横浜国立大学(横浜国大)と遠野みらい創りカレッジは6月14日、農業廃棄物であるホップの蔓から「TEMPO酸化型セルロースナノファイバー」を分離すると同時に、その構造を明らかにすることにも成功したと共同で発表した。

同成果は、横浜国大大学院 理工学府化学・生命系 理工学専攻の金井典子大学院生(日本学術振興会特別研究員)、同・大学院工学研究院の川村出准教授、遠野みらい創りカレッジの西村恒亮マネージャーらの共同研究チームによるもの。詳細は、米化学会の発行する「ACS Agricultural Science & Technology」にオンライン掲載された。

植物の細胞壁に含まれるセルロースから作られる超極細繊維であるセルロースナノファイバー(CNF)は低炭素社会の構築を牽引する次世代素材として、近年、注目を集めるようになっているが、現在は木材パルプからの製造が主流で、その製造コストが既存の炭素繊維などと比較するとまだ高いことが課題となっている。

ホップの毬花は、ビール製造に欠かせない原料の1つで、ビールの苦味や香りづけに利用されているが、ホップそのものは収穫期までに5m以上の長い蔓として成長し、たくさんの毬花が実る。しかし、毬花の収穫を終えると、蔓は農業廃棄物として焼却や埋め立てなどで処分されている。

このような農業廃棄物のホップ蔓について、新たな価値を生みだそうと模索し続けているのが遠野みらい創りカレッジだ。2020年8月に開催された地域高校生と大学生・留学生による地域課題探究・実験実証プログラム「イノベーション・サマー・カレッジ」でのディスカッションを起点として、SDGs達成に向けたホップ蔓からCNFを採取するというアイディアが浮かび上がった。そして、同様に廃棄物であるコーヒー粕からCNFを分離した実績を持つ横浜国大の川村准教授の研究チームと共同研究を実施することとなったという。

研究の結果、ホップ蔓には乾燥重量の40%以上を占めるセルロースが含まれることが判明。この乾燥片にTEMPO触媒酸化法を用いることで、CNFの分離に成功したという。

  • セルロースナノファイバー

    ホップ蔓の粉砕片と、ホップ蔓由来CNFの分離 (出所:共同プレスリリースPDF)

さらに、このCNFの構造解析が行われた結果、平均2nm径の均一なCNFが得られていることが判明したほか、木質素とも呼ばれる高分子化合物「リグニン」や、セルロースを除いた細胞壁の主成分である「ヘミセルロース」を除去する前処理を施した蔓からは不純物をほぼ完全に除去でき、CNFの結晶化度が上昇することも確認されたという。

加えて、構造解析ならびに熱重量測定が行われた結果、ホップ蔓由来のTEMPO酸化型CNFは、木材由来のTEMPO酸化型CNFと同等の構造的性質・熱安定性を持つことが判明。ホップ蔓は単位グラムあたりに含まれるセルロース含量が木材原料に匹敵することから、新規CNF原料としての活用により、ホップ産業における画期的なアップサイクルを確立できる可能性が示唆されたとする。

なお、今回の成果により、農業廃棄物であるホップ蔓がCNFの原料として十分に利用できる可能性が示されたと研究チームでは説明するが、実際にホップ蔓をCNFの原料として社会実装していくためには、さまざまな課題が残されているとしており、より効率的なCNFの抽出方法を構築すると同時に、高付加価値につながる新たな機能性の調査に向け、さらなる研究を推進する必要があるとしている。