名古屋大学(名大) 宇宙地球環境研究所(ISEE)は6月4日、カリフォルニア、フィンランド、スイスの樹木年輪の炭素14を分析することで、紀元前5411年から紀元前5410年にかけて地球へ到来した宇宙線量が急増していることを発見したと発表した。

同成果は、ISEE 宇宙線研究部の三宅芙沙准教授、名大 理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻の菅澤佳世大学院生らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学雑誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。

炭素の放射性同位体であり、5730年の半減期を持つ炭素14(陽子6個・中性子8個)は、宇宙空間においては2種類の方法で生成されることが知られている。通常は、超新星爆発など、太陽系外に起源を持つ高エネルギー粒子である「銀河宇宙線」によって作り出される。そしてもう1つは、太陽の表面における巨大な爆発であるフレア現象に伴って放出される「太陽光エネルギー粒子」(Solar Energetic Particle:SEP)だ。

ただし、炭素14は銀河宇宙線やSEPによって直接生み出されるわけではない。銀河宇宙線かSEPが大気圏に飛び込むことで二次的に生じた中性子が窒素原子に衝突することで生成される。そして生成された炭素14は大気中で酸素と結びついて二酸化炭素となり、地球の炭素循環の中で樹木に取り込まれていく。枯れたり伐採されたりして生命を終えた樹木は新たに炭素14を取り込まなくなるため、放射性崩壊で炭素14が減り、窒素の安定同位体である窒素14となる(陽子7個・中性子7個)。その残っている炭素14の量を調べることで、年代を測定でき、年輪などと合わせることで現代ではとても正確な年代を導き出せるようになっている。

これまで、この方式の放射性年代測定により、大規模な宇宙線増加イベントが発生した年代が確認されている。西暦775年、西暦993年、そして紀元前660年頃に宇宙線の強度異常が発生したことが確認済みだという。これらは、1859年に発生した観測史上最大の太陽フレアとして知られる「キャリントンフレア」の数十倍の規模だという。

なお、太陽系外の赤色矮星などで確認されているスーパーフレアが太陽でも発生している可能性もあり、今回発見された紀元前5410年のSEPイベントは、すでに確認されている3つのSEPイベントの炭素14変動と類似しており、巨大ESPイベントの発生が疑われるという。

また、このような宇宙線のわずか1年ほどの期間での大きな変化は、年輪だけでなく、氷床などにも記録されていると考えられることから、年代測定や層序学分野へタイムマーカーとしての応用も期待されるとしている。

  • 名大

    今回発見された紀元前5410年の宇宙線増加イベントと、これまでに見つかっている3つのイベント(西暦775年、西暦993年、紀元前660年頃)の炭素14濃度変動 (出所:名大 ISEE Webサイト)