetooth接続品質/DSEEといたってシンプルで、NC/外音取り込み機能がないのでアダプティブサウンドコントロール機能には非対応です。

  • WF-C500(ホワイト)をSony|Headphones Connectアプリと連携させたところ。アプリ画面の上部は、イヤホン本体のカラーに合わせて背景色が変わる

  • Headphones Connectアプリの設定項目

低価格なTWSでは通知音声が英語オンリーなことが多いですが、C500はデフォルトで日本語に設定されているので、はじめてTWSを購入する人にもやさしいと感じます。

また、(意外なことに)充電ケースが邪魔でTWS本体だけ持ち歩く人も少なくないと聞いたことがありますが、C500はケースなしでもアプリ画面からイヤホンの電源をオフにでき、本体の物理ボタンを長押しすると電源を入れられます。そうしたユーザー向けに意図したものかは分かりませんが、そんな使い方もできるのは面白いところです。

なお、Headphones Connectアプリに関してひとつ付け加えると、ソニーのヘッドホンをどのくらい使ったかログを残せる「アクティビティ」という新機能がVer.8.2.0から加わりました。使った頻度や機能に応じてバッジをコレクションすることもでき、もらえるとちょっと良い気分になれます。

今のところ、アプリ内の“お遊び”要素に留まりますが、たくさん使うことでユーザーに何らかのインセンティブがあると楽しみが増えそうな気がします。他にも、イヤホン本体のファームウェアをアプリ経由でアップデートできるので、今後の機能強化にも期待したいところです。

  • ソニーのヘッドホンをどのくらい使ったかログをアプリに残せる

  • 使った頻度や機能に応じてバッジがもらえる。お遊び”要素だが、もらえるとうれしい

接続性の面では、iPhoneやAndroidなどスマホの種類を選ばず、途切れにくい接続を実現する左右同時伝送方式を採用。コーデックはSBCとAACをサポートしています。ネット動画視聴時の音声遅延も抑えているということで、試しにYouTubeやABEMA、dアニメストアのコンテンツをいくつか見てみました。

シビアに見れば、人物の口の動きからセリフがわずかに遅れて聞こえ、音楽/動画問わず、音声再生時は若干ホワイトノイズが乗るようで、このあたりは価格相応という印象でした。

ペアリングのしやすさなど、使い勝手に関わる機能は充実しています。Android端末では初回のペアリング作業が簡単に行える「Google Fast Pair」をサポートするほか、紛失時も最後に端末と接続した場所を特定できる「端末を探す」アプリに対応し、イヤホンから音を鳴らして場所を確認できるRing Device機能も備えました。

また、Windows 10 PC向けの機能として、C500をPCに近づけるだけでペアリングのポップアップ画面が立ち上がる「Swift Pair」に対応します。

パッケージも見ておきましょう。1000XM4では地球環境に配慮した新しいパッケージ素材として、独自のオリジナルブレンドマテリアルを採用したことが注目を集めました。C500でも基本的な考え方は同じで、オリジナルブレンドマテリアルではありませんが、プラスチックを全廃して紙素材オンリーのパッケージを採用しています。

  • WF-C500のパッケージ

付属のUSB-C充電ケーブルやイヤーピースをまとめる梱包パーツも紙製ですが、イヤーピース(SS/LLサイズ)を串団子のようにまとめて突き刺した収め方はあまりに斬新で、初めて見たときは思わずニヤッとしてしまいました。

  • 製品内容。付属のUSB-C充電ケーブルとイヤーピースをまとめる梱包パーツも紙製だ

買いやすくてバランスのいい音。入門機としてオススメ

実機のサウンドはiPhone 12 miniやウォークマン「NW-A100TPS」と組み合わせて確かめました。音量は1/3〜半分程度とし、DSEEオン、イコライザーはなしに設定(ウォークマン再生時は「ソースダイレクト:オン」)。音楽ストリーミングサービス「mora qualitas」で配信されている楽曲や、手持ちのFLAC音源を聴いていきます。

  • iPhone 12 miniと組み合わせてWF-C500の音を聴いてみる

まず、幾田りら「Answer」を聴いてみると、のっけからボーカルの声が近く感じられ、柔らかく包みこむようなピアノや、それらを下から支える低音もバランス良く楽しめました。Official髭男dism「イエスタデイ(ONLINE LIVE 2020 - Arena Travelers -)」では、C500の音場がさほど広くないとはいえ、ライブ音源らしい音の広がり感がほどよく感じられます。

アリアナ・グランデ「positions」や星野源「恋」といった楽曲のビートもキレよく鳴らし、自然と身体が揺れ出してしまいます。ClariSの最新シングル「ケアレス」のカップリング曲となる「Bye-bye Butterfly」はシティポップ調のサウンドが持ち味の楽曲で、クララ・カレンの歌声を支える低音のリズムが主張しすぎず、それでいて絶妙なバランスで鳴っていて、「この手ごろさでこんなサウンドが聴けるのか」と思わずうなってしまいました。

  • ウォークマン「NW-A100TPS」と組み合わせたところ

基本的にバランスの良いサウンドで、特に目立つ味付けがされているということもなく、J-POPやロック、アニメソング、ジャズ、クラシックまでどんな音楽でもそつなく鳴らす印象です。音楽ストリーミングサービスなどの圧縮音源をCD音質相当まで補完する「DSEE」機能を備えているので、もし聴きたい楽曲がロスレス音源ではなくても、一定のサウンドクオリティまで引き上げてくれます。

ハイレゾ相当のLDACコーデックやDSEE HXには非対応で、AACコーデックまでとなる分、音質に関しては最上位1000XM4に譲る部分は少なくありませんが、それでも約1.1万円という買いやすい価格帯でこの音が手に入るのは、お買い得感がかなり高いといえます。

1万円を切る低価格な完全ワイヤレスにもNC搭載モデルが増えている中、WF-C500はNC非搭載というのはウィークポイントではあります。しかし、上位モデル譲りの耳にフィットする設計のおかげである程度は遮音されますし、どうしても気になるようであれば、(社外品にはなりますが)より遮音性に優れた市販のイヤーピースに差し替えるという手もあります。

完全ワイヤレスイヤホンを初めて買うけれど、どれを選べば良いのか分からない……と悩んでいる人がいれば、筆者は迷わずWF-C500をオススメします。店頭で実際に手に取って試してみるとよいでしょう。