横浜国立大学(横国大)は7月6日、減速機の構成要素を最適化することで動力伝達効率を高め、従来は不可能だった100:1を超えるような高い減速比の減速機でも逆駆動が可能となる「バイラテラル・ドライブ・ギヤ」の3回目となるサンプル無償貸出を2021年8月から開始することを発表した。
バイラテラル・ドライブ・ギヤ(BDギヤ)は、2015年度~2019年度にかけて、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施した委託事業「次世代人工知能・ロボット中核技術開発/革新的ロボット要素技術分野/高効率・高減速ギヤを備えた高出力アクチュエータの研究開発」の一環として、横国大 大学院工学研究院の藤本康孝教授らの研究チームが2018年に試作1号機を開発したものだ(横国大は、「高効率・高減速ギヤを備えた高出力アクチュエータの研究開発」を担当)。
BDギヤの基本構造は、複合遊星減速機構と同じ構造で、中心の歯車である太陽歯車と、公転する歯車の遊星歯車、さらに遊星歯車にかみ合って回転する内歯車から構成されている遊星歯車機構を同軸上に2段に重ねたものだ。
複合遊星歯車機構の長所である高い減速比のもとで大きなトルクを伝達できることにより、小型軽量化を実現。それに加えて各歯車形状を最も多く使われているインボリュート曲線とすることにより、低コストを可能としている。さらに、減速比を任意に指定しながらも、各歯車の歯数と転移係数を変数として動力伝達効率を最大化する自動計算ソフトも開発され、複合遊星歯車機構の短所である設計の難しさの解決が図られたという。
また減速機の1つである複合遊星歯車機構の動力伝達効率の最大化を図るため、歯車の歯数や転移係数などの構成要素を最適化。従来は不可能だった100:1(102.1:1)を超えるような高い減速比の減速機でも逆駆動を実現している。試作1号機の仕様は以下の通り。
- 順駆動動力伝達効率:89.9%
- 逆駆動動力伝達効率:89.2%
- 減速比:102.1:1
- 増速起動トルク:0.016N・m
- バックラッシ:20arcmin
- サイズ:φ54×27mm
- 重量:223g
ロボットの関節に用いるアクチュエータの開発を目的として、その重要なパーツとして開発されたのがBDギヤである。このような100:1を超えるような大きな減速比を持つBDギヤを組み込んだロボットでは、関節が外力に対して柔軟に動けるようになる。従来のロボットの多くに関節に使用されている減速機は逆駆動性が低く、人とロボットが意図しない接触をした場合、関節が外力に対して柔軟に動かないため、接触時の衝撃を吸収することが難しかったという。
最悪の場合、人がケガをする恐れがあったが、折しも日本は高齢化が進んでおり、ロボットの活用が期待されている。そうした中で安全性を確保するための要素として、ロボットの関節が外力に対して柔軟に動くことが求められているとする。
2019年10月、試作1号機の課題だった、歯車をかみ合わせたときのバックラッシ(歯面間の遊び)をなくし、ノンバックラッシとした2号機を発表し、精密位置制御用途にも対応したほか、試作2号機にモーターとモータードライバーが組み込んだモジュール化も実現。これにより、小型・高効率・高出力なロボット用アクチュエータとしての利用が可能となったという。
試作2号機を用いたアクチュエータの仕様は以下の通り。
減速機
- 減速比:74.9:1
- 順駆動効率:91.2%
- 逆駆動効率:90.7%
モーター
- 定格トルク:0.349N・m
- 回転速度:3970rpm
アクチュエータ
- 定格トルク:23.8N・m
- 定格出力:132W
- 重量:875g
- 寸法:全長83mm×奥行き68mm
減速機の負荷トルクの制御には通常、トルクセンサを出力側に配置する必要があるが、BDギヤでは、良好な逆駆動性により、出力側トルクセンサによる負荷トルクの実測値とモーター側エンコーダセンサによる負荷トルクの推測値が精度よく一致するため、モーター側から出力側のトルクを推定して制御することが可能であることから、出力側のトルクセンサが不要となっているという。
また、逆駆動による制動時の熱を電気エネルギーとして効率的に回収することで消費電力の削減にも成功したという。
さらに横国大ではBDギヤのサイズとしてφ16mmからφ116mmまでをラインナップしており、現在は、減速比47:1~1007:1という複数の試作機も開発されている。
3回目となる今回の無償貸出は2021年8月2日から実施予定。その貸し出しに向けた公募期間は7月15日から11月30日までで、貸出期間は3~5か月程度(評価内容によって決定)、簡易評価の貸出期間は1か月となっている。また、貸出を受けた場合は評価レポートを貸出期間終了後2週間以内に提出することが決まりとなっているという。
なお、貸出台数は10台程度で、その内訳は通常タイプが5台、ノンバックラッシタイプが5台。貸出先1か所あたりの貸出台数は2台まで。簡易評価の場合は通常タイプのみの貸出となる。また、貸出を受けるには、借用書などの記入が必要で、そのほかBDギヤの貸出プログラム要領など、書類一式がPDFで用意されている。これらは同大が2021年7月6日に発表したプレスリリースのPDF上からダウンロードすることが可能となっている。